テレワークを「緊急対応」で終わらせるか?それとも「組織変革」につなげるか?
サイボウズチームワーク総研 コンサルタントの新島泰久也です。
22.8%――これは、新型コロナウイルス感染症の拡がりによって、2020年4月~5月に発出された1度目の緊急事態宣言の後、「テレワークを実施したが、その後取りやめた企業」の割合です(2020年9月 東京商工リサーチ第8回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査)。
世の中の大きな変化から1年。今後、テレワークは定着するのでしょうか? そして、私たちの生活や働き方はどのように変わっていくのでしょうか。それは、企業の「テレワークを導入する目的」によって変わってきそうです。
そこで、サイボウズのこれまでの取り組みや、私が組織コンサルタントとして見てきた企業の実情から、各企業におけるテレワークの導入目的の違いと、これからの組織のあり方について考えてみたいと思います。
テレワークの問題に悩む各企業
チームワーク総研が各企業でテレワークの推進を支援させていただいている中で、下記のような問題点をよくお聞きします。
- テレワークによって仕事ぶりが見えなくなり、評価の仕方の変更が必要になってきた
- リアルとオンラインで情報格差があり、結局出社する必要が出てきてしまっている
- コミュニケーションが減り、業務調整ができず業務の分担に偏りが出てきてしまっている
どの問題点も、リアルとオンラインの業務が混ざり合う中で、テレワークの活用・定着をどのように展開していくべきか悩まれているようです。
各企業によって異なる「テレワークとの向き合い方」
また、各企業からテレワークの導入目的をヒアリングする中で、大きく分けて、2つの種類に分類できることが分かってきました。
- 新型コロナウイルス感染症拡大にともなう「緊急対応」
- 自社の働き方の再定義と、新しい働き方への「組織変革の機会」
たとえば先日、「オフィス勤務とテレワーク併用での働き方」を支援させていただいた企業様と、研修実施の打ち合わせをさせていただいたときのことです。研修方針書をお見せいただきました。
その資料には、「社会への価値を最大限に高めるために、新しい働き方を実現していく」という、これからの組織づくりの方向性と具体策が書かれていました。
ご担当者様のお話からは、テレワークに関する現場の問題点を解決したいという想いと併せて、テレワークを単なる「緊急対応」ではなく、これからの会社の「組織変革のチャンス」にしていきたい、という非常に高い理想と想いが伝わってきました。
この経験から「テレワークの推進」という取り組み自体は同じであっても、新型コロナウイルス感染症の「緊急対応」なのか、それとも、これからの「組織変革の機会」なのか、企業によって向き合い方に大きな違いがあることに気づかされました。
そのテレワークは「何のため」?
ところで、今、私たちが行っているテレワークは「何のため」なのでしょうか。
もちろん、今回の新型コロナウイルス感染拡大という緊急事態対応のために、「テレワークでもできる仕事をテレワークで実施していく」ということは、「感染症の拡大を防ぐ」といった意図として非常に有益なものであると思います。
しかし、先ほどの例のように「テレワーク」という取り組みにもっと大きな意味を持たせることもできます。
例えば......
- リアルとオンラインを掛け合わせた、柔軟な働き方を実現し、社員のエンゲージメントを高める
- 長時間会議や意思決定フロー、非効率業務などの見直しを図り業務効率をアップする
- 人口減少禍において、優秀な人財を獲得するために多様な働き方の実現を目指す
など、これからの事業の方向性や現状の課題感によって様々な理想を考えることができます。
テレワークを新型コロナウィルス感染症の緊急対応ではなく、「組織変革」につなげるためには、どうやら、これからの「理想(何のためにテレワークを推進するのか)」の設定がヒントになりそうです。その結果「実践していくこと」も変わります。
一人一人の「想い」にスポットライトを当てる
では、「テレワークの理想」はどのようにして設定すればいいのでしょうか。
アプローチには、「経営陣からの発信」や「プロジェクトによる推進」など様々な取り組みがありますが、「こうあるべきだ」といった理想を一部のメンバーで決めて、浸透させていくことは非常に難しい。
それぞれの会社のことを一番よく知っているのは「働く社員一人一人」です。「どんな形のテレワークだとやりやすいか」「どんな働き方をしていきたいか」など、社員一人一人の「こうなったらいいな」から組織の理想を描いていけば「自分ごと」にできそうです。
そこで、社員一人一人の「想い」を聞いてみてはどうでしょうか?
理想が決まれば、議論・対話ができる!
テレワークをはじめ、新たな取り組みを進める際には多くの問題が発生します。議論や対話などを重ねる必要があることもあるでしょう。
このような状況のとき、「理想なき議論」はそれぞれの意見の言い合いになり、結局は声の大きい人の意見や、楽に対応できそうな方へと流れていってしまいます。
一方、「このためにやっている」という共通の理想があると、1つ1つの問題を、理想を軸に意思決定することができます。
新しい組織づくりを行うためには、理想とそれを軸にした議論・対話の機会が重要です。「これからの理想」を設定すると、建設的な議論を生み、様々な施策を「目先の対策」ではなく、中長期的な「組織のあるべき姿」へと連れて行ってくれます。
危機に直面したときに強い組織とは
ハーバード・ビジネススクールの名誉教授である、ジョン・P・コッターは、組織変革の第一歩は「危機感の醸成」であると示しています。ここでいう「危機感」は、単に不安を煽ることではありません。 共有された「理想」と「現実」の正しいギャップ認識による、「理想に近づきたい」という変革に向けたモチベーションを意味しています。
理想と現実が明確であり、それが組織(チーム)で共通認識となっていることが、組織変革の第一歩です。真に危機に強い組織とは、危機から回避する能力に長けた組織ではなく、危機に対峙した際に、新たに理想を設定し、現実とのギャップから変革に向けたモチベーションを作り出せる、柔軟性のある組織です。
「テレワーク」をそれぞれの会社の「変革」のキッカケに
先の読めない今、私たちは何を信じて組織づくりを行っていけばよいのでしょうか。そして、どこに向かってチーム運営をしていったらよいのでしょうか。その答えはきっと、「社員一人一人の想い」に隠されています。
「テレワーク」はあくまで、会社を変革する1つの手段です。 今回のコロナ禍が、多くの会社の「変革のキッカケ」になることを願っています。
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著者プロフィール
新島 泰久也
「人と組織の発達を支援する」が信条。元経営コンサルタントとしての経営目線と、サイボウズの「チームワークメソッド」を織り交ぜ、「チームワーク経営(チームの生産性とメンバーの幸福が両立する経営)」の実現を目指す。 Coloring Lab.代表。一般財団法人 日本アロマ療法創造機構 専務理事。