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成果を出すチームとは(11)──IT投資だけではない、DX推進に必要な要素

デジタル変革(DX)という言葉はこの数年で広く浸透し、新聞や雑誌等でも良く見られるようになった。しかし、DXの本質を理解し、推進できている日本企業はまだ少ないのではないかと思われる。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)がまとめた『企業IT動向調査報告書2022』によると「貴社はDXを推進できていると思うか」と言う質問に対して「非常にそう思う」「そう思う」と回答している企業はわずか22.8%にすぎない。(図1)

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DXを推進するには何が必要か。経済産業省が2018年9月に公表した『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』によれば「レガシーシステムから脱却し、経営を変革」することが掲げられている。22年7月に公表された『DXレポート2.2』においては「デジタル産業への変革に向けた具体的な方向性やアクションを提示」としており、企業の経営者やDX推進担当には継続して変革に向けたアクションが求められている。

収益向上に活用

DX実現のための具体的なアクションとして、どのような行動をとれば良いのだろうか。『DXレポート2.2』ではその一つとして「デジタルを、省力化・効率化ではなく、収益向上にこそ活用すべきであること」を挙げている。

DXとIT化を混同するケースを見ることがあるが、ITツールやシステムを導入するだけでDXが実現するわけではない。DX実現のステップとしては多くの場合、図2のようにアナログ・物理データのデジタル化である「デジタイゼーション」、個別の業務・製造プロセスのデジタル化である「デジタライゼーション」を経て「デジタルトランスフォーメーション」へと進んでいく。デジタイゼーションやデジタライゼーションは主に省力化・効率化を目的として実施されることが多い。

これに対して、収益向上を目的としたDX実現には組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化、"顧客起点の価値創出"のための事業やビジネスモデルの変革が必要とされており、デジタイゼーションやデジタライゼーションと比較しても実現難易度ははるかに高い。トランスフォーメーション、すなわち組織や所属する従業員の考え方、価値観も顧客のニーズや時代の変化に合わせて、デジタルを活用しながら変えていくことがDXには求められる。

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このDXに向けたステップの中で日本企業はどの位置にいるのか。先のJUAS 『企業IT動向調査報告書2022』によると、デジタル投資の内訳はDXレポート発出後も変化がなく、既存ビジネスの維持・運営に約8割が占められている状況が継続しており、IT投資のうち、既存ビジネスへのデジタイゼーション、デジタライゼーションの割合が高いことが見て取れる。

デジタイゼーション、デジタライゼーションに投資する事が悪いわけではない。なぜなら、DXは一足飛びで実現できるものではなく、デジタイゼーション、デジタライゼーションによって、企業内にITの基盤を構築し、知見を溜め込んでいくことが必要だからだ。そう言った意味で日本企業の多くはDXへ向けたプロセスの途中にいると言う事である。

「現状維持」を捨て、「挑戦」を後押し

さて、デジタイゼーション、デジタライゼーションを経て、更なるIT投資を行っていけば、新たな価値創出や全社的な収益向上につながるDXを実現できるのだろうか。実現にはIT投資の他に二つの要素が必要だと考える。

一つ目は企業戦略・事業戦略と連携したデジタル戦略を意識して、IT投資を進めていくことである。社内における1部署の利便性や効率を高めることを目的としたITツール導入であれば、デジタル戦略を意識しながら進める必要性はない。現場の声を聞いて最適なITツールを選択し、導入すれば良いかもしれない。

半面、DXは全社的/組織横断的に事業のビジネスモデル変革をもたらすものであり、社内の多くの部署・従業員に影響を与えるものである。従って、企業戦略や事業戦略からデジタル戦略へと落とし込む必要があり、社内の多くのステークホルダー(利害関係者)にも情報を共有し、その役割に応じて適切な支援を行ってもらう必要がある。どの部署、役割も決して他人事ではないのである。

二つ目は変革への前向きな意識作りである。DXを実現するためには、今までの常識的な考え方を覆すイノベーションが必要になるが、既存事業や既存市場における維持・成長を重視するあまり、企業はリスクの高いイノベーションに投資する事に躊躇しがちである。

イノベーションやDXは統計上からも失敗する事が大半であり、失敗して当たり前なのであるが、失敗を恐れて保守的な現状維持バイアスが働いてしまうと、DXは実現せず、最終的には既存事業・市場においてもその地位を変革を遂げた他社によって奪われることになってしまいかねない。

「今までのやり方の方が良いし、変える必要はない」「どうせ失敗する」「失敗したらだれが責任を取るんだ」 こういった変革に対する社内の否定的な声はイノベーションを起こそうとする人たちのモチベーションを低下させてしまう。

また、新規事業担当者が失敗した際に、社内で批判にさらされ、評価や給与が下げられてしまった場合、その担当者は同じ会社で再び新規事業創出にチャレンジしようと思うだろうか。大抵の場合、委縮して保守的な態度になってしまうか、新たな環境で新規事業を実現するために転職してしまう可能性が高いであろう。この様な状況が続いてしまうと、最終的に社内にイノベーションを起こすためのタネが失われてしまう。

情報共有、全社的なデジタル戦略に

DXやイノベーションを実現するためには、IT投資や技術・知見の蓄積だけでなく、イノベーティブな意見を受け入れ、失敗を許容できる企業文化・風土が必要である。失敗をすることが問題なのではなく、失敗をしても振り返りを行わず、同じ失敗を繰り返すことが問題であることを認識する必要がある。

この二つの要素を定着させるには理想の共有と情報共有・コミュニケーションが効果的であり、特に経営層の関わり方が重要である(図3)。

経営層は必ずしもITの専門家である必要はないが、社内のデジタル化やDXに向けた取り組みを他人事にせず、常に関心をもって支援する姿勢を見せるべきである。そして、企業戦略・事業戦略とひもづけたデジタル戦略における理想を従業員に共有することで、DXを推進する人々はモチベーション高く、安心感をもってチャレンジすることができる。

国内の先進的な事例においては経営戦略とひもづくDX実現のための基本戦略を、ロゴや動画を使って社内外に発信するなどしており、こういった経営層の活動によって関係者の理解や共感を深めていくことが不可欠である。

企業文化刷新は、経営層の役割

DXを推進するのはIT部門かDX専門の部署になることが多いが、部署内に情報を留めるのではなく、さまざまな部署や関係者とコミュニケーションや情報共有、議論を行っていく事でそれぞれの立場への理解が深まり、今までになかった新しい考えを生み出すことが可能となる。他部署との交流だけでなく、企業外においても会社や業界の垣根を越えて情報共有やコミュニケーションが図れると、イノベーション実現の可能性はさらに広がる。

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DXを実現することは容易ではない。新しいもの、不確かなものに対する社内の反発も多いかもしれない。だからこそ、経営層がリーダーシップを発揮し、従業員へ理想を共有すること、従業員はヒトゴトとせず自分ごと化して、積極的に情報共有やコミュニケーションを取りながら進めていく必要がある。

※この記事は、日刊工業新聞の連載記事になります。


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著者プロフィール

志釜 直樹

チームワーク総研 コンサルタント。システムコンサルティング本部においてマネージャーを経て現職。組織のチームワークをシステム面から支援する活動を行っています。
中小企業診断士、PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)。