制度とは、社員の「あり方の理想」を形にしたもの。実態に合わせて変化し続ける
このたび、サイボウズ チームワーク総研 アドバイザーであり、人事本部でも働く髙木 一史が、書籍『拝啓 人事部長殿(サイボウズ式ブックス)』を出版しました。
その背景には「どうすれば日本の大企業の閉塞感をなくせるのか?」「現場では、何をすべきなのか?」という問いがありました。
そこで、企業の組織改革をコンサルの現場から支援している、チームワーク総研 コンサルタント 新島泰久也と話しました。
チームワーク総研:髙木さんの本、ついに発売されましたね。ざっくりどんな内容か教えていただいてもいいですか?
髙木:僕は2019年にサイボウズに転職したんです。以前から日本の大企業に感じていた閉塞感を「変えたい!」と思って。でも、僕が何かを「おりゃっ!」て変えれば、変わるほど簡単なことじゃなかった。「じゃあどうしたらいいんだろう?」って。
そこで、日本の人事制度の歴史や、サイボウズの組織変革の変遷を改めて学んだり、他の会社を取材しに行ったりしたんですが、その結果、僕なりに見えてきたものがあって。
この本は、個人の閉塞感を無くし、会社の競争力を強化しつつ、机上の空論ではない日本社会の構造に合った、現実的な「会社の仕組みと風土を変えていく提案」を、世の中の企業の人事部長さん宛てに、若手人事から手紙を送るイメージで書きました。
チームワーク総研:取材先というのは、どんな会社さんですか?
髙木:軸としては、「閉塞感を壊すヒントになりそう」というか、社員が「一人の人間として重視されている」と感じられそうな制度や風土、仕組みがあると思った会社さんですね。
中には、このコロナ禍で危機的な状況にある会社さんもありましたが、むしろ、そういった会社さんの「どのように変わっていかなければいけないか」というお話が、胸に刺さりました。というのも、サイボウズも危機的な状況から変革してきた会社なので。
制度はそれぞれの「会社らしさ」を大切にする
チームワーク総研:新島さんは、組織づくりのコンサルタントとして、研修やコンサルの現場に立たれています。人事の髙木さんとは視点が異なり、企業から困りごとや課題を直接聞いて、アドバイスをしていますよね。
組織を変えていくには、制度、風土、ツールなどいくつかの視点があると思いますが、新島さんが各企業をコンサルする中で感じている課題感って何ですか?
新島:多くの会社で起こりがちなのが、「作った制度が形骸化している」ということですね。
制度って、何らかの目的があって、それを達成するために使われれば有効に働くと思うんです。でも、多くの企業では現状の問題点や社内の声から変える目的を設定する前に「世の中のトレンドはこうだ」とか、「理想的な制度はこうだ」といったものに飛びつきやすい。
特に昨今では、流行り言葉としての人事施策も多く、「〇〇が流行っているので、サイボウズの状況を知りたい」など、目的よりも手段に目が行っているような印象を受けます。。
本来だったら、各社に合った制度を作るべきなのに、世の中のトレンドや理想に合わせてしまうことによって、制度はつくったものの、有効に使われないケースを多く見てきました。つまり「社内に浸透しない」んです。
髙木:あるあるですね。
新島:社内に制度を浸透させるために、それぞれ会社の「らしさ」を、ちゃんと議論していくことがすごく重要なんじゃないかなって、わたしは思っていて。
社員が恩恵を受ける、その会社に合った「らしさ」を追及していく。そして、どこにもないような制度に変えていくのがいいんだろうなって思います。
髙木:そうですね。その会社にとっての理想の人事制度って、100社100通りというか、会社の数だけあるんだと思っています。というより、そもそも事業が違いますからね。達成したい理想に向けて、どういう制度やルールがいいのかは、当然違ってくるので。
あと、働いている人も違うじゃないですか。社員がどんなことに幸せを感じるのか、どんなことを求めているのかは会社によって違います。 そういう意味では、年功序列だって、そこで働いている人がハッピーで、経営が成り立っているなら。別に悪くないんですよね。
チームワーク総研:年功序列っていうと最近は、一般的には「そんなのじゃダメだ」って言われがちですからね。
髙木:ただ、あえて言うと、インターネット社会になって、若い世代が会社に求めるものが多様化していることと、少子高齢化をはじめとした社会の外部要因を考えた時に、「時間や場所、職務といった働く条件に選択の余地を拡げる」「徹底的に情報を共有する」など、インターネット的な会社の要素を取り入れた方が、社会全体としてハッピーな人が増えるんじゃないかなって思いますね。
新島:毎年社員も変わるし、事業やサービスも増えたり減ったりします。そもそも、経営者も変わるかもしれない。それなのに、制度が固定化したものでいいのかって話ですよね。
最近、「人事制度を構築する」って言葉を使いたくないんですよ。「ビルを建てて終わり」みたいな感じがするから。
チームワーク総研:確かに。
新島:会社は基本的に、何か事業をやりたくてはじまるものだと思います。言い方を変えると、人事制度だけで成り立つことはありません。事業は変化するので、それに合ったやりやすい制度があると思うんですね。
世の中の環境や社内の変化によって、人事制度は見直され続けていくもの。そんな風に捉える人が増えるといいですね。 その過程で、風土が出来上がっていくんじゃないかなって思います。
風土は、制度との「相互関係」によって生まれる
チームワーク総研:風土という言葉が出てきたので、ここからは風土について伺っていこうかなと思います。
サイボウズでは、ワークスタイルを変えていくためには、「風土」「制度」「ツール」が大切だとしています。制度やツールは分かりますが、風土って、案外あいまいなものですよね。風土ってなんでしょう?
