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ウェルビーイング向上が組織進化に繋がった ──離職率28%時代のサイボウズが行ったウェルビーイング推進とは

「ウェルビーイング」が重要視されているけれど、ウェルビーイングとはどういうことなのだろう、何から取り組めばいいのか分からない、そもそも組織のためになるのか分からない、という人事や上司の立場の方も多いのではないでしょうか。

「ウェルビーイング」(Well-being)とは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念で、「幸福」と翻訳されることも多い言葉です。

引用:ウェルビーイング|日本の人事部

働き方の多様化や、健康経営、SDGsの取り組みなどを背景にビジネスの場で注目が集まっています。

この記事では、サイボウズが15年以上前から行ってきた、ウェルビーイング向上の取り組みのステップと、その取り組みのポイント、サイボウズに起こった変化についてお話します。

タテのコミュニケーションをして失敗

今でこそ、離職率が1桁台のサイボウズですが、2005年頃の離職率は28%でした。「職場環境がいい」とはお世辞にも言えず、業績も悪化。離職する人が後を絶ちませんでした。まさに会社の危機といえる状態でした。

そこで、「せめて、今いる社員が長く働ける環境をつくろう」「社員に喜ばれる制度をつくろう」と、人事が中心となり、試行錯誤での取り組みがはじまりました。

しかし、最初は失敗の連続でした。新しい人事制度を作っても、社員の納得度や制度の活用度は低く、「人事は社員の希望を分かっていない」と言われます。それは、「制度は人事がつくり、それを社員に下ろす」という当時の考えが、タテのコミュニケーションを生み、「人事 vs 社員」の構造をつくってしまったのです。

失敗を経てたどり着いた改善ステップ

人事が一生懸命社員のことを考えて、何か施策を打ち出しても上手くいかない状況をなんとかしたいと、制度を考えている段階で、「こういうことを考えているんだけど・・・」と人事から社員に相談する場をつくり、一人ひとりの話を聞くことをはじめてみました。

「在宅勤務をしようかと考えているんだけど...」「賛成です」「こういう点が懸念です」「こういうところから始めてみると良い気がします」

人事ですべて決めて伝えるより、案の段階から共有することで、現場に即した施策ができるようになりました。また、社員との対話で気づいたのは、社員一人ひとり、「抱えている事情も違えば、仕事に対する動機付けになるものも違う」ということでした。つまり、みんなが長く働ける会社になるためには、「一人ひとりの希望を実現していくしかない」と気づいたのです。

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上記のスライドは、サイボウズがたどり着いた組織の改善ステップです。

一般的に、「組織の生産性を上げてこそ、個人の幸福度を高める余力ができる」と考えます。つまり、上記ステップを右から左へ進めがちです。

当時のサイボウズでは、前述の通り、社員を一律にとらえた組織としての制度づくりをしていました。「まずは生産性を上げるために、チームで効率化や改善を行う。すると業績が上がり社員も幸福になる」――しかし、実際には疲弊した社員が増えていったのです。

そこで、上記の改善ステップのように、左から右へと流す逆の発想をとりました。対話からのボトムアップにより社員一人ひとりの幸福を実現し(幸福度向上)、メンバー間で働き方や役割にばらつきが出ることを補い合うために、個人戦ではなくチーム戦で仕事を進める(チーム戦へ)。その結果、全体の生産性が上がる(生産性向上)、というサイクルに徐々に近づいていきました。

今ではサイボウズ社内で当たり前となっている「複業(副業)」や「テレワーク」も、こうした社員の希望が発端となって実現した制度です。

社員一人ひとりが幸福に働けるように、社員と向き合って対応していく。これはまさに、今でいうウェルビーイング向上の取り組みとなりました。

ボトムアップがもたらした好循環

社員一人ひとりの意見を取り上げ、ボトムアップで制度をつくっていくやり方は、15年以上経った今でも変わらず行っています。こうして、人事制度が出来上がるプロセスが定着しました。

このプロセスによって、現在では「自分の意見が制度に反映されるのであれば、思い切って意見を言ってみよう」と、それまでなかなか意見を言わなかった社員からも声が上がるようになりました。

