サイボウズ チームワーク総研

CASE STUDY

  • TOP
  • 研修事例
  • 「院長にはもうついていけません」──3分の2の職員がやめるクリニックが、豊かで温かいつながりを築くまで

クリニックの風土づくり

「院長にはもうついていけません」──3分の2の職員がやめるクリニックが、豊かで温かいつながりを築くまで

医療法人社団翔志会 たけち歯科クリニック

takechi_1_764.jpeg

「院長にはもうついていけません」「もう疲れ果てました」と言って、過去には3分の2のスタッフが一斉に退職したたけち歯科クリニック。 マネジメントを一切知らない院長が、専門職のスタッフを力でコントロールする職場でした。

しかし、現在は「医療を通して、豊かで温かい人とのつながりを社会に築く」というパーパスのもと、スタッフ一人ひとりの能力を発揮して、チームワークあふれる経営をしています。

その変化のきっかけとは? 紆余曲折の試行錯誤とは?


「院長にはもうついていけません」──3分の2のスタッフがやめた日

武知さん:僕らの業界あるあるなんですけど、医療従事者ってマネジメントや経営を一切知らないまま、いきなり独立して開業するケースが多いんです。その中で組織をつくると、現場でいろいろ問題が起こるんですよね。いきなりマネジメントをすることになるので。


チームワーク総研:たとえば、どんな問題が起こったんですか?

武知さん:一番ひどかったのは、「院長にはもうついていけません」とスタッフから言われたことですね。15年ぐらい前の話で、当時はまだスタッフが十数人の小さな医院だったんですけど、「もう疲れ果てました」と言って、3分の2のスタッフが去っていったんです。


takechi_2_764.jpeg
武知幸久(たけち・ゆきひさ)さん。たけち歯科クリニック 理事長 1989年徳島大学歯学部卒後、1997年たけち歯科医院を開業。痛みに配慮した治療と患者様との信頼関係を大切にしている。

チームワーク総研:それはショッキングな出来事ですね。

武知さん:そこからマネジメントを学び始めたんですが、書物で学べるのは「こういうふうに話したらうまくいくよ」とか、「こういう制度を入れたらうまくいくよ」っていう、ハウツーが多くて。それを試行錯誤しても、本質的なところが変わっていないから、何度も同じ失敗をしてしまったんです。

それでも、少しずつ実践したものの、離職率は相変わらずで。毎年、3人に1人はやめていく状況でした。業務が回らないんですよね。


チームワーク総研:当時は、スタッフの方に対してどんな関わり方をされていたんですか?

武知さん:一言で言えば「コントロールする」って感じですね。スタッフが思い通りに動いてくれないと苛立っちゃって、「なぜできないんだ!」と叱ってしまったり、強制することで行動を変えようとしてしまったり。

それでも、一応は付いて来てはくれていたんですけど、僕の中では、それが次第に甘えに変わっていくわけですよ。言うことは聞いてくれるし、「まだ、言っても大丈夫だろう」みたいな。


チームワーク総研:甘え......

武知さん:結局、そこに耐えかねた人たちが離職したってことなんですね。 僕は、スタッフに依存していたんです。


チームワーク総研:依存していたということに、気づくタイミングがあったんですか?

武知さん:当時は、「自分は悪くない」っていう立ち位置だったんですが、後になって気づいたんですよね。「結局、すべて自分が引き起こしていたんだ」ということに。

その、もっとも気づきになったのが、3分の2のスタッフがやめた時ですよね。あれはつらかったですね。「もう、2度と引き起こしたくない」と思うくらいの痛みだったんです。



スタッフからの本音「フルボッコで痛かった」経営塾

チームワーク総研:サイボウズ チームワーク総研とご縁をいただいたのは、どういったきっかけで?

武知さん:実は、以前よりサイボウズ Officeを使っていたんですよね。


チームワーク総研:というと、最初はITのツールからだったんですね?

