若手が何を考えているのかわからない?世代間ギャップを感じていたのは、単に「話していなかった」だけ──シニアコンサルタント 松川隆
「最近、若手社員と話が通じない」「何を考えているのかよくわからない」──ベテラン世代の方々からそんな「世代間ギャップ」に関する話をよく聞きます。また、人事担当者の方々は「上司が話を聞いてくれない」「価値観が合わない」といった若手社員の声をよく耳にするそうです。最悪、離職につながるケースもあるとか......。
そもそも、このような「世代間ギャップ」はなぜ生まれるのしょうか? ギャップを解消すると、チームにとってどんな「いいこと」が起こるのでしょうか? 多くの企業の組織風土づくりに携わり、自らもベテラン世代の一人である、サイボウズ チームワーク総研シニアコンサルタント 松川隆に聞いてみました。
それって、本当に「世代間ギャップ」ですか?
チームワーク総研:松川さん、今回お聞きしたいテーマは「世代間ギャップ」です。
松川:世代間ギャップ......難しいテーマですよね。僕自身、現在進行形で悩んでいる等身大の「おじさん」なので(笑)。でも、そういう僕だからこそ話せることがあるかもしれませんね。
チームワーク総研:ありがとうございます。松川さんは普段、企業研修や講演を通じて多くの企業の方と接しています。その中で、世代間ギャップについて話題になったり、あるいは相談を受けたりすることはありますか?
松川:確かに、「世代間ギャップ」は話題になることが多いですね。明確な課題として相談や依頼を受けるケースもあれば、ヒアリングや雑談の中で「あ、それ......ひょっとして世代間ギャップでしょうか?」と出てくるケースもあります。
チームワーク総研:やっぱり、リモートワークの影響も大きいのでしょうか?
松川:あるかもしれませんね。出社が当たり前だった時代は、目が合ったら「あ、どうも」「昨日どうしてたの?」とか、たわいもない会話が生まれていましたが、リモートワークでそれができなくなった。
特に、コロナ禍以降に入社した若手社員とはそんな会話をする機会もほとんどないから、どうやって声をかけたらいいのかわからない。それが「いやぁ、世代間ギャップがねぇ」「ホント、何考えているのかわからないんですよ」という悩みにつながっている気がします。
でも、いきなり話が脱線するようだけど......僕は「それって本当に『世代間ギャップ』なのかな?」って思っていて。
チームワーク総研:どういうことですか?
松川:「世代間ギャップがねぇ」と言いながら、実は「世代間」にかぎらず、それまでも「ギャップ」が存在していたことに気づいていなかったんじゃないか、と思っているんです。
同質な人としか付き合いがなくて、「今日、飲みいくぞー」と部長が言えば「ありがとうございます!」と付いていくような、そんな同質なコミュニティができあがっていた。あるいは、異質な人、つまりギャップを感じる人に対して意識的に、あるいは無意識に関わろうとしていなかった。その結果、ギャップが見えにくかったわけです。
チームワーク総研:たしかに、上司から「飲みいくぞー」と言われれば、一緒に行きましたよね。本音の部分では「えー?」と思う時もありましたが。
松川:ところが今日の若手社員は、普通に意見を主張してくるから同質化させることができない。「あれ? おかしいな。オレの言うこと聞かないんだけど......」と違和感が生まれる。その違和感を「世代間ギャップ」の言葉で片づけているだけのような気もするんです。自分とは違う価値観を持つ人との付き合い方を、1つの切り口でしか説明できない、みたいな。
見えていなかった「世代間ギャップ」
チームワーク総研:ギャップが見えているか、見えていないかの違いだけで、そもそもギャップは昔から存在していた、と。
松川:そうなんです。世代間ギャップはいま今に始まったことではなく、昔からあったんですよ。見えていなかっただけで。
たとえば、かつて1980年代には「新人類」という言葉が流行しました。当時の若者たちは世間から「最近の若いヤツは......」などと色眼鏡で見られて、煙たがられていました。
チームワーク総研:その当時の世代間ギャップは、なぜいまほど問題にならなかったのでしょうか?
松川:1つの仮説だけど、その「新人類」より上の世代はいわゆる「団塊の世代」。第一次ベビーブーム世代で人口の最大のボリュームゾーンでした。だから、当時の「新人類」たちがいくら意見や文句を言おうがビクともしない。「え、何か?」「つべこべ言わずに働けよ」と数のパワーで"制圧"していた。
もう1つは、当時はインターネットやSNSがない時代。だから自分の会社の上司や先輩の言うことが絶対で、それ以外の会社のカルチャーやルール、価値観を知るすべがなかったんじゃないかな。
チームワーク総研:いまならSNSでいろんな会社の情報を拾えるけど、当時は会社という"村"の中で情報が閉じていた、ということでしょうか?
