成果を出すチームとは(9)──私だけの色が輝くとき、"働く"がもっと"楽しく"なる
白黒の社会からの脱却
コンサルタントとして多くの企業を見ていて筆者が感じた日本のビジネス社会は、一人ひとりの色(個性)が見えない「白黒」の世界だった。思いを持って会社に入社した多くの人が、会社という箱の中で個性を隠し、疲弊している姿を見てきた。「組織の和を乱さないために言いたいことをできるだけ言わない」「やりたいことがあるけど自分の役割ではないからやらない」など、自分らしく働くことが難しい現状がそこにはあった。
広く社会を見渡すと、自分らしく生き生きと働く人々やメンバーの強みや個性を生かして成長している企業も存在していた。
この違いは一体どこにあるのか。今回は、「一人ひとりの個性の生かし方」にフォーカスを当てながら、これからの時代の理想の働き方を探求していきたいと思う。
「みんなと同じになるための競争」
米ハーバード教育大学院で心/脳/教育プログラムを主宰する心理学者であるトッド・ローズ氏は、著書『ハーバードの個性学入門:平均思考は捨てなさい』(早川書房)の中で現代社会について次のように述べている。「平均という気まぐれな基準が制度の設計や研究に採用されているおかげで、自分も他人も偽りの理想像との比較を強いられている。(引用ママ)」。
私たちの社会には「平均」や「標準」と言った基準というものが数多く存在している。これらの考え方は、学校教育の中でのテストの点数からビジネス社会における評価制度、あるいは平均貯蓄額や平均結婚年齢などといった社会的な仕組みにまで広がっている。そしてこの考え方は、私たちにいかに学習の遅れがちな子どもにならないか「平均・標準以下になっていないか、ズレ過ぎていないか」といった思考を生み出してしまう。(図1)
一体全体この考え方は、どのように世界に広がり、学校や企業における基本となっていったのか。ローズ氏は、「この疑問への鍵を握るのは、ブレデリック・テイラーという一人の男性である」と述べている。
フレデリック・テイラー氏は、19世紀から20世紀初頭にかけて活躍した米国の技術者・経営者であり、世界初のコンサルタントとも呼ばれてる。彼は科学的管理法という考えを提唱し、労働者の動作を分析し、生産性と効率を最大化する方法を追求した。このアプローチは、当時の産業界に革新をもたらし、労働者の生産性向上や組織の競争力強化に大きく貢献した。
しかし、この考え方によって、ありとあらゆることを標準化することが、働き方を決める理想となり、就業規則や作業指導書(業務マニュアルなど)が生まれ、それを管理するためのマネジャーと指示通り実行する労働者が生まれた。また、この考えは教育分野にも応用され、画一的な教育を推し進める一助にもなった。
新しい時代の働き方をデザインする
平均や標準化の考え方そのものは決して悪いものではない。均質的な物を大量に生産することや、成功したモデルを定型化して一律な成果を生み出すためには非常に便利なものになる。しかし、日々目まぐるしく変わる経済環境の中でイノベーションや新しい価値の創出を必要とし、そのための多様なアイデアが求められる現代社会においては、平均や標準化された考え方だけを元に働くことには疑問を抱かざるを得ない。
果たして、今私たちに求められる働き方デザインとはいったいどのようなものなのか。筆者はそのヒントが、一人ひとりが持つ色、つまり「個性の発揮」であると感じる。
全ての人は、独自の色(個性)を持つ。しかし、これまでに培われた「平等を求める固定観念」、「再現性を求める働き方」、「出る杭を打つ慣習」などによって、それらの色が隠されている。(図2)
これらを隠すことなく組織の中でオープンにし、チームの中でつなぎ合わせることで、新しい時代の働き方がデザインできるのではないだろうか。
では、個性とはいったい何なのか。「個性」という言葉にはさまざまな解釈があるが、一般的には「人を他者と区別する独自の特徴や資質の集合体」のことを意味する。つまり、個性とはその人そのものであり、スキルや性格、価値観などその人が持つさまざまな要素である。職場の中で個性を生かすには、以下の3つのステップを意識することが大切になる。
