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成果を出すチームとは(4)──「役割分担」と「情報共有」

以前掲載した成果を出すチームとは(1)──サイボウズが「働きやすい会社」になった背景において、「チームに必要な5つの要素(図1)」を紹介した。チームは「理想を実現するための集団」である。そのため関わる人が同じ理想を持つ必要がある。要素の1番最初にある「理想をつくる」とは「チームメンバー全員が腹落ちしている理想」をつくることだと伝えた。今回は、5つの要素のなかの「役割分担」と「情報共有」について、具体的に何をすればよいかを記載する。

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役割分担は苦手の共有から

チームの定義において、理想設定の次に大事なのが役割分担だ。協働作業には役割分担が欠かせないが、一度分担したらずっとそのままの場合と、状況に応じて役割が変わる場合とがある。大事なのは、「本人がその役割に納得しているかどうか」だ。

サイボウズの新入社員研修で必ず行うプログラムがある。「チームワーク創造メソッド」と呼ばれるそのプログラムは、自分の「得意と苦手」を把握し、自分の苦手を補うためにどういう強みを持った人に助けてもらいたいかを考えるものだ。こうすることで、自分の得意を活かしながら、他の社員の苦手を補う役割分担の重要性を学ぶことができる。このワークショップで大事なポイントは、「苦手を共有すること」にある。

例えば私は、細かい作業が苦手だ。Excelの複雑な作業になると「私の代わりに誰かやって欲しい...」と切に思う。なので、私の苦手な細かい作業を補ってくれる人は、「細かい作業が好きな人」、より具体的には「Excelが得意な人」になる。こうした具合に、自分の苦手を言語化する。「人前で話すのが苦手だ」「優柔不断だ」など人それぞれある苦手を、どういう人に補ってもらうとよいだろうか。「人前で話す機会が出たときにはそれが得意な人に任せたい」「決められないから決断力がある人に補ってもらいたい」――このように苦手を言語化すると、助けてほしい人物像も具体的になる。要は、自分の苦手を補ってくれるメンバーがチーム内にいれば一番良い。その人に助けてもらい、自分は自分の得意なことでチームに貢献できれば、協働の意味がでてくる。

苦手の共有がストレスを減らす

「強み(得意なこと)を活かそう」は聞いたことある方も多いと思うが、「苦手を共有しよう」はあまり耳にしない。弱みや苦手は、言いにくいのが本音だからだろう。恥ずかしさを感じたり、自分の評価が下がったりするのではないかと思ってしまう。しかし苦手を共有したうえで役割分担をすれば、自身の強みを生かしつつ、ストレスを減らすことに繋がる。

例えば、前述の例で、「Excelが苦手です」と私が上司に伝えていない場合、上司は私がそれを苦手だと知らないから、Excelの仕事を依頼してくるだろう。その場合、私は「えー、嫌だな」と思うし、苦手だからなかなか手を付けず、締め切り間際で慌てるといったことも起こりそうだ。そうした態度は上司の信頼も失いかねない。しかし予め「苦手だ」と共有することで、上司も「なかむらさんはExcelが苦手だ」と認識するので、その仕事を別の人や得意なメンバーにお願いすることができる。私は苦手な仕事をしなくてよくなるし、上司も自分が行った役割分担に自信が持てる。お互いwin-winだ。伝えている場合と伝えていない場合のこの違いは大きい。苦手を共有することが各自のストレスの軽減とチームの業務の効率化に繋がるのだ。

あなたはメンバーの得意と苦手を知っていますか? そして、メンバー自身は、上司に自分の得意と苦手を伝えていますか? 役割分担で大事なことは、各自がその役割に納得していること。そのために、得意と苦手を上司またはチーム全員で共有し、苦手を補い合うことだ。そこから役割分担は始まる。

実はこのようなことはみなさん現場で既にやっていることもあるだろう(図2)。

ただ、背景の説明なしに上司として自分一人で判断して行っているかもしれない。それだとメンバーに伝わりにくい。補完し合うチーム作りをしていることを説明するだけでメンバーの安心感と信頼感は高まり、それぞれがより前向きに学び合える機会にもつながる。

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「全員が苦手な仕事はどうしたらいいですか」と思った方もいるかもしれない。それが得意な外部の人を見つけるのも一つの手だが、早々に見つかることも難しいだろう。そうした場合は、そもそもその仕事をやるべきかどうかを話し合う機会にし、業務見直しのきっかけにするのだ。「苦手を克服することも大事だ」という意見もある。若手が成長するためには確かに一理ある。しかし克服するのを待っていては、目先の仕事のスピード感に追いつかない場合もあるだろう。一旦はチーム内の現在の役割分担の見直しの参考として使ってみてほしい。

情報共有は資料の共有から始まる

ここからは「情報共有」について説明する。チームワークを発揮するために必要な情報共有とは「チームの全員がその情報を知っている」という状態である。

職場においてこのようなことは無いだろうか。

  1. 作成した資料が共有されておらず、各自のPCに置いてあるまま
  2. 提案資料や見積書、報告書などのフォーマットがない。または各自が手を入れていてどれが原本かわからない
  3. 1.2.の背景があるため、色々な資料を各自がゼロから作成している
  4. 他部署の資料にアクセスできない

実はこれは、離職率が高かった時期の私たちサイボウズの実態だ。メンバーごとに資料の書き方や業務プロセスがバラバラで、「あれはどこだ」「それを事前に知っていれば0から作る必要なかったのに」など、情報を共有していないことでのイザコザが起きたり、それによって業務スピードが落ちたりなど、非効率な仕事のやり方が蔓延していた。

私たちが戦う相手は社内ではない。社外の競合相手であるし、相手にされなければそもそも意味がない。それなのに社内で揉めている現状は当然ながら改善し、減らすべきだと気づいた。4つの問題点を改善するために、各自が資料をローカルに置かないことにし、共有することから始めた。

それらを共有することで図3のようなメリットが生まれた。他の人が作成した資料を見て学びが生じる。ゼロから作る必要が無くなってムダな作業が減る。学びとムダが無くなることで各自の仕事のレベルやスピードが上がる。資料をチーム内だけでなく社内全体で共有することも始めていき、他部署の資料も使えるようになる。詳細を教えてもらうために部署を越えた会話が増えたり、気づかなかった視点をもらえてさらに学びが増えたり、やる気が出たりする。

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たかだか資料の共有、ではあるが、想像以上のメリットがあった。何より各自のストレスが減り、生産性がアップした。自分の資料を誰かが参考にしてくれることは、実は少し嬉しいことだ。それによりその人の仕事のスピードが上がるなら尚更だ。そして仕事の話のなかで学びがあると楽しくなる。こうした心理を味わう人が増えていき、どんどん資料の共有が進んでいった。カイゼン活動にメリットを感じたり、良い気持ちになる人が増えると、そのカイゼンは加速する。このようにして、誰もが見える場で情報を共有することの抵抗感が全くなくなったのが現在のサイボウズだ。

以前の私たちと同じような仕事の効率化に関する課題を御社も抱えているのであれば、ぜひ参考にしてみていただきたい。実は資料の共有は、「情報共有」の1歩目であるし、既に実施されているところも多いと思う。しかし、成果を出すチームにするために絶対に欠かせない要素の1つでもあるのだ。

※この記事は、日刊工業新聞の連載記事になります。


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著者プロフィール

なかむらアサミ

チームワーク総研 シニアコンサルタント。様々な組織のチームワークを良くするためにチームの正しい定義を伝えています。