松川:そうなんです。だから、上司や先輩の言うことが絶対で、不満があってもその"村"で生きていくためにはしぶしぶ従わざるをえない。それどころか、「上司や先輩の"ご指導"に耐えていまの自分がある」というのがある種の成功体験にもなっている。
だから「オレが若い頃はな」「つべこべ言わずにやれよ」というのが上司としてのふるまいだと思い続けてきたし、そう行動してきた。
チームワーク総研:たしかに、そういうところがありましたよね。
松川:ところが時は流れて、気づいたら「多様性の時代です」「個性を尊重しましょう」などと言われてしまって、「自分の価値観を押しつけちゃいけないのかよ。でもそれ以外の方法、オレ知らないんだよな......」って嘆いている。それが、今日の「世代間ギャップ、どうしたらいいんだ~!」の正体なんじゃないか、と思うんです。
世代間ギャップにビビるのは「勉強不足」?
チームワーク総研:「世代間ギャップ」という言葉が、とりわけ今日においてクローズアップされる背景がなんとなく理解できました。その「どうしたらいいんだ~!」への答えはあるのでしょうか?
松川:僕も「世代間ギャップ、どうしたらいいんだ~!」の気持ち、わかるんです。両親が戦後のベビーブームで生まれた「団塊の世代」で、僕はその下のジュニア世代。学生時代はバリバリの体育会テニス部で、しかも前職は銀行という巨大ピラミッド組織の中で社会人経験を積んできた。
だから、上司や先輩の"ご指導"をたっぷり受けてきたし、「上の言うことは絶対」となんの疑いもなく思っていた一人です。意見を口にするようなヤツは「あいつ、変わってるな」「空気読めよ」と白い目で見ていた。
チームワーク総研:わかるような気がします。
でも、いまの若手世代は「自分の考えをプレゼンしましょう」「みんな違ってみんないい」といった価値観を小学校の頃から学んでいるから、悪意もなく「僕はこう思うんですけど」と口にすることができる。
しかも、インターネットやSNSがあるから、自分の会社以外の価値観やカルチャーを知ることもできる。昔とは明らかに環境が変化しました。
でも、こういう環境変化は何年も前から起こっていることだし、それこそSNSなんて10年以上も前からある。いまさら「多様性」と言われてビビってしまうのは......あえて言葉を選ばずに言いますよ。僕は「勉強不足」なんじゃないか、と思うんです。
チームワーク総研:勉強不足!厳しいですね。
松川:いやいや、「どの口が言うんだ?」なんですよ(笑)。僕だって、以前の銀行にずっと勤め続けていたら、おそらく1つの価値観やルールしか知らない「勉強不足」のままだったと思うんです。その頃は他社のことなんて興味なかったから、調べもしなかったし。
チームワーク総研:そもそも、知る必要がなかったのかもしれませんね。
松川:そう、知る必要がなかった。会社という"村"のルールや仕事の進め方を覚えて、一生懸命仕事にまい進していればよかった。それをダメと言うつもりはないんだけど、結果として、「入社して以来30年間、他社の話なんて聞いたことがありません」となる。でも、自分も一歩間違えていたら、そうなっていた可能性は十分にあるよな、って思うんです。
「世代間ギャップ」を放置することの弊害って?