社員の声をきっかけに制度を検討する。人事だけで考えるよりも、多くの意見が出て、社員のウェルビーイングを高める可能性が拡がります。今では、人事制度は「与えられるものではなく、社員が自分たちで作るもの」という認識になっています。個人の希望を叶えながら、力を発揮できる社員が増え、多様化にもつながってきたのです。

これらは、ボトムアップがもたらした好循環と言えるでしょう。

大事なポイントは「平等」を捨てること

ボトムアップの循環を作り上げ、社員一人ひとりの話を聞いていくうちに、たどり着いたのが、現在の「100人100通りの人事制度」です。

社員の希望に対応していると、「平等でなくなるのではないか」「どこからか不満が出るのではないか」といった心配の声をよく聞きます。日本の教育や企業の制度では、「平等」が大事だとされます。

しかし、「平等」にとらわれるが故に、組織の中で不幸になる人々もいるのです。大事なのは、「平等」よりも「公平」を重視することです。「平等」とは、「みんな同じ」と画一的に捉えて、等しく扱うこと。しかし、平等を重視すると個性や多様性が失われます。一方、「公平」は、メンバー一人ひとりの希望やスキル、個性や多様性が尊重されます。

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「平等」よりも「公平」を重視することのイメージ

公平を重視することで、多様な個性が活かされます。その結果、一人ひとりの幸福が実現され、ウェルビーイング向上に繋がるのです。

ウェルビーイングの一歩

では、実際にウェルビーイングを向上するために、人事や上司は何から始めればいいのでしょうか。

ウェルビーイングのための仕組みを整えるところからではなく、メンバーに話を聞く姿勢を見せる「対話」から始めてみてはどうでしょうか。

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マサチューセッツ工科大学 元教授のダニエル・キム氏が提唱する「組織の成功循環モデル」によれば、組織としての「結果の質」を高めるためには、まず「関係の質」を高めるところから始めるグッドサイクルを回すべきだと言われています。

成果を求める「結果の質」から始めると、成果が出ている時はいいですが、成果を追求しすぎて対立構造や押しつけが生まれて「関係の質」が下がります。その結果、「思考の質」も「行動の質」も下がり、成果が上がらないというバッドサイクルに陥ります。

一方で、グッドサイクルでは、まず「関係の質」を高める、つまり関わる人たちでお互いを尊重し、一緒に考え、議論する関係性を築きます。議論していくうちに気づきが生まれて「思考の質」が上がり、自発的・積極的なチャレンジにつながって「行動の質」が上がります。その結果、「結果の質」が上がり、成果が出るのです。

成功循環モデルでは、「関係の質」を上げるために大事なことは、関係する人が集まれる場、議論する場を作って、その場の質を上げていくことだとしています。

マネジメントは「管理」することだと思ってしまいがちですが、管理を重視すると、結果が評価指標となるために、成功循環モデルでいうところのバッドサイクルに陥りやすい考え方です。

グッドサイクルを回すためには、まず「場の質」を上げ、「関係の質」を上げていくこと。 メンバーが集まって、トップダウンではなくボトムアップで意見を言い合うこと。つまり、「対話」するマネジメントをすること。

人事や上司が対話の機会をつくる、心理的安全性を意識するなど、話をしやすい場を整えていきましょう。対話が生まれることで、互いを知り、尊重し合い、一緒に考えていこうという姿勢を示しあえるチームができる。その結果、グッドサイクルが回り出すのです。

自分が幸せな状態とはどんな状態なのか、自分にとってのウェルビーイングとは何かを言語化できる方は多くありません。それを言語化して、一人一人の幸福度を上げていくためにも、メンバーに話を聞く姿勢を見せて、「対話」をしていく環境を作っていきましょう。

まとめ

公平に社員一人ひとりの個性と向き合い、幸福度・ウェルビーイングを向上することは、多様性を活かし、働く人の価値観の変化に対応できる組織を作ることに繋がります。ウェルビーイングの向上が組織の進化のチャンスと捉えて、聞く姿勢を持ち、対話の場をつくることから始めてみてはいかがでしょうか。


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著者プロフィール

鬼頭久美子

チームワークこそが仕事の醍醐味。多様なメンバーが活き活きして、多様な組織が活性化する、そんな社会をつくりたい。3児の母&時短コンサルタント。 国家資格キャリアコンサルタント。