「社会を変える」で自己満足するな――クラウドファンディング視点で考えるプロジェクトの実現可能性
※ベストチーム・オブ・ザ・イヤーのサイトから移設しました
存在するだけで日本にインパクトを与え、社会を変えるチームを創ってみたい。同じ思いで集まってきた参加者が、志をともにする仲間を集めチームを作り、実際に活動していく。「社会を変えるチームを創造。次世代リーダーフューチャーセッション」の取り組みです。
後半戦となる第3回は2014年2月22日に開催。男女約50名が集まり、「チームの骨子を作り、活動を継続する方法を考える」というテーマで話し合いました。初回、2回目で作ったチームで着実に成果を上げるためにはどうすべきか? 「クラウドファンディングでお金を集める」という新たな難題に取り組む"存在共感チーム"を追いかけます。(開催場所:イトーキ東京イノベーションセンター「SYNQA」)
第3回フューチャーセッションの流れ
1.チェックイン
2.ゲスト紹介
7.チェックアウト
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「ここにいる全員が存在共感チーム」だと意識する――チェックイン
存在するだけで日本にインパクトを与える、社会を変えるチームを創り出す。それがフューチャーセッションの目的です
冒頭のプログラム「チェックイン」では、サブファシリテーターを務める上井雄太さん(株式会社フューチャーセッションズ)が参加者にコンセプトを提示し、「存在するだけで社会を変えてきたものは?」と問いかけます。セッション前のウォームアップとして、話したことのない参加者同士がペアになり、5分間話し合いました。
インターネット、信号、電車、スマホ――。我々の暮らしに必要不可欠なものが次々と挙げられます。「形の有無に関わらず、その出現によって『ビフォアー』と『アフター』が変わるものこそが、存在するだけで社会を変えるもの」と上井さん。
メンバー全員がこのワークを通じて、存在するだけで大きなムーブメントを生み出し、社会を変える「存在共感チーム」であることを再認識します。
あなたのチームは本当に社会を変えられる? クラウドファンディングを使え
次に新たな発表がありました。各チームの活動をクラウドファンディング「READYFOR?」に掲載し、資金を集めることが目標の1つとして設定されたのです。
なぜクラウドファンディングがセッションと関わることになったか。ファシリテーターの野村恭彦さん(株式会社フューチャーセッションズ)は「これまでチームでやりたいことを考え、共感する仲間を集め、アイデアを実行へつなげてきました。この活動をより前進させるために、もう一段階上のサポートができないかと考えた」と振り返ります。
「存在するだけで世にインパクトを与えるチームになるには、自らのアイデアを自分たちが助けたい人々を含め、より多くの人々へ伝えて共感を得ることが必要です。クラウドファンディングを活用すると、私たちの思いが実現に近づくと感じました」(野村さん)
もちろん、クラウドファンディングによる資金調達はチームの義務ではありません。「ただ『活動をしてよかったね』という自己満足だけで終わるのは残念。皆さんの人生にとって大事な時間になることを願います」と野村さんは重みのある言葉で意図を語ります。
米良はるかさん、大洲早生李さん登場!――ゲスト紹介
続いてゲストの登場です。日本初のクラウドファンディングサイト「READYFOR?」を立ち上げた米良はるかさん。クラウドファンディングを使ってプロジェクトを社会に投げかける意味を教えてくれました。
「今回はチームの活動を『READYFOR?』に掲載し、資金を集めることが目標のひとつだと思います。活動内容がまだ明確に定まっていないチームもあるでしょう。まずは自分たちの活動を多くの人に発表し、どうすれば共感してもらえるか考えてみてください。それこそ意義のあることだと思います」(米良さん)
米良さんらが2011年3月に立ち上げたREADYFOR?では、累計4億円超の資金が集まっています。特にソーシャルメディアを活用して社会を変えたいと志す人が、数多く利用しているそうです。
「各プロジェクトオーナーにとって大変なのは、はじめの一歩を踏み出すこと。でも実際に踏み出してみるといろんな人たちが共感し、その人達を巻き込んでいける。そうなると活動の規模自体が大きくなっていく。皆さんの活動が、1年後には社会を変えるものになっていることを願います」(米良さん
米良さんからバトンを引き継いだゲストは大洲早生李さん。自ら東京ワーキングママ大学というプロジェクトを率いる立場から、「大きなことをしようとすると、ついアレもコレもと焦りがちですが、まずは肩の力を抜いてみましょう」という助言がありました。
「やりたいと手を上げた人が情報を発信し、それを実現させられる環境やインフラが整ってきた時代です。READYFOR?は皆さんのプロジェクトの価値を伝える『情報を発信していくツール』として活用してみてはどうでしょうか」(大洲さん)
チームの骨子をつくれ――フィッシュボウル
