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成果を出すチームとは(10)──「できること」を増やし、「やる気」への好循環を生む

これまで、「チームに必要な5つの要素」に沿って、理想のつくりかた、役割分担のしかた、情報共有のしかたと効果について紹介してきた。今回は最後のモチベーションを上げるコツについて具体的に説明していく。

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モチベーションとテンションは違う

モチベーションという言葉を私たちはよく使う。そこで、あらためてその仕組みについて解説したい。モチベーションとは「理想を実現するためのやる気」のことだ。

分かりやすい例を使うと「筋肉をつけたい」「合格したい」「売り上げを上げたい」といった「必ず実現したいもの」があるときにモチベーションは生まれる。逆に「必ず実現したいもの」がないときは、モチベーションは湧かない。

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注意すべき点は、「モチベーションとテンションは違う」という点だ。例えば、よく「今日は雨が降っているからモチベーションが上がらないな」とか、「体調が悪くてモチベーションが上がらない」といった表現をしがちだ。

だがこれは、モチベーションではなく、個人の「テンション(気分や気持ち)」の話だ。モチベーションとは、あくまで「理想を実現するためのやる気」なので、筋肉をつけたいなら、雨が降っていても屋内でできることをする、といったように、実現したいものがある限りモチベーションはあり続ける。

モチベーションを理解するには一時的な"気持ち・気分"ではなく、"やる気"に焦点を当て、分けて考えることが必要だ。

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図1について、目にしたことがある人もいるだろう。このフレームをサイボウズでは、「モチベーション3点セット」と呼んでいる。「やりたいこと」は、自分の理想であり、モチベーションの源泉だ。「できること」は自分の能力・スキルのこと、そして「やるべきこと」は仕事、つまりチームの理想を実行することである。

商売をするには、「やるべきこと」と「できること」が重なっていれば可能だ。やるべきことがあり、それをできる人がいれば、そこにお金が発生する。顧客がいて提供できる人がいればそれで商売は成立するわけだ。

一般的にこのフレームは、図のように3点の重なりをつくることが大事と言われている。求められていることが自分のできることであり、かつやりたいことであればハッピーかつモチベーションも高い状態だということである。

しかし、大抵の場合はそううまく重ならない。「求められているからやっているけど別に自分のやりたいことではない」とか、「やりたいからやっているけど誰からも求められていない(好きなことをやっているだけ)」とか、「やるべきことであり、やりたい気持ちはあるけどまだ自分にはスキルが足りない」といった感じで、三つが交わることが少ないのが現実だ。ではどのようにしたら、三つが重なり、モチベーションが高い状態になるのか。それは、「できることを増やす」ことである。

私たちは幼いころから、自分の夢についてや「やりたいことは何ですか?」と聞かれることが多い。そのため、やりたいことがないとダメな人間のように思いがちである(そのため、この質問は極力世の中から減らしたい)。一方で、私たちは、人から「ありがとう」と言われると嬉しい。今の自分が「できること」で、人の役に立てたからである。

できることを増やすことは、自分の選択肢を増やすことにつながる。選択肢が増えて、そこから自分で選ぶ(決める)ことで主体性が生まれていく。主体性が生まれるとやる気が出て、「やりたいこと」も見えてくるようになる。この「できることを増やす」ことから始まるサイクルを回すことが、やる気を生むコツなのである。

部下が何をやりたいかが分からないといった悩みは管理職に多い。その場合は、大抵「やりたいことはある?」と直接聞いていることが多い。私たちは、「やりたいことはある?」ではなく、「どういうできることを増やしたい?」と聞いてみるのを推奨している。

部下それぞれ、「こういうことができるようになりたい」というものは持っている。「できること」が「やりたいこと」かどうかが分からないから答えられなかったり、「やりたい」と伝えることで余計な仕事を増やしたくないと思ったりしている場合が多い。どういう「できることを増やしたいか」を聞くことで、部下に改めて考えてもらおう。そして、それを支援したいという上司の気持ちを伝えると、部下の安心感とあなたへの信頼感は高まる。

仕事のゴールを明確にする

部下がモチベーション高く働ける状態をつくるのが上司の仕事だ。モチベーション高く働ける状態とは「必ず実現したいもの」があるときに可能となる。これまで記載してきた「チームには理想が必要」、「自分の得意と苦手を明確にしておこう」といった話は、このモチベーションの話にもつながる。人間は理想に向かって行動する生き物である。自分の目指すものが明確であることが必要なのだ。

自分のやっている仕事が、何の、もしくは誰の役に立っているのかわからないことは苦痛だ。上司がそうしたことを明確に示してくれないから不安だという部下側の悩みは、どの組織でもある。この仕事はどういう流れのなかの、どの部分のことをしているのか、それが分かるようになると仕事が面白くなってくる経験はみなさんにもあるだろう。そうした面白さをぜひ部下にも味わってもらおう。「この仕事はこうなったらゴールだ」と到達地点を伝えることは上司の役割だ。

①全体像を示す ②到達点を伝える それだけで部下の顔色は変わってくる。

また、部下から「こうしたい」という意見が出てきたら当然それを尊重、優先する。部下の「得意」や「やりたい」を優先し、それを持って成果を出すことは、彼らの自信と成長、成功体験となる。それを支援する上司、支援してくれた上司のことは一生忘れないものだ。

部下の仕事が「作業」になっていないか、確認してみよう。作業で出るチームの成果には限界がある。目先の仕事だけやってもらえばいいという考えはかえって組織やチームから人が離れていく原因となり、良いチームにはならない。

「自分でやったほうが早い」を生まない

最後に、チームで仕事をしているときに起こりやすい現象を一つ紹介する。「自分でやったほうが早い」という言葉を何度か耳にするようになったら、チームとして危ない兆しだと捉えたほうが良い。マネージャー自身がそう思うこともあるだろうし、メンバーの誰かが言う場合もあるだろう。なぜそうなるとダメなのか――それは、その仕事の限界値がその人の限界値になるからである。

私たちがチームで仕事をしているのは、一人ではできないことを達成するためだ。すべて一人でできるなら課や部はいらない。私たちは一人ではできない目標・理想を実現するために日々働いている。自分でやったほうが早いという思考は仕事の属人化を生む。仕事が属人化すると、同じことをできる人がいなくなり、その人の限界値がその仕事の限界値になる。つまり、その人の能力やスキル以上の成果が出せなくなるということだ。これは結果としてチームになる意味すら否定しているに近い。

自分でやったほうが早いと思うことは必ず誰しもあるが、それが何度も起こらないことが大事である。そう思いながらやり続けることは特定の誰かに負荷がかかるだけであり、誰かに負荷が偏っている状態は組織として脆弱な状態である。この言葉がチームメンバーから出てきたときは、役割分担や業務の見直しをし、再度チームを最適に戻すチャンスと捉えて部下と「対話」をしてみてほしい。「管理」ではなく「対話」をすることがマネージャーの仕事である。

※この記事は、日刊工業新聞の連載記事になります。


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著者プロフィール

なかむらアサミ

チームワーク総研 シニアコンサルタント。様々な組織のチームワークを良くするためにチームの正しい定義を伝えています。