髙木:風土って、実体がないものだと僕は思っていて。だからこそ、こういう風土を維持したいとか変えたいっていうためには、言語化が必要っていうか。
僕、キングダムっていう漫画が好きなんですけど、「法とは何か」と問うシーンがあるんです。それに対して、「法とは願い!国家がその国民に望む人間の在り方の理想を形にしたものだ!」というシーンがあります。この言葉に、すごい共感したんですよね。
チームワーク総研:「人間の在り方の理想を形にしたものだ」かぁ。
髙木:たとえば、従業員数が10人の会社なら、普通にコミュニケーションできるから、ぶっちゃけ人事制度は要らないんですよ。そこにいたらなんとなくお互いの雰囲気が分かるから、風土も「うちはイケイケドンドンだよね」で通じちゃう。
でも、これが30万人になると話ができない。だから、コミュニケーションを効率化するために、制度やルールができるんですよね。
つまり、「どういったことが理想」で、「どういう行動をして欲しいか」を言語化したのが制度だと僕は思うんです。
風土と制度の実体が離れていたら、理想の会社をつくることができない。その場合は、制度を変えてあげることで、社員の行動を変えることができるし、制度が合わない人は辞めていくかもしれませんが、その制度に合う人が新しく入ってくる。その結果、風土が徐々に変わっていく。このように、制度と風土は相互関係にあると思うんです。
新島:これまでは、時代背景として職場内に多様な意見や価値観が出てきづらかった。その点でいえば、「風土」を定義・明文化しなくても、「なんとなく、うちの会社は〇〇だよね」と言いやすかった。
でも、変化が激しくなってきたいま、ほかの会社に合わせていたら変化についていけない。そこで、これからの会社は、「うちは何のために集っているんだっけ?」「どんな会社を作りたいんだっけ?」みたいな、「なぜ、その制度を作るのか」というところから言葉にしていく必要があるんじゃないかな、と思います。
チームワーク総研:制度が単なるルールではなく、「理想を言語化したもの」という意味を与えると、「そこに向かって行こう!」って感じになるのが面白いなと思いました。
会社として「本当に大事にしたいことは何なのか」を削ぎ落す
髙木:多くの企業では「お客様第一」「個性を尊重する」のような理念は、すでに言語化されています。たとえば、社員が30万人もいるような大企業で理念を浸透させるには、言語化しなければならない。
でも、今回取材して思ったんですけど、以前と比べると、社員の価値観が多様になってきたと実感します。社員がそれを表明して「〇〇の選択肢を作ってほしい」「それを受け入れて欲しい」といった声が強くなってきてる気がしていて。
多様な意見を取り入れようとすると、理念はあいまいなものになってしまうし、あいまいだと、すべての社員が同じ意味で解釈するかわからない。この、矛盾と葛藤をどうすればいいのか、正解は、正直僕にも分かりません。
ただ、多様な人たちでチームをつくろうと思ったら、会社として大事にしてきたことを削ぎ落して「本当に大事にしたいことは何なのか」をあらためて見出す作業は必要なのではないかと思います。「これは受け入れません」を決める、というか。
その試行錯誤は、サイボウズも意識しつづけなければいけないんだろうなと思います。
新島:企業理念やパーパスって、意思決定に紐づくものだと思うんです。組織の規模が小さくコミュニケーションが容易であったり、トップダウンの組織で意思決定が経営陣に集約された状態であれば、理念やパーパスが現場に浸透していなかったとしても問題無いのだと思います。
でも、大手企業のように人数が多く意思決定が分散していたり、現在の変化が激しい世の中でスピード感を持って意思決定をする必要があると、理念やパーパスが現場に浸透している必要がある。
それが無いと、売上や利益といった共通認識を持ちやすい数字だけを見て意思決定するようになり、部門間での軋轢や不正につながるような行動が起きやすくなると思います。
髙木:ですね。
新島:多様な意見に基づいて、社員が意思決定をする場合、何らかの基準が必要。「自分は、どう意思決定したらいいのか」という判断を現場でしてもらうためにも、企業理念やパーパス、はもちろんのこと、「これは受け入れません」を社員と一緒に見直していく。
そして、整理されたものを言語化して、組織のなかで使っていく。これからのチーム作りには、それが大切なのだろうと、髙木さんの話を聞いていて思いました。
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著者プロフィール
竹内義晴
チームワーク総研とサイボウズ式編集部の兼務。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。「2拠点ワーク」「週2日社員」「フルリモート」というこれからの働き方を実践しています。