成果を出すチームとは(5)──ITを活用した情報共有とデータの利活用
ビジネスシーンでは、情報共有やコミュニケーションを行うITツールが数多くある。たとえば、スケジュールやタスクなど、仕事に必要な情報を共有し、業務の効率化を図る「グループウェア」、通常の会話のように、業務上のコミュニケーションを気軽にやりとりする「ビジネスチャット」、その場に行かなくてもミーティングができる「オンライン会議ツール」などがそうだ。
情報共有が生む、チームへのメリット
同期・非同期のタイミングや今いる場所に関係なく、コミュニケーションを取れる、情報を共有できると言う事は企業活動を行う上で、大きなメリットになっている。
ただし、その利用方法が特定の関係者など、閉じた世界に限られていると、得られるメリットも限定的なものになってしまう。
閉じた世界に限定された利用方法の代表的なものとして、組織構造のままにセクショナリズムがITツール上でも起こってしまう事である。自分が所属している組織内のみで情報共有やコミュニケーションを行い、全社に広げない行動は、グループウェアやオンラインストレージなど情報が蓄積されるITツールほど、新たな知見やつながりの獲得などの得られるメリットに差があらわれる。
ITツールの活用が現在ほど浸透していない時代には、マネージャーのみが重要な情報を把握し、メンバーには共有されないことで情報格差が生まれていた。これによってマネージャーの必要性、優位性を保つ反面、業務上のボトルネックを発生させていた。また、「よく分からない」ことがマネージャーとメンバーの間に不信感を生じさせることとなり、業務の生産性や従業員エンゲージメントの向上に悪い影響を与えていた。
一方、SNSやブログでの情報発信が当たり前になっている今の時代は、情報をクローズにして情報格差を作るより、むしろ積極的に情報発信するマネージャーこそ信頼が高まり、より情報が集まるようになっている。
我々サイボウズでは従業員のプライベートに関わる情報やインサイダーに関わる情報などを除き、ほとんどの情報を自社のグループウェア上で閲覧することが可能になっている。例えば経営会議の議事録は当日には公開され、従業員であれば誰でも、経営陣がどういった内容を議論し、どういう意思決定をしたかを把握することが可能である。
この様な情報の透明性はサイボウズ社内において徹底されており、この事が従業員のエンゲージメント向上や従業員同士の新たなつながり、新しいビジネスのタネをもたらしている。
気をつけたい、情報共有への不安
とは言え、ITツールを導入し、利用方法をオープンにすればそれだけで大丈夫というものではない。例えばITツールを導入したとしても、活用が進まず、情報が蓄積されないといった事が発生する場合がある。その理由として、従業員に「情報共有することに対しての不安」があることが考えられる。それは例えば図1のようなことである。
ITツール上に限らず、もともと情報共有があまりされてこなかった企業の従業員ほど、この様な不安を抱えており、お互いが様子見をしてしまうため、情報共有が進まない。
この様な不安を取り除くにはどうしたら良いだろうか?具体的には、図2にある対応を取ると良い。
これらを実践する事により、従業員は心理的安全性を高め、積極的にITツール上で情報共有やコミュニケーションを取れるようになる。
心理的安全性が高まることでITツール上での情報共有が活発となり、データが蓄積されるようになる。
新しい価値を生む、蓄積データの活用
次に、蓄積されたデータを活用する事で、チームの成果をあげ、企業の新しい価値の創造や競合優位性の確立に繋げていく事を考えたい。
企業における経営資源として、以前は「ヒト」「モノ」「カネ」という3つの有形資産で語られることが多かった。しかし、最近はこれらに加えて「情報」という無形資産が加わってきており、企業経営の観点からも重要度が高まってきている。
昨今、ITツールの進化はめざましく、データマイニングによって自社の製品・サービスに関する傾向や新たな知見を得たり、AIのサポート機能によって顧客からの問い合わせに対して自動的に応答したりするサービスが出現している。
これらの最新技術を活用したITツールの機能レベルは様々だが、共通しているのが、その企業が「得られるデータを活用している」事である。データの種別は様々であり、導入企業で業務上蓄積されているデータや所属する業種における市場のデータ、あるいはITツールを提供しているベンダーが独自に収集したデータかもしれない。いずれにしてもこれらのデータを選別、加工、分析することで、企業にとって有益な知見を獲得したり、人手による作業を大幅削減したりするなどのメリットをもたらしている。
ITツールを活用して、ビジネスモデルの変革と組織文化・風土の変革を起こすために、近年DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が盛んに語られている。組織の中で DXを実現するためにはデータの利活用が必須と言えるが、国内におけるデータの利活用は順調とは言えない。
IPAが発行しているDX白書2023によると、データ利活用の状況として全社で利活用しているのは日本企業で19.0%、米国企業で29.0%であり、事業部門・部署ごとで利用しているのは日本企業で36.0%、米国企業で23.3%となっている。日本企業は部門レベルでのデータ利活用は進んでいるものの、全社レベルでのデータ利活用においては後れを取っていることが分かる。これでは、DXは進まない。
また、データ利活用による「売上増加」効果においては多くの部門で米国企業の方が高い効果を出しており、日本企業においてはそもそも成果を測定していない企業が約半分を占めている。
これらの情報からも日本企業におけるデータ利活用は道半ばであることがうかがえる。
企業の中でデータ利活用を進めるためには、その土台となるデータ自体を蓄積していくことが大切である。クローズドな状態で一部の人にしか見られないデータ、紙による管理でデジタル化されていないデータはデータ利活用の場面では使用されずにそのまま放置されてしまう。だからこそ情報共有は可能な限りオープンにし、IT化を進めるべきである。
今後、AIやデータマイニングなどのツールを導入しようとしたときに、肝心のベースとなるデータが存在しなければ、ツールを導入しただけで活用されない状態となってしまう。ツールを導入するタイミングでなく、何年も前からデータを準備していくことで、より精度が高く利用価値の高いツール活用が進むことになる。
また、AIやデータマイニングなどの高度なツールを使わなくても、今使っているITツールに蓄積されているデータを自分なりに活用してみるという姿勢は大切である。ITツールを使っているチームのメンバー同士で話し合い、今あるデータをどの様に活用できるか、より利活用を進めるためにはどの様なデータがあると更に良いかと言う事を是非話し合ってもらいたい。
この様な活動がチームの習慣として定着していると、チームの生産性を高める事に貢献し、将来的に高度なツールが導入された際にも有効に活用を進めることが可能になるだろう。
ITツール上で情報共有を進め、データを蓄積、利活用していくことは今のチームに成果をもたらすだけでなく、未来のチームに成果をもたらすための種となる。
※この記事は、日刊工業新聞の連載記事になります。
【関連記事】
著者プロフィール
志釜 直樹
チームワーク総研 コンサルタント。システムコンサルティング本部においてマネージャーを経て現職。組織のチームワークをシステム面から支援する活動を行っています。
中小企業診断士、PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)。