1.一人ひとりの個性を共有し合う、認め合う
標準をベースとした組織の中では、個性を共有し合うことは非常に少なく、組織の中の等級や役割、評価指標とのギャップの話がメインとなっている。個性を生かすチームにするためには、まずは互いの個性を理解し合うことが重要である。定期的なチーム内のコミュニケーションや個別面談を通じて、メンバーの個性を積極的に共有し合い、認め合う時間をつくることである。
2.チームの理想を元に役割分担を話し合う
互いの個性が共有できたら、チームの目指す理想や具体的な役割に応じて、それぞれ個性を元に役割の調整を行う。ここで大切なのは、単に強みだけをつなぐのではなく個人の興味や価値観なども踏まえて、役割について話し合うことが重要である。指示ではなく、対話の中で役割分担を考えることが、業務に対する納得性を高め、自発的な行動を促す重要なポイントになる。
3.個性発揮の成功事例を創り、社内外へ発信する
最後が、取り組みの中で出てきた個性発揮の成功事例を大切にし、社内外へ発信していくこと。個性を共有し合い、業務を行っていくと、個々の仕事の中に「らしさ(その人がやったからこそできた新しい成果など)」が出てくるようになる。
筆者がコンサルティングのサポートをさせてもらったある企業の研修部門では、「前職で培った力を生かして研修動画を撮る"ラジオDJ"の誕生」や「得意を生かした日本初の"食とアロマの研修"実施」「今までにないワクワクする"新入社員ウェルカムパーティー"の開催」など、通常通りの業務では起きなかった新しい取り組みが起きるようになった。
こうした、個性発揮の事例を大切にし、社内外へ発信していくことで、個性を生かし合う風土が醸成されるようになる。
個々の特性や強みを最大限に生かし、異なる視点やアプローチを組み合わせることで、より創造的で成果の出るチームを作ることができる。
「生かせる個性が無い」への処方箋
このような話をすると決まって質問されることがある。それは、「チームで生かせる個性が無い場合はどうしたらいい」という質問である。前述のように個性には、さまざまな要素があり、その人の個性をチーム内の役割とつなげることは容易ではない。そんなときは、キャリア研修などでよく使われる「Will(やりたい)/Can(できる)/Must(やるべき)」のフレームを使ってみるのをお勧めする。
このフレームをサイボウズでは、モチベーション3点セットと呼び「3つの重なりをつくることでモチベーション高く働くことができる」と説明している。個々のメンバーがこのフレームを使い3つの円の重なりを考えチーム内でフィードバックし合うことで、自分の個性をどうチームの中で生かせるかを調整しやすくなる。(図3)
自己受容と自分らしさの探求
皆さんは、絵本『わたしはあかねこ』(文溪堂)をご存知だろうか。この絵本はほかの猫たちとは異なる毛の色で生まれたあかねこの物語である。変わった個性を持って生まれたあかねこは、お父さんやお母さん、兄弟たちから心配され、毛の色を変えようとされてしまう。しかし、自分の色が好きなあかねこは、自分らしさを理解してもらえない疎外感から家を飛び出して旅に出る。そして、旅の中で自分に近い境遇のあおねこと出会い、幸せな結末へと続く。
この絵本からは、ほかと違う自分を受け入れる自己受容の大切さや、自分らしさを探求するために一歩踏み出す重要性を感じることができる。モノや情報があふれ、大切なものを見失いがちな現代だからこそ、自分の色(個性)を受け入れ、輝かせられる場を探していってほしいと思う。
※この記事は、日刊工業新聞の連載記事になります。
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著者プロフィール
新島 泰久也
「人と組織の発達を支援する」が信条。元経営コンサルタントとしての経営目線と、サイボウズの「チームワークメソッド」を織り交ぜ、「チームワーク経営(チームの生産性とメンバーの幸福が両立する経営)」の実現を目指す。 Coloring Lab.代表。一般財団法人 日本アロマ療法創造機構 専務理事。