今回のフューチャーセッションの主要テーマは「チームの骨子を作る」ことです。そのために行ったのがフィッシュボウル。具体的には全9チームが二手に分かれ、「チームが生まれた背景」「想い」「実現方法」「最初の1歩」「パートナー」「ミッション」がどれだけ明確かを話し合い、客観的な視点でジャッジしていきます。
ではフィッシュボウルの様子を見ていきましょう。まずはチーム「学びの機会を増やして好きを見つける」です。
「『個人としてアツいものを見つけたい』――そんな思いを持ったメンバーが集まり、チームが生まれました。自分の思いを元にアンテナを張って、自発的に動ける人を増やしたいんです」(渡邉瑛子さん)
「チームの思い、やりたいことはよくわかります。では、最終的に実現したいことは何ですか?」(野村さん)
「......」
鋭いツッコミに言葉が詰まる渡邉さん。まだチーム内でも、他の人に伝わるようなアウトプットが出ていない状況のようです。
「正直なところ、『自分のやりたいことを実現するためのセミナー』といったアイデアはたくさん出てきます。でも『最終的なアウトプットは何?』と聞くと答えがなかなか出てこないんです。皆さんもよいアイデアは持っていると思います。でもそれが単なる自己満足で終わることは少なくありません」(納谷さん)
READYFOR? でキュレーターとして働く納谷春菜さんからは、さまざまなプロジェクトの成功と失敗を見てきたクラウドファンディング運営側からの厳しい意見が出ます。それとともに、チームを成功に導くエッセンスも話してくれました。
「まずはいつ、どこで、誰に何をしてほしいかを考えてください。現在思い描いている活動内容をコンパクトにして、『来月何ができるか』という視点で考えると、やりたいことが具体的に見えてきます」(納谷さん)
「クラウドファンディングは資金を集めるためのサービスです。お金が絡んでくるからこそ、自己満足で終わるのか、夢が形になるのかがハッキリと0か1という形で出てきます。数字には説得力がありますから、やりたいことと数字を絡めることが大事です」(納谷さん)
単に「やってみたいと思う気持ち」や「アツい思い」があるだけでは目標は実現しない。厳しい指摘から少しずつ弱点が見えてきたチームも少なくありません。
さらなる具体的なアウトプットを導き出す――継続の新たな視点を得る
フィッシュボウル第2ラウンドも見てみましょう。チーム「アシュラワーク」は、働き方に閉塞感を感じ、自分らしさを探している人向けに、複数の仕事を持った働き方を提案するチームです。
「働き方に閉塞感を感じている人に、複数の仕事を持つ働き方を提案していきます。軸はワークショップで、お互いのよいところを認め合いながら、人と人とがつながっていくことを大切にしていきたいです」(土屋志帆さん)
「皆が得意なことを持ち寄れたらと思い、コワーキングスペースや企業とのコラボも考えています」と話す土屋さん。対する米良さんのアドバイスは、その活動をどうやって周囲に伝えていくかについてです。
「『複数の仕事を持って活躍している人』というロールモデルを作るよりも、『こんな働き方もあるんだ』と共感してもらえるような『身近感』を出すことが重要だと思います。働き方のワークショップはたくさんありますが、無闇にオリジナル感を出そうとしなくてもいい。一人ひとりが変わっていき、アシュラワークのような動きをしている人がたくさん存在している。それを伝えるのが何よりも大事です」(米良さん)
2月にワークショップを開催して好評だったアシュラワークでしたが、米良さんのアドバイスには「好きなこと」をプロジェクトとして進めていくことの真の難しさが伝わったようでした。
チームの思いを多くの人に伝えるために――存在共感ストーリーボードを作る
次は「存在共感ストーリーボード」の作成です。改めてプロジェクトの立ち位置やコンセプトを定義し直します。
1.今回READYFOR?で行うプロジェクト
2.プロジェクトを始めた経緯・現在していること
3.誰のために・どんな問題を解決するためのプロジェクトか
チーム「30歳からの働き方Reデザイン」の話し合いから、この過程を振り返ってみます。
「READYFOR?では、ワークショップで指導できるトレーナーの養成費用を集めるのはどうかな? たくさんの場所でワークショップを開催できるよう、質のいいトレーナーを増やすのが大事だから」(山野さん)
この発言から話し合いが進むとともに、決めるべきことがたくさんでてきます。「養成費用は何に使うか?」「費用よりもやりたいことを決めよう」......。議論が難航する中、納谷さんが「チームのやりたいことを具体化させる質問」を投げかけてくれました。これが突破口となります。
「養成費用とは主催側の理由ですか? もしワークショップを地方にも広げたいなら、それを資金提供側のメリットとして書き出すべきです。どう活動を広げ、世の中を変えていくかより具体的に示すことが、プロジェクトを形に進めるポイントです。それがないと内輪感が残ります」(納谷さん)
「トレーナーが増えると、地方でも都内でも平日にワークショップを開催できる。開催場所や開催回数が増えれば、参加者も増えるはず。どこでも学べるような仕組みを作りたい」(山野さん)
「そもそも、見たことも会ったこともない人に対して出資するわけですから、熱意も大事です」(納谷さん)
