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成果を出すチームとは(8)──チームを資本と考える。組織変革に活きる人的資本情報とは

2023年3月期決算以降、上場企業などを対象に有価証券報告書における人的資本の情報開示が義務化された。 ヒト・モノ・カネと言われる企業の有形資産のうち、ヒトにあたる人材は今までコストとして扱われる側面が多かった。

人材が競争力の源泉

以前であれば、ステークホルダーは企業を評価する際に、決算に関する数字のみを基に判断すれば良かったが、現在の様に不確実性や不透明性が増した状況となっている、いわゆるVUCA(Volatility[変動性]、Uncertainty[不確実性]、Complexity[複雑性]、Ambiguity[曖昧性])の時代においては、決算数字だけでなく企業で働く人材にもフォーカスをあてて、企業評価に加える必要がある。決められたことを着実にこなすだけの人材ではなく、柔軟性や創造性、多様性、リーダーシップなどを併せ持つ人材こそが企業の価値を高め、競争力の源泉となる人的資本となる。

人的資本情報の開示項目、企業独自の検討を

公開すべき人的資本の情報にはどういった項目があるか。2022年8月に内閣官房が策定した人的資本可視化指針によると、開示項目の例として7分類19項目がある。これらの項目には育成やエンゲージメントなどの「価値向上」が主となる観点と、労働慣行やコンプライアンス/倫理などの「リスク」マネジメントが主となる観点がある。

開示項目においては、投資家などのステークホルダーが企業間比較を行いやすく、定量的であること、継続的に開示を行うことが重要であるとされているが、反面、他社にはない強み、特徴などを表す企業独自の開示項目を検討することも必要とされている。

具体的な開示項目として「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」、「男女間賃金格差」などがあげられるが、この様な一般的な項目以外にも企業の特徴や戦略に合わせて独自の項目を作成して開示していくことが望ましい。

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これらの情報開示項目のベースとなるデータはどの様に取得すれば良いか。

多くの企業では人事データとして従業員に関する情報を管理しているため、上記の例に挙げているような項目のデータを取得することはそう難しくないことと思われる。

また、最近は組織サーベイ、従業員サーベイとして従業員の状態を定期的に計測するITツール、サービスが市場に多くあり、従業員の表面上のデータだけでなく、心の状態やエンゲージメントに関するデータも取得することが可能になっており、これらのデータも人的資本の情報開示項目の候補となりうるだろう。

人材やチームを活かす人的資本情報

勿論、これらの項目は人的資本情報として外部に開示するためだけに利用するものではない。

従業員にモチベーション高く、継続して働いてもらうためには、従業員に異変があれば人事や上長などから改善の手を差し伸べることが必要であるし、企業の戦略に沿って人材育成を行うためには、タイミングよく必要なスキルを獲得するための教育を受けてもらう必要がある。

そのためには定量化したデータを継続的にモニタリングしていくことが重要となる。

データドリブン経営は売上や収益、製品・サービス開発などの面でフォーカスされがちであるが、人材開発、人材育成の面においても活用されるべきであるし、昨今のAIを始めとしたIT技術の飛躍的な進化により、今までよりも身近に、かつ容易にデータを活用するためのプラットフォーム構築が可能になるだろう。

人材を企業の資本と考える場合、企業の中で共通の理想・目標をもって協力しながら活動を行うチームもまた資本と考えることができる。企業活動で成果を出すには個人の能力や働く環境が大切ではあるものの、チームとして機能していなければ生産性が高まらず、期待以上の成果は出しにくい。

そこで人的資本の情報開示にあたってはチームに関する項目も指標として加えることを検討してもらいたい。

チームの取り組み、指標のヒントは?

チームに関する情報開示項目としてはどういったものがあるだろうか。

例えばチーム内におけるコミュニケーションの観点で考えた場合、マネージャーとメンバーの1on1の実施回数などが考えられる。1on1を実施することはマネージャーとメンバーの信頼関係を構築する手法として、ここ数年の間で日本企業の中でも一般的なものとして浸透している。

1on1の効果については話す内容、質についても目を向けなければならないが、まずは1on1自体が継続的に実施されているかを測ることだけでもチームの中でのマネージャーとメンバーの関係性を把握する上で有効である。

この項目における情報開示のためのデータはどう取得すれば良いか。多くの企業ではグループウェアをはじめとしたスケジュールを管理するITツールを導入している。これらのITツールにはスケジュールの統計情報を分析するような機能が付いていることはあまりないが、CSVファイルでのデータダウンロードやAPI等を通してデータを取得することが可能となっており、取得したデータを集計することで、1on1の実施回数を取得することは可能である。

他には部門、チーム間の情報共有が頻繁に行われているかを測るために、グループウェアの掲示板やスレッドなどによるコミュニケーションにおいて、複数の部門間でのコミュニケーションが発生しているかを測ることが考えられる。部門間でのコミュニケーションが活発であると言うことは組織間の垣根が無く、情報共有が頻繁に行われていることを示している。せっかくITツールを活用してデータを蓄積してもそれが部門内に閉じてしまい、それぞれが孤立している状態では企業全体として最大限のパフォーマンスを引き出せているとは言えないだろう。

こちらもファイルなどに出力して集計することなどにより、情報開示データとしてまとめることが可能になる。

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これらのデータを集計するためには、データの登録について表記を揃えるなどの一定のルールがあることが望ましい。ルールがない場合、データを整形して集計する際に手間が多く発生し、場合によっては集計が不可能になることもある。

その為、データを集計する際には対象となるデータ取得元の運用ルールについても併せて考えていく必要がある。

得たデータで、チームをどう成長させるか

この様に、企業内のITツール上に蓄積されているコミュニケーションに関するデータを企業の情報開示のためのデータソースとして使うことは、チーム内で普段から行われている活動を如実に表しているという点において有効である。

また、いずれの例においても、定量化することが可能な項目であるため、継続的に項目をモニタリングしていくことで、企業内のチーム、部門のコミュニケーションがどう変化しているかを把握することが可能となる。

ただし、情報は開示するだけでは意味がなく、開示と共にその結果に何かしらの問題があるのであれば、チーム内でしっかりと議論し、課題を設定していくことが大切である。1on1の実施数が目標よりも足りていないのであれば、実施数を増やすための施策、実施数が目標に到達しているのであれば、1on1の内容、質を向上するための施策を行うべきであろう。

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データの取得と情報開示、結果に対する改善のための施策の実施、これらを両輪で継続して行っていくことで、データに裏付けられた組織変革の実現が可能となる。

個人の人的資本情報開示において企業の特徴や戦略に合わせた独自項目の必要性が求められているように、チームに関する情報開示においても同じく自社に合う独自項目を作成し、運用していくことが望ましい。

そして、データをベースに組織変革を行っていくことは、人的資本の情報開示が義務化されている企業でなくても企業の成長にとって有効、かつ実現可能な手段である。

自社のチームが高い成果を出すためにはどの様な人材、チームに関するデータを取得すれば良いか、ぜひ考えていただきたい。

※この記事は、日刊工業新聞の連載記事になります。


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著者プロフィール

志釜 直樹

チームワーク総研 コンサルタント。システムコンサルティング本部においてマネージャーを経て現職。組織のチームワークをシステム面から支援する活動を行っています。
中小企業診断士、PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)。