「働く幸せ」の背景に「情報共有の質」への配慮──働く幸福度が高い人へのインタビュー調査から
近年、ウェルビーイングへの注目が高まっています。私たちサイボウズも、チームの生産性だけではなく働く人の幸福度が高い状態にあることを目指し、チームワークの研究・推進を続けています。
今回、「働く人の幸福度向上」に関するヒントを得るため、現在幸福度が高い状態にある方々にインタビュー調査を行いました。
《 調査結果のサマリ 》
《 調査概要 》
◆目的:
①働く幸せの種類や、働く幸せを認識するきっかけを知る。
②働く幸せへの、ITツールを介した情報共有の影響を知る。
◆方法:定性調査(デプスインタビュー)
◆インタビュー期間:23年11月1日(水)〜11月13日(月)
◆インタビュー対象者:9名(図表1)
チームワーク総研メールマガジン読者のうち、
・ 組織で働いているビジネスパーソンの方
・ 現在、働く幸せ度が高い方
※はたらく人の幸せ/不幸せ診断(株式会社パーソル総合研究所)を活用した事前アンケート回答者173名から選出
働く幸せ、「自分らしさの発揮」「貢献しあう関係性」など全部で5つの要素が確認。 生産性に影響
はじめに、働く幸せとは何か?について聞いたところ、5つの要素が抽出されました。(図表2)※1人にとっての働く幸せが5要素すべてを含む、ということではありません
「自分らしさの発揮」
価値観に合う仕事をできている、自己の得意領域を知っている。「貢献しあう関係性」
仕事を進める上で、支えたり支えられたりといった関わりを実感できる人がいる。相手は部署内に限らず、他部署、協力会社、お客様、など多岐にわたる。「上司の承認」
上司からの信頼や期待を受けている。「仕事の達成・成功」 「裁量・働き方」
また、働く幸せは生産性に影響しているか?についても聞きました。「影響する」「自分にとっての働く幸せが無いと、パフォーマンスが下がる」との回答が多数を占めました。
働く幸せは、周囲の声かけやアクションで実感
次に、働く幸せはどのようなタイミングで実感するのか?を聞きました。(図表3)
1つには、「周囲の人からの声かけ」が上がりました。具体的には「できるなら、やってみない?」といった得意分野に対する働きかけや、「相談に乗っていただいたおかげで、一歩踏み出せました」といった、自身の貢献を認識できる内容です。
もう1つには、「依頼される」「伝播する」「フォローされる」といった、「周囲のアクション」が上がりました。仕事の価値が認められ再び依頼をされたり、自身の取り組みを参考にする姿を目にしたりといった周囲のアクションを受けることで、自身の行動が周囲に響いた・役立ったことへの実感につながっています。
働く幸せは、例えば表彰されるといった特別な出来事まで行かずとも、日頃の職場環境の中にこそ実感できる機会がありそうです。
ITツールを介した情報共有が「働く幸せ」に影響。
相手を考える「情報の質を高める意識」がポイント
自身の働く幸せに対し、「ITツールを介した情報共有」が影響しているかどうか?について聞きました。情報共有とは、チームの誰もが、いつでも・どこでも同じ情報を得られるよう、オンライン上に情報を公開することを指します。今回の調査では、具体的にイメージしやすいよう6項目に分けて示し、「自身の働く幸せに関わりがある」と思うものを上げてもらいました。
《 提示した6項目 》
(情報共有の手段)コミュニケーション(非同期、居場所を問わない)
※ここでいうコミュニケーション手段とは、チャットやメール、Web会議システム、グループウェアが入ります。公開での情報共有(掲示板など、不特定多数への発信) (情報共有の内容)ノウハウ共有・組織知(情報ストック:作成資料など) 業務報告 業務相談 他メンバーの状況(予定、忙しさ、業務進捗など)
過半数の方が上げたものとしては、「コミュニケーション」9名全員、「ノウハウ共有・組織知」8名、「業務相談」6名、「各メンバーの状況」5名 となりました。(図表4)
図表4の「日頃の留意点・関わる理由」からは、共有する情報の質へのこだわりが見られました。「コミュニケーション」では相手を尊重するやり取りが留意されていたり、「ノウハウ共有・組織知」では全体へのメリットが意識されたりしていました。「業務相談」では、相手の立場に立った配慮、「各メンバーの状況」では、予定・進捗よりも、相手の価値観の確認や、心配を抱えていないかといったことへの関心が見られ、事務的に情報を共有する以外の配慮が為されていた点が特徴的でした。
働く幸せに関わる情報共有として、ITツールそのものの利点である「いつでも・どこでも・誰とでも」という点を活かしながら、「必要な時にすぐ」「相手の思いを大切に」「全体に生かすには」といった「情報の質を高める意識」がありそうです。(図表5)
まとめ
今回の調査では、働く幸せを感じている方々に、その幸せの具体像と、情報共有の関わりについて聞きました。
働く幸せとしては、「自分らしさの発揮」「貢献しあう関係性」「上司の承認」「仕事の達成・成功」「裁量・働き方」が上がりました。自分の価値観や強みを知り生かし、上司や同僚、周囲とのつながり・情報共有の中で、持てる力を発揮したり助力を受けたりしながら邁進できている状況が、幸せと捉えられています。当然ながら、これらは仕事に活かす方向での要素であり、生産性にとっても必要なものと受け取られていました。
また、働く幸せに「情報共有」が関わることが見えてきました。それは単にITツールでやり取りができているという状態ではなく、ITツールの利便性を活用することに加えて、共有する相手や全体の存在を見据えた情報内容への配慮が為されているものでした。
働く幸せが生産性にプラスに作用する、という仮説に立てば、幸せを高めやすい職場環境に整えるということは、組織の考え方として有効では無いでしょうか。日頃から、メンバーの多様な強み弱みに興味を持つ、話をしやすい関係性を築く、自主的に行動し相手と協力する姿勢をもつといった環境に近づけることで、一人ひとりの働く幸せを生み出すことにつながるかもしれません。
著者プロフィール
三宅 雪子
チームワーク総研研究員・編集員。組織におけるチームワークを探求。働く人の強み・魅力を引き出し、人と人との関わりをチームの生産性へつなぐ道すじを探る。