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成果を出すチームとは(7)──情報共有がチームに求められる2つの理由

これまで、「チームに必要な5つの要素」に沿って、理想のつくりかた、役割分担のしかた、情報共有の効果について紹介してきた。今回は引き続き、現代だからこそ必要な「情報共有」について、さらに具体的に説明していく。

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生活の場と職場の「情報入手」のギャップ

いまの私たちは、生活の場において情報を得たいとき、手元のスマホや携帯で検索して欲しい情報を容易に得られる。Chat GPTの出現により、もはや検索で情報を探す段階を越えて、AIが文章やグラフ、資料を作ってくれたりまでする。数年前に比べて「情報」の入手が迅速になったことは誰もが感じているであろう。

では、あなたの職場においてはどうだろう。「情報」が得やすい環境になっているだろうか? 検索して得たい情報が得られるようになっているだろうか? この問いに関して、多くの企業は「No」と答えるのではないだろうか。これが現状であり、生活の場と職場のギャップでもある。

生活の場では容易に欲しい情報が得られるのに対し、職場になると検索しても出てこない、検索すらできないという状態は、特に"検索慣れ"した若い世代にとってはかなりのストレスになる。

そんなことで、と思うかもしれない。その場合、例えばPC入力からすべて手書きに戻ることや、スマホからガラケーのみに戻ることを想像してみよう。戻った先の面倒さはどうだろうか? その面倒な気持ちと同じように考えてもらうと少し分かるかもしれない。大事なのは、生活の場と職場での情報入手にギャップがあること、そこにストレスを感じる人がいることを知っておくことだ。

「情報格差」をつくらない

今、生活の場は「情報をシェアする」行動にあふれている。TwitterなどのSNSをされている方は分かるだろう。面白い情報、確かな情報などをシェアする人のもとに人はあつまり、情報も集まる。「口コミ」も同じ現象だ。もちろん、その情報の正誤は大事ではあるが、口コミをみて判断し、自分の目で確かめる行動は、世代が下になればなるほど息をするように当たり前になっている。

職場においても、色々教えてくれる人のもとに多くの人が集まり、色々な情報が集まるという現象は以前からもあったと思う。一方で、「情報を持っている人が偉い」という考え方もあった。今でもあるかもしれない。それは「情報は手に入りにくいもの」という文化が背景にあるからだ。

現在必要なのは、職場においても「情報をシェアすること」だ。自分が知っている範囲のことを「こうみたいだよ」と部下に共有していくことで、「この人は色々話してくれる人なんだな」と思うようになり、部下としても色々話しをしようという気になる。結果、情報が集まる。また、そうした会話を重ねることで、色々なことを話せる関係性が築き上げられ、信頼感の醸成につながっていく。

チームに必要な要素の1つである「情報を共有する」とは、「チームの全員が同じ情報を知っている」ことだ。人が見える視野は、得られる情報によって変わってくる。同じ情報のもと、各自の視野を共有することが問題解決につながっていく。こうしてチームの成果を出していくのだ。一部の人だけに「伝達する」ではなく、全員が同じ情報を持つように「共有する」ことが大事だ。そのためにまずは自分の知っている情報をシェアしていく。特に上司からこれを心掛けていけばよいチームづくりの1歩になる。

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私たちの研修を受けた方のなかで、物事の背景情報や、些細な自身の考えを部下の前で意識的に話すようにしたところ、部下から「"話さなくてもいいかな"と思っていたことを、私も話すようになった」と言われたという方がいた。こうなれば大成功だ。部下がボソッと呟いたその情報が実は大事だった、という経験はみなさんもあるだろう。

隠そうとする態度は逆に信頼感を損ねる行為になりやすい。また、「情報を持っている人が偉い」という考え方も捨てたほうが良い。情報を得ることが、たやすくなった現代において、あえて情報格差をつくって権威を示すやりかたは、組織の信頼感を失いやすくなっている。正しい情報をシェアする人が信頼される世の中になった。情報に対する考え方をそのようにシフトすることが必要だ。

DEIを実現しうるためにも「情報共有」は必要

実は昨今言われている「DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)」において、この「情報共有」は必須になってくる。DEIの定義は様々にあるが、多様性を受容し、公正を促進し、包括性の実現を目指すものである。D&Iと違うのは、Equity(公正性)が入っている点だ。公正性とは、公正な機会や資源の配分に焦点を当てることだ。

公正について少し説明する。サイボウズが100人100通りの人事制度を実現するうえで大事にしていることがある。それは「平等より公正」という点だ。サイボウズでは1つの人事・給与制度を全社員に適用するやり方ではなく、一人ひとり働き方も違えば給与の上がり方も違う。社員一人ひとりの希望や個性が違うことを前提に、それぞれが望む働き方や報酬が実現されるように設計しており、それを分かりやすく「100人100通り」と呼んでいる。これを実現するには、「平等」という考え方を見直さなければならない。

「平等」とは、誰もが同じだと画一的に捉え、等しく扱うことである。図のケーキの例が分かりやすいだろう。ホールケーキがあって3人いるから3等分しようという考え方が「平等」である。「公正」とは、人によって違いがあることを認め、その人の希望や状況に応じて対応することである。ケーキが苦手な人もいればたくさん食べたい人もいる。普段私たちはこちらのやり方でケーキを切り分けることが多いのではないだろうか。

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この平等と公正の違いを明確に認識しておくことはこれからとても大事になる。私たち日本人は平等には非常に敏感ではあるが、公正に疎い。欧米では逆である。そして今大事なのは「公正」なのだ。多様性を実現するために必要なのは、平等ではなく公正だ。

DEIにおけるEquity(公正)を実現するとは、社員に公正な機会を与えるということだ。公正な機会を与えるためには、同じ情報を持つ必要がある。マイノリティであっても、情報に触れられて同じ情報を持てることが重要ということだ。情報格差があると、この時点で公正さが失われていることとなる。先にも述べた通り、人が見える視野は得られる情報によって変わってくる。問題を解決するためには、関わる人皆が同じ情報を持つことが必要なのだ。階層ごとに持っている情報が異なる状態では、問題の解決はできない。

この平等と公正の違いについての話をすると、驚かれることが多い。私たちは教育の影響もあり、平等こそ大事と刷り込まれている。様々な場面において、全員が同じ扱いをされることで不快な思いや、悲しい思いをする人や機会は増えている。元来私たちは多様なのだ。一人ひとり違う生き方、考え方をしている。もう機械のように人を扱う時代は過ぎている。多様性は既に私たちのなかにあるので、それをどのように公正さをもって対応するか、会社を自分が貢献できる居場所として捉えてもらうかを考えることがDEIだ。

誰もが情報を得られるチームに

情報格差をつくるのではなく、情報を共有する。必要な情報が届いてないと思ったら、必要だから教えて欲しいと伝えることも大事だ。そしてまずはチーム内で、階層関係なくメンバー全員が同じ情報を持てているか確認する。そこから始めてみてほしい。

※この記事は、日刊工業新聞の連載記事になります。


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著者プロフィール

なかむらアサミ

チームワーク総研 シニアコンサルタント。様々な組織のチームワークを良くするためにチームの正しい定義を伝えています。