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成果を出すチームとは(3)──組織の「変われない」にどう対峙すべきか?

ここ数年、デジタル変革(DX)やCX(コーポレート・トランスフォーメーション)といった言葉を今まで以上によく聞くようになった。世の中の産業構造変化やコロナによる大きな生活環境の変化を受けて、さまざまな企業がトランスフォーム...つまり、変革を求めているようである。
しかし、そうした変革の言葉が盛んに使われだし、実践ノウハウ本や講演・セミナーが数多く存在しているものの、実際に変革に成功している企業の話を聞くことは非常に少ない。それはなぜなのか。

思い返すと同様の出来事が過去にもあったように思う。「働き方改革」である。毎日のように聞いていたあの「働き方改革」も、今となってはもう古い言葉になっており、多くの企業で成果が出たか出てないかわからない状態でうやむやになっている。

果たして、今回のこの変革の流れは日本企業に成果をもたらすのか。 今回は、変革が成功するために必要なポイントを考えたい。

変革はいかに起こるのか

まず変革のポイントを語る前に、どのように変革が起こるのかについて考える。企業変革は、多くの学術的意見が存在する。その中でも、とりわけ有名なのが、リーダーシップ論の研究で知られる米ハーバードビジネススクールのジョン・P・コッター名誉教授が唱える『企業変革の8段階』(図1)であろう。

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1980年代以降、アメリカの企業は、新技術の導入、戦略の大転換、事業再編、技術革新の促進、社風の改革といった大規模な変革に取り組んでいたが、その多くが失敗に終わっていた。そこで、コッター名誉教授はその事例を分析し、大規模な変革が進まないつまずくポイントを整理し、変革を推進するためには8段階のプロセスが必要であると主張したのである。

この理論自体は、リーダー研修でもよく使われており、耳にしたことがある方も多い内容である。しかし、理論は学んでも、変革を実現させるのは容易ではない。

「危機意識」とは、共感された理想と現実のギャップ

特に、コッター名誉教授の研究では、変革に取り組む過半数が第1段階の「危機意識を高める」で失敗しているとしており、鬼門となっているようである。

実際には、多くの会社が、「環境変化に対応するための事業変革の必要性」や「新しい働き方に対応するための早急な組織変革」など、危機感やその対策について社内で公表しており、一見この第1段階はクリアしているようにも見える。しかし、組織変革のために「危機意識を高める」というのは、決して会社の中でお題目として掲げられていればよいというものではない。

大切なのは、そこで働くメンバーが、組織の中の目指す理想と現実の状況を正しく認識し、「私たちは理想に向かって、変わらなければ(変わりたい)」と危機意識(問題意識)として共感出来ている状態になっていることである。とりわけ、全社の変革をリードする経営陣や幹部層でこの認識が合っていない場合は、変革の成功確率は非常に低いものとなる。

サイボウズでは、この認識を合わせるために問題解決メソッドというフレームワークを使っている(図2)。この図では、前述のように「どんな理想があるのか」「どんな現実があるのか」をメンバーで書き出し、問題の認識を整理していく。また、横軸には事実と解釈を置き、それぞれのメンバーが認識していることが、事実に基づくものなのか、あるいは、解釈なのかを分けるようにしている。

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解釈は人によって異なるため、事実を共有しなければ共通認識を持つことが難しい。しかし、解釈自体はその人の思いであり、個性の表現である。事実に解釈を加えることで、その人の考えや思いの内が表現される。だからこそ、事実と解釈は両方を共有し合うことが大切である。

「技術的な問題」と「意識的な問題」

このように、コッター名誉教授の提唱した8段階を見ていくと、実はあることに気づく。それは、この各段階には、「チーム作り」や「ビジョン作り」など、解決策がイメージでき、知識やスキルを身につければ実践ができる「技術的な問題」と、対話や議論によって、メンバー内で意識的な変容が必要な「意識的な問題」と呼ばれる2つの問題が存在しているということである(図1)。

そして、多くの企業で変革が上手くいかないのは、この「意識的な問題」への対応が疎かであるからである。筆者自身も組織コンサルタントとして日々、企業の経営陣や人事担当の方から相談を受けるが、変革がうまくいかない企業からの多くが「組織変革のチームを創ったが機能していない」、「ビジョンを発信したがメンバーに共感されていない」、「実施策は決まったが自発的な動きがない」などといった、どれも「意識的な問題」である(図3)。

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変革のつなぎ目にある「対話」というキーファクター

変革という言葉を聞くと、保守的だった会社が、なんらかの取り組みによって急に革新的な企業に生まれ変わるようなことを想像するかもしれない。しかし、組織における変革は、いきなり起こるものではなく、変革のプロセスをたどって数年〜10年といったスパンの中で徐々に起こってくるものである。そして、その取り組みが途中で頓挫せず、一歩ずつ前に進んでいくためには、「対話」という互いの思いや考えを伝えあい、理解し合い、時に意見をぶつけながら、チーム全体の意識を変容していくプロセスが必要である。

「組織変革をしなければ」と考えると、すぐに外に何かしらの手法的な解決策を求めがちになるが、技術やノウハウだけでの変革は難しく、対話や議論などといった人と人が膝を突き合わせ(もしくはオンライン上で)話し合い、意識を変容させていくことが大切なのである。

仮面を外すと見える活き活きとしたチームの姿

従来の日本式なマネジメントによる組織運営の中では、できるだけ問題が大事にならないよう、忖度や根回しの中で本音を隠し、穏便に事を運ぶようなことがあったのかもしれない。また、職場の空気感を察して、うまく適応できるよう「本来の自分」を押し殺し、「仕事上の自分」として仮面をかぶり働くようなことがあったのかもしれない。

もちろん、外部環境の変化が少なく、変革をせずともこれまで通りで成長していけるのであれば、従来までの働き方や組織を変えることなく、管理の中で行動の効率を上げていけばよい。しかし、今大きく世界が変わっていく中で、私たちに求められるのは変革(トランスフォーム)であり、その中で必要なことは、小手先のテクニックではなく、メンバー1人ひとりが「仕事上の自分」という仮面を外し、「本来の自分」として、組織の課題や問題に向き合っていくことである。

「言いたいことを言い合える職場を創り、チームの中で健全な危機意識を醸成すること」。この事こそが、チームや組織の変革の第一歩ではないだろうか。

仮面を横にそっとおいて、本当の想いを共有し合うことで、チームはもっと活き活きし、変革を前に進めていく力を得るのである。

※この記事は、日刊工業新聞の連載記事になります。


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著者プロフィール

新島 泰久也

「人と組織の発達を支援する」が信条。元経営コンサルタントとしての経営目線と、サイボウズの「チームワークメソッド」を織り交ぜ、「チームワーク経営(チームの生産性とメンバーの幸福が両立する経営)」の実現を目指す。 Coloring Lab.代表。一般財団法人 日本アロマ療法創造機構 専務理事。