武知さん:そうなんです。あるとき、チームワーク総研からDMが届いたんですよね。たまたま開いたら、「チームワーク経営塾をやります」みたいな案内だったんです。「経営塾って何だろう?」と思ったものの、僕は反応するのが早いので、「これだ!」と思って速攻申し込んだんです。


チームワーク総研:ちなみに、サイボウズはチームワークを大切にしている会社だっていうのはご存知だったんですか?

武知さん:いや、全然知りませんでした(笑)

経営塾に申し込んだあとで、書籍をいくつか読ませていただいて。「これは、いいタイミングで申し込ませていただいたな」って感じでした。


チームワーク総研:経営塾に参加されて、率直に、どんなふうに思われましたか?

武知さん:すごい新鮮でした。講義の内容もそうですが、「ここまで、制度やチームワークに関して熱く語るのか」と。おおいに刺激をうけました。


チームワーク総研:たとえば、どのあたりが刺激になりましたか?

武知さん:一番は、当時副社長だった山田さんの関わりですね。「社員一人ひとりと話す」など、簡単なようで、根気のいる作業だと思うんですよ。よくそこまでスタッフの方々に関わってこられたなーって。

あと、経営塾のなかで、スタッフから普段抱えているモヤモヤを聞くっていうワークショップがあったんですけど、生の声はありがたい半面、言われることに慣れてないから、フルボッコにされた感じが痛くて(笑)



お互いに気を遣っていたのが「何でも言い合える関係」に

チームワーク総研:経営塾には栗木さんも参加されていらっしゃったんですか?

栗木さん:はい、参加していました。

わたしが一番刺さったのは、弱みを見せ合うワークです。わたしは「仕事って、ちゃんとやらなきゃいけない」っていう責任感が強く働くタイプなんですけど、「隠さなくていい」とか、「なんでも言い合える」とか、「弱いところを補って強みを伸ばせる」っていう。それは、わたしの中では衝撃的でしたし、「確かに、そうやって働けたらいいよね」って思いました。


takechi_3_764.png
栗木千明(くりき・ちあき)さん。経営戦略室リーダー、ドクターマネージャー。保険会社を経て2017年たけち歯科クリニックに。経営戦略室と診療室との架け橋となり、管理業務を行う。また、渉外・リクルーターとしても活動。

チームワーク総研:武知さんにフルボッコ的なことを言うって、どう思っていましたか? あるいは、言ってみてどうでしたか?

栗木さん:わたしの感覚では、それほどフルボッコにした感覚は......(笑)

「普段、どういうふうに武知先生が考えているのかな?」とか、「この医院をどうしたらよくできるかな」っていうのは、わりと自分なりに考えていた方だと思ってたんです。でも、経営塾の中で、武知先生の言ってることが分からなくて。

「武知先生とわたしたちの考えが違うかもしれない」みたいな感じがして、すごくモヤモヤしたので、経営塾が終わった日の夜、武知先生とメチャクチャ話をしたんです。武知先生が考えていることの根っこがどこにあるのか、それを、何度も何度も問い続けて、答えていただいたきました。

もしかしたら、それがフルボッコだったのかもしれませんが(笑)


チームワーク総研:そうかも(笑)

栗木さん:でもある瞬間、「あっ、先生が言いたかったことって、こういうことなのかな?」って、すごく腹落ちしたことがあったんです。うまく言語化できないんですけど、雲が晴れるような感じというか、目の前の視野が広がるというか、明るくなる感じがして。

そして、先生とシンクロしたみたいな感覚になって、なんだかジーンとしたんです。あの瞬間を味わえたのは、わたしの中ではめちゃめちゃ大事でしたね。何よりもかけがえのない時間でした。


チームワーク総研:感覚的に、何かが繋がったような感じがしたんですね。

武知さん:その経験によって、いままでより一層深いところで本音を言い合えるようになったと思うんです。弱みって見せるって、本当は嫌じゃないですか。でも、全部見せたわけですよ。それがあって、真意が伝わるようになりました

「本当のチームワークって、こういうことなんだろうなー」って経験でした。


チームワーク総研:武知先生にとって、「本当のチームワーク」とは?