助言をもらった30歳からの働き方Reデザインのプロジェクトは、「全国どこでもワークショップを受けられる人を増やすために、トレーナーを養成し、数を増やしたい」というように、より具体的なものに変わっていきました。
チームによる本日のまとめを発表――プレゼンテーション
ここまでに残った8チームが存在共感ストーリーボードにまとめたものを、プレゼンテーションで参加者に伝えます。今回は「誰のために・どんな問題を解決するのか」「READYFOR?で行うプロジェクトの概要」を8チームが発表しました。
spark
スポーツをしていない子どもに、カラダを動かす体験をリアルの場で提供するプロジェクト。スポーツを通じた「場作り」をするためにイベント出展の費用を集める。
エリアル ~エリアのリアルを届けるオンライン中継メディア
Iターン/Uターン希望者に、地方の人への仕事情報だけでは分からないリアルな情報を届けるプロジェクト。Iターン/Uターン希望者のコミュニティ作りに向けた、オンラインイベント開催の費用を集める
シェア図書館プロジェクト「Shablio」
もっと本を読みたい大学生、若手社会人に本を届けるためのプロジェクト。会場費やWebサイト管理費などの読書会の運営費用を集める
シェアでつながる本と人!シェア読書会Shablio(シェブリオ)
世界におんおくり
スリランカの寺院に暮らす子どもたちを支援するプロジェクト。文房具や衣類を一定量が確保し、現地に送る費用を集める
シェアビレッジ
都会の人が地方のこんにゃく作りの技術を継承するプロジェクト。地元の名産・こんにゃくを作る継承者不足の地域を舞台に「こんにゃく作り体験ツアー」の開催費用を集める
Share Life Project
困っている地域の人を救うプロジェクト。猫を介した地域づくり「ハローキティプロジェクト」の実施費用を集める
アシュラワーク
働き方に閉塞感のある人が生きやすい社会を実現するプロジェクト。初級?上級を含めたワークショップ運営費1年分を集める
30歳からの働き方Reデザイン
働く30代を自由にするたためのプロジェクト。平日や地方で開催する働き方ワークショップのトレーナー育成費用を集める
Lifework Library Project
「残念ながら、プロジェクトをたたむことにしました」
多くのチームが「チームの未来とこれから」を発表する一方、Lifework Library Projectの角田浩之さんはプロジェクトを終了する決意を吐露しました。
「僕がやりたいことは『想いをつなげること』でした。いろんな人の想いを集めたWebを作りたかったのですが、やりたいことを突き詰めた結果、友人がこれに近い活動をしていたんですね。僕は彼の活動にジョインし、別のやり方で力になりたい」(角田さん)
なぜ解散を決断したのか。角田さんの脳裏に浮かんでいたのは「自分の想いを曲げてまで他のチームに加わる必要はない」という言葉です。これは第1回セッションで野村さんが力を込めたこと。この言葉がひっかかっていた角田さんは、一人でプロジェクトを立ち上げたのでした。
「結果的に、想いを曲げなくてよかった。今になって野村さんの言葉の真意を理解しました。最後に、この場にいられて本当によかった。僕はひとりのチームでしたが、ひとりだけではできないことがたくさんありました。みんながいたからこそ、後悔せずにここまで進めました」
温かい拍手が会場を埋め尽くします。これまでの3回まで、すべてのチームが協力・共存し合ってきたことが伺える感動的なシーンでした。「ここにいる全員が存在共感チームです。プロジェクトをたたんでも、みんなメンバーの一員です」と野村さんは力を込めます。
3回目の感想と最終回のステージは?――チェックアウト
最後のチェックアウトです。第4回の最終セッションでは、本日チームで議論した内容をまとめてプレゼンをすることになりました。
「そのプロジェクトをどうすれば応援したくなるか」「本当に資金を提供したいと思うか」など、チームの枠を越えてお互いに助言し合いながら、最終日に向かって進めていきましょう」(野村さん)
「お金という数字を意識するだけで、皆さんが今まで以上に真剣味を持って取り組み始めたように見えました。どんなプロジェクトでもお金はつきまとうものです。ないならどう調達するか考えることで、プロジェクト自体にさらなる深みが出るはずです」(大洲さん)
野村さん、大洲さんからの発表と激励に、参加者は一瞬心配そうな表情を見せつつも、言葉に励まされているように見えました。フューチャーセッション全体が存在共感チームだと意識することで、心強い気持ちになれるのでしょう。
プロからの助言を基に、8つのチームはより具体的な道筋が見えてきました。フューチャーセッションは残すところあと1回。果たしてチームはどんな完成形を見せてくれるのでしょうか。
本フューチャーセッションの最終回は2014年3月15日(土)、各チームが最終プレゼンテーションを実施します。主催のサイボウズ株式会社・青野慶久代表取締役社長とイトーキ株式会社の松井正社長がゲストに登場。オブザーバーとして当日のプレゼンテーションを聴講したい方は、お問い合わせください。
著者プロフィール
ベストチーム・オブ・ザ・イヤー
ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。