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多様な働き方は、生産性を下げる? 「やりたい」支援でチームを変える──コンサルタント鬼頭久美子

多様な働き方の広がりによって、以前と比較すると、育児などの「制約」がある人でも働きやすくなってきました。

しかし、多様な働き方とチームの生産性は、トレードオフの関係にあると考えられることも多いもの。「制約」のある人が、これまで歩んできたキャリアコースから外れることを余儀なくされてしまう現状もあります。

こうした問題に対して、チームワーク総研コンサルタント鬼頭久美子は、「制約がある社員のキャリアを支援することこそが、チームの成長にもつながります!」と言い切ります。

現在は時短勤務で、チームではただ一人異なる拠点で仕事をする彼女に、「多様な働き方がチーム力を高める」理由と、実践のポイントを聞きました。

「バリバリ働いている自分」しか認めたくなかった

チームワーク総研:まずは、鬼頭さんのこれまでのキャリアからお聞かせいただけますか?

鬼頭:サイボウズに入社したのは2019年ですが、以前は大手企業に総合職として14年間勤務していました。中でも、新卒採用や女性社員のキャリア支援、研修の企画など人事のキャリアが長く、その過程で出産をし、産休・育休も取得しました。

私が新卒入社した2000年代前半は、まだ女性の総合職が少なかった時代。先輩の女性社員は、育児をしながらもバリバリ働く方が多かったですね。そんな先輩たちの姿を見てきたので、私も「育休明けで復帰した後も、会社への貢献度はできるだけ変えたくない」との意識が強かったです。


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鬼頭 久美子(きとう くみこ)。サイボウズチームワーク総研コンサルタント。前職、金融系企業で人事業務経験を積み、組織づくりと個人のキャリア形成に興味をもつ。国家資格キャリアコンサルタントを取得後、サイボウズへ。大企業を中心に、チーム力の向上を見据えた階層別キャリア支援、ダイバーシティ推進を得意とする。

チームワーク総研:一般的には、出産・育児を経て、働き方をシフトする女性社員の方もいらっしゃいますよね。

鬼頭:たしかに、周りには働き方を変える社員もいましたね。人事として、同様の相談もたくさん受けました。私自身は「必要であれば残業もする働き方」を選びましたが、内心では、「学校から帰ってきた子どもたちを"お帰りなさい"と迎える生活がしたい」という思いもあって、このままの働き方でいいのか不安がありました。


チームワーク総研:会社員としての自分と、子育てママとしての自分とのギャップに悩んでいた?

鬼頭:そうなんです。会社員としてのわたしは「バリバリ働いている自分」しか認めたくない。一方、ママのわたしは、子どもが大きくなるにつれて「子どもにもっと寄り添いたい」との思いがどんどん強くなっていきました。

仕事にはやりがいがあったし、上司や同僚にも恵まれていたのですが、当時のわたしには「仕事を頑張るか、辞めるか」の二択しかなかった。そこで、子育てに専念するために退職を決断しました。


チームワーク総研:会社で頑張って積み上げてきたキャリアをあきらめる。苦しい決断でしたね......。

鬼頭:退職後は、パートの仕事をしながら育児中心の生活を送っていました。

ところが不思議なもので、会社から離れてみたことで、「育児でキャリアをあきらめなくてもいいんじゃないか?」と思うようになったんです。他の人より働く時間が少なくても、やる気まで少なくなるわけじゃない。それに、やりがいを持てる仕事をすることは、子どもに対して後ろめたいことでも何でもないんだ、と。


チームワーク総研:会社のレールからいったん降りて、会社や仕事というものを俯瞰して眺めることで、子育てとの最適なバランスに気づいたんですね。

鬼頭:はい。そのことを家族にも話して、もう一度「自分にとっての理想の働き方」にチャレンジしようと就職活動をしました。その中で出会ったのがサイボウズだったんです。


せっかくの上司の配慮。なのに「イヤです!」

チームワーク総研:そのような経緯で入社したサイボウズですが、最初の印象はいかがでしたか?

鬼