武知さん何でも言いあえる感じですかね。家族みたいに。一方通行ではなくて、ちゃんと受け止められる感じ。経営塾に行くまでは、お互いに気を遣ってた気がするんです。だけど、それがなくなった印象です。よく、安心安全って言うじゃないですか。すごく大事ですね。

経営塾の後からは、何でも言ってくれるし。僕も何でも言うし、お互いそれを理解できるようになりました。本当の意味で、1つの目標に向かってリアルに協働できるようになった感覚ですね。


takechi_4_764.jpeg


クリニックでは「宗教っぽい」と言われて

チームワーク総研:経営塾が終わってから、スタッフのみなさんとはどんな関係を築いていったんですか?

栗木さん:経営塾が終わって、わたしたちはチームワークで1つに繋がった感じがしていたんです。そのテンションのままクリニックでやろうと思ったんですが、一部のスタッフから「みんなで同じ方向を向くとか、宗教っぽくない?」とか(笑)

いまから思えば、いまの居場所がいいスタッフにとっては、変わることは恐怖だったんじゃないかと思うんですよね。「いまのままでいいんじゃない?」っていうか。

だから、1on1を取り入れようとしても、「心が疲れている人が受けるものでしょう?」みたいな。新しいことを導入していくことに対して、受け入れてもらいにくいところがありました。最初はそこが、辛かったですね。


チームワーク総研:改革をしようとする多くの人が感じる辛さかもしれませんね。

栗木さん:院内でワークショップのファシリテーターをつとめたときも、「めちゃめちゃしんどいわ」と思いながらやりました。

でも、武知先生が「絶対にやる」っていう信念と覚悟を見せてくれました。誰にも分かる形で。それが伝わってきたので、できたんだと思います。


チームワーク総研:武知先生の信念と覚悟が伝わったんですね。


「最近、クリニックが変わったなぁ」と思った瞬間

チームワーク総研:ちなみに、さまざまな試行錯誤をして行く中で、「以前とは変わってきたなぁ」って感じたのは、どういうときでしたか?

武知さん質問責任と説明責任が浸透したときですね。あと、事実と解釈も。いまはもう、共通言語になっていて、日常の会話になっています。それが、「変わったな」と思うところですね。


チームワーク総研:どういった取り組みをされていて、共通言語化されたんですか?

武知さん:サイボウズさんで学んだことを、クリニック内で研修したんです。僕とか栗木が話して。あと、新入社員研修でも、経営塾にに参加したメンバーが必ず伝えています。今年は新入社員が多かったので、「もう、サイボウズさんにお願いした方がいい」ということで、研修を依頼したんです。


takechi_5_764.jpeg

栗木さん:わたしがスタッフにレクチャーするのもいいんですけど、サイボウズさんにお願いしたことで、頭の理解だけではなく、わたしたちが経営塾で体験した「腹落ち感」を感じてもらったのがよかったなと思います。


チームワーク総研:栗木さんが、普段、業務を行っていらっしゃる中で「以前とは変わってきたなぁ」って思った瞬間ってありますか?

栗木さん:1つは、ささいなことでもkintoneでやり取りされるようになってきたことですね。

いままでだったら、「誰かがやってくれるだろう」って、多分放置されていたことが、「〇〇がこうなってますよ。気を付けてくださいね」とか、「〇〇の場所、□□に動かしましたよ」みたいに、細かいところまで共有しようとする行動は、いままでだったら絶対ありえなかったんです。


takechi_6_764.png
「ささいなことでもkintoneでやり取りされるようになってきた」たけち歯科クリニックのkintoneでの情報共有

栗木さん:もう1つは、いい意味で、時間に縛られずに「やるべきことはちゃんとやろう」という文化になってきたことですね。いままでだったら、「定時だから、みんなもう早く帰ろうぜ」みたいな空気だったんです。


チームワーク総研:そういう職場は多いですよね。

栗木さん:でもいまは、「これはいまやらないと」って感じになっています。

また、いままでは、スタッフ同士の関係が「表面上の仲のよさ」みたいなところがありました。「裏では何を言っているか分からない」みたいな。でもいまは、「言わないといけないことはちゃんと言う」みたいに変わってきました。

一人ひとりが「役割を果たさないと」という想いがすごい伝わってくる。そのあたりが本当に変わったなーって思います。



「変化を浸透させたもの」は何か?

