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成果を出すチームとは(1)──サイボウズが「働きやすい会社」になった背景

どうしたら自分たちのチームが成果を出せるようになるのか、日々考えている管理職の方は多いだろう。この連載では「成果を出すチーム」をテーマに、成果を出すチームに共通するポイント、実際に私たちサイボウズが結果を出すためにどのようにチームで仕事をしているのかなどを理論や実践を交えながらお伝えしていきたいと思う。

サイボウズは、グループウェアと呼ばれる仕事を効率良く進めるためのITソフトウェアを開発・販売しているソフトウェア企業だ。そのなかで、チームワーク総研は「チーム活性化のメソッドを販売する」事業部である。

チーム活性化のメソッドとは、主に①チームワークの創造②モチベーションのコントロール③問題解決の手法において、サイボウズが10年以上前から研究しかつ社内で日々使用しているフレームワークを指す。私たちはそのノウハウを、チームの成果を高めたい組織に、研修やコンサルティング、講演といった形で提供している。

なぜ一介のソフトウェア企業である私たちサイボウズが「チーム」を重要視しているのか―そこには私たちの15年以上に渡る試行錯誤の歴史がある。

離職率28%だった企業が「働きやすい会社」と言われるようになるまで

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今から17年前(2005年)のサイボウズは、創業して8年目、社員が83人という、いわゆるベンチャー企業だった。しかしその年、社員23人が退社し、離職率が28%となる(図1)。どんどん社員は辞めていくが、業務は山のようにあり、休日出勤も常態化しているといった、いわばブラックな労働環境にあった。

会社がそんな状況とは知らず、その直後に人事として入社した私(現チームワーク総研シニアコンサルタント なかむらアサミ)は、まさに「毎週のように人が辞めていく状態」を目の当たりにする。入る会社を間違えたかと思うほどだった。

社員の約4人に1人が辞めていく状況は会社として異常だ。当然人事としては相当な危機感があった。そこでまず私たちが行った施策は「今いる人が辞めず、より多くの人がより長く働ける会社にする」ことだった。そのために、当時いる社員に「どうしたらこの会社に居続けるか」「人事として何をすればいいか」ヒアリングをしていった。

また、当時は売り上げも横ばい状態だった。ビジネスモデルの模索も同時並行していく必要がある。人は辞める、売り上げは伸びない、下方修正を二度出す...経営者および会社としていかに崖っぷちか、読者の方ならお分かりだろう。

私たちの変化はここから始まった。

自分たちの「価値」を考える

当時は、自分たちの会社の価値がまだよく分かっていない時期でもあった。サイボウズのソフトウェアを使うことで、紙を使うより仕事がやり易くなる、便利になると伝えていた。

しかし私たちが気づいていなかったことをお客様が言語化してくれた。「できることが増えていくから、触っていて楽しくなってきた」「使い始めて、一緒に働いている人たちとの一体感を以前より感じるようになった」「意思疎通がスムーズになって仕事が楽しいと感じられるようになった」

――私たちは、製品の「機能」を重視していたが、お客様はそれを使ってどういう「効果」が出たかを教えてくれた。ここで、自分たちが提供している製品の「価値」は、使っている人の「チームワーク」を良くすることなのだと気づく。

「チームワーク」と言い始めた当時は、それが適切な言葉かどうかまだ自信がないところもあったが、まずは「チームワーク」について自分たちで調べてみようとなり、チームの研究を始めることとなる。

チームに必要な要素

世の中にチームワーク研究は数多くある。国内外の研究を調べていくなかで、チームワークは構造的に説明できるものだと分かってきた(図2)。

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チームには目指すものが必要で、理想を達成するためにメンバーで役割分担し協働することがチームワークだと定義されている。これが分かったとき、当時の自分たちサイボウズに足りないものを示された気になった。

    (1)会社として目指すものは明確だろうか?
    (2)メンバーは自分の役割分担に納得しているだろうか?
    (3)コミュニケーションはうまくいっているか?
    (4)必要な情報が共有されているか?
    (5)メンバーのやる気は上がっているのか?

何もかもが足りないと思った。と同時に、これをしっかりやってみようとなったのも事実だ。

まず、企業理念を見直すことから始める。自分たちがどういう世界を目指したいのか、サイボウズの存在意義は何なのか、これらを考えることは「自分たちが何を大事にしたいのか」を必然的に考えることとなる。

なぜ「ありたい姿」やビジョン、パーパスが必要なのか

図2「チームに必要な5つの要素」のうち、もっとも難しいものが1.の「理想をつくる」だ。当時のサイボウズにも当然ながら短期中期長期それぞれの目標があった。しかし機能していなかった。

例えば「売上を〇億にするぞ!」と社長の青野が掲げても、数カ月後に他の役員が「そんなこと言ってましたっけ?」と言うくらいで、共感どころか覚えられてもいない状態というありさまだった。

チームに必要な「理想をつくる」とは「チームメンバー全員が腹落ちしている理想」をつくるということだ。1人だけが鼻息荒く言っているのはチームの理想ではない。単なるその人個人の理想だ。

チームは「理想を達成するための集団」なので、関わる人が同じ理想を持つ必要がある。ここでは、理想という言葉を使っているが、目標、ビジョン、ゴールなど表現は組織によって様々だろう。

昨今「ありたい姿」や「ビジョン」「パーパス」の大切さが言われているのも、この5つの要素をもとに考えると分かりやすいと思う。集団がチームとして機能するためには、メンバー全員が同じビジョン、ありたい姿を同じにする必要がある。多種多様な人が集まり何かを達成するためには、その「何か」を、全員が腹落ちする言葉にすることが必要なのだ。

それには当然ながら時間がかかるが、この目指すものが明確に言語化されれば、強いチームへ1歩前進したといえる。

愚直に5つを行う

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この5つの要素を知ってから、私たちサイボウズは、まずは自分たち自身がチームワーク良い会社になるように愚直に実践してきた。企業理念を数年かけて改訂し、社内の役割分担の見直しは随時行う、部を越えたコミュニケーションを活性化する施策を実施し続け、インサイダーとプライバシー以外の情報はすべて共有されている。

モチベーションの仕組みをフレームワーク化し、自分のモチベーションが構造的に認識できるようにする。より多くの人がより長く働ける会社にするために、実に多くの数えきれないほどの施策を試行錯誤しながら行ってきたが、端的にいえば、この5つを実践し続けているだけだとも言える。

また、現在は百人百様といって、一人ひとりの個性が発揮されやすいチームになるよう、これもまた日々試行錯誤している。15年以上かかったが、図3のように離職率は3-5%となり、売上も伸びている。ダメダメな組織だった私たちがすがったのは、チームの5つの要素だったが、まさにこれを実践してきてかつ現在も実践しているからこそ胸を張って言えるのは、チームに悩んだときにこの5つの要素で考えてみると、チームが構造的に見えてくるということだ。

成果を出すチームにするために、まずはこれをチームのチェックポイントとして活用していただきたい。

※この記事は、日刊工業新聞の連載記事になります。


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著者プロフィール

なかむらアサミ

チームワーク総研 シニアコンサルタント。様々な組織のチームワークを良くするためにチームの正しい定義を伝えています。