チームワーク総研:世代間ギャップの「正体」がだんだん見えてきました。ところで、この世代間ギャップをなぜ解消しなければならないのでしょうか。当たり前のことかもしれませんが......。
松川:いえ、大事な質問だと思います。
これも世代間ギャップにかぎった話ではないんだけど、講演などでよくご紹介しているのは、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱した「組織の成功循環モデル」です。自分の中ではしっくりくる理論なので、こちらを使って説明しますね。
チームワーク総研:「バッドサイクル」「グッドサイクル」の2つのサイクルがあって、それぞれ結果の質・関係の質・思考の質・行動の質、という「4つの質」で構成されていますね。
松川:その「4つの質」のサイクルという点では、この2つはまったく同じです。
では何が違うのか? 「バッドサイクル」は、売り上げや業績といった「結果」から論じ始める。「業績上がっていないよね」とか。そこから「誰のせい?」「もっと頑張らなきゃいけないんじゃないの?」と、チーム内に対立や押し付けが生まれる(関係の質の悪化)。
すると「とりあえず頑張っているフリしておこう」「怒られるくらいなら何もしないほうがマシ」と思考が受け身になる(思考の質の悪化)。行動がどんどん消極的になったり、自己保身的な行動しかとらなくなったりする(行動の質の悪化)。だからますます業績が悪化する、というサイクルです。
チームワーク総研:なるほど、関係の質が悪化すると、思考や行動に影響を与えるわけですね。
松川:そうです。対して、「グッドサイクル」ではチームの「関係」が起点となります。業績が悪かろうが、まずは「今日の会議まとめてくれてありがとう」「あの発言、助かったよ」といっしょに働くメンバーを尊重して「関係の質」を高める。そうすると「もっとここを工夫したら?」「これをやったら売り上げが上がるかも......」と気づきやアイデアが生まれ(思考の質の向上)、積極的な行動やチーム内での協力が生まれる(行動の質の向上)。そして、業績が上向いていく(結果の質の向上)。
チームワーク総研:「結果」からスタートするか、「関係」からスタートするかで、こうも違うんですね。
松川:"まじめ"な会社ほど、「結果」から論じてしまう傾向にあります。業績が悪くなっているのに「昨日、何食べたの?」「最近どう? 元気?」といった仕事に関係のない会話は「不まじめ」「非生産的」とされてしまう。「目標を達成できていないのに何言ってるんだよ」「ムダ話しているヒマあったら手動かせ」「とにかくワンチームで。開発も営業に出てくださいよ」と、「結果」の話ばかりでどんどん職場がギスギスしてしまう。
チームワーク総研:確かに、結果に目が向きがちですよね。
松川:でも、気持ちはわかるんです。僕もこれまでの会社員人生で、「業績がよくないのに遊んでる場合か!」とモーレツに仕事していた時期があったから。でも、そんな時はどんなに"まじめ"に頑張っても業績は上がらないんだけど(笑)
「僕たち、自分の価値観を押し付けていただけなのかも......」
チームワーク総研:この「バッドサイクル」を「グッドサイクル」に転換するには、まず「関係の質」からスタートする、ということですね?
松川:そうなんです。たとえ業績が悪くても、まずは「関係の質」を高めるために、お互いを理解し尊重し合う。このことがとても大切です。で、世代間ギャップの話に戻ると、世代間ギャップを解消することは、まさにこの「関係の質」を高めることにつながるんです。
では、そのためにはどうすればよいか? まずは「話し合おう」。これだけです。
チームワーク総研:これだけ。
いま、チームワーク総研では「よいチームづくり」をお手伝いするために、さまざまな研修プログラムを提供しています。それらの基本はすべて「話し合おう」がベースにあります。
実際の研修では、グループワークを通じてとにかく「話し合いましょう」「聴くことに徹しましょう」と呼びかけます。僕たちもファシリテーターとして加わることで、より対話が活発になるようお手伝いします。
そして、研修が終わった後で感想を聞いてみると「こんなに時間を使って、会社のことについて喋ったことがなかったね」「このワークをほかのチームメンバーともやりたいね」って言う人たちがけっこう多いんです。
チームワーク総研:「話し合うことって大切なんだ」という気づきが生まれるんですね。
松川:ある会社の研修では、新人や10年目などさまざまな世代が混ざったグループを作って「わたしたちのありたい姿とは?」「わたしたちらしさとは?」といったテーマでワークを行いました。
すると、出てくる表現はそれぞれ違うんだけど、方向性としては同じような発言が多かった。「話し合ってみたら、意外といっしょのことを思っていたんだね」「なんだ、世代間ギャップってないじゃん。あると思い込んでたわ」という気づきが生まれたんです。
チームワーク総研:話すことで、お互いの共通点に気がついたんですね。
松川:また、別の会社の研修の例では「相互理解」をテーマに、とにかく「話を聴く」に徹するワークを行いました。聴き役の人が自分の話をし始めたら「ピピーッ!」と笛を鳴らして(笑)。それを一日中行った後の振り返りで、上の役職の参加者の方がこう言ったんです。
「とかく、自分の話ばかりしてしまうものだと気づかされました。そうやって、自分の価値観を押し付けていただけなのかもしれないな......」
こうボソッと言った瞬間、そのチームの空気がガラッと変わりましたね。
チームワーク総研:まずは「話し合う」ことで相手のことを知る。それが、世代間ギャップを解消していいチームをつくる第一歩なんですね。
松川:そうなんです。「結果の質」より、まずは「関係の質」を高めるために、お互いに話をする。くだらない、たわいのない会話でいいんです。そして、そのための時間を確保することです。
でも、この「まずは話し合おう」が難しいんですよね......
(後編に続く)
執筆:堀尾大悟 / 企画・編集:竹内義晴、三宅雪子(サイボウズ)
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著者プロフィール
三宅 雪子
チームワーク総研研究員・編集員。組織におけるチームワークを探求。働く人の強み・魅力を引き出し、人と人との関わりをチームの生産性へつなぐ道すじを探る。