チームワーク総研:お話いただいたような変化を、多くの企業でも期待していると思います。でも、そこまで浸透するのは、難しいこともあるなと。いま思うに、何が功を奏したのでしょうか?

武知さん:それはもう、経営塾で聞いた、情報の透明性の大切さもありますが......

(しばしの沈黙)

わかった! 実は途中で、情報共有ツールとしてkintoneを導入したんですよ。コミュニケーションをもっと活発にしたかったんです。

kintoneには情報を共有するスペースもあれば、アプリもある。いろいろなところで情報のやりとりがされることで、コミュニケーションが活発になり、必要な情報が取れるようになりました。そこが大きいですね。


チームワーク総研:なるほど。 情報の透明性に関する経営塾での知識と、kintoneを導入したことによって、ツール面でも情報共有がやりやすくなったんですね。


スタッフ一人ひとりの個性と能力を社会へつなぐ

チームワーク総研:では最後に、今後、たけち歯科クリニックを「こんなふうにして行きたい」っていうのはありますか?

武知さん:僕たちのパーパスは「医療を通して、豊かで温かい人とのつながりを社会に築く」なんです。これ、スタッフの一人ひとりが自分らしさを生かしていかないと作れないって思うんですね。

スタッフの一人ひとりが、社会に対してどう自分を生かしていくかっていうのは、その人の持っているものを職場が引き出すような、仕組みや考え方が必要になってくると思うんです。

ひとむかし前だったら、「歯科の仕事はこうだ。それにあなたは適合してください」って感じでしたけど、いまはそうじゃないですね。スタッフ一人ひとりの興味や関心、能力を活かしていく。それがやがて社会に還元されて、人がつながっていくって思っています。

そういう意味では、やることがまだまだたくさんありますね。「本当は〇〇を言いたいんだけど我慢している」とか「本当は〇〇をしたいんだけど、言えずにいる」とか、普段抑えているスタッフ一人ひとりの可能性を解放していきたいんですよ。


チームワーク総研:具体的には、どんなことに取り組んでいかれるんですか?

武知さん:近々、クリニックの近くに分院をつくる予定です。スタッフが本来持っている力を出せる、活躍できる場所を作りたいんですよね。

また、歯科医や衛生士さんは専門職ですが、女性が生涯、歯科の仕事を本業としてやっていくのは、結婚・出産などのライフステージの変化があるから難しい。家庭や子どもを持ちながらも活躍できる職場をつくることが目的の1つです。そういうチャレンジもしていきたいと思っています。


チームワーク総研:スタッフの方がそれぞれの個性を生かして、生涯活躍できる場を作っていきたいんですね。

武知さん:そういう働き方ができると、患者さんに提供するものがよりよくなると思っていて。だから、自分がどれだけハッピーでいられるかが大事だと思っています。


チームワーク総研:栗木さんはいかがですか?

栗木さん:わたしはもともと、管理栄養士のキャリアがあります。そこを、歯科業界でも普及したいな思っていて。

「わたしは歯科衛生士だから衛生士の仕事しかしません」ではなく、資格を飛び越えて、自分の可能性をどう活かすか。それを、自由に選べることが大切なのではないかと思っています。

わたし自身、管理栄養士とは関係ない渉外やリクルーターの仕事をしていて、とても楽しい毎日を過ごせています。外に出てみて、初めて自分の価値が分かることもある。その道筋を何個か作って、「こういう道もあるんや」「それなら、これやってみたい」っていうのが実現できるような形を作りたいですね。


チームワーク総研:外に出ることで、自分の価値が広がる感じですね。

栗木さん:それこそ、経営塾の方のご縁で、いま、歯科業界とは全然関係のない業種の方と、コラボの話が進んでいるんですよ。そうした、新たな何かを作っていけることが本当に楽しい。いまのスタッフが働いていて、「楽しいな」「良かったな」って思う種の1つになるのかなって感じていて、その花が、いま、開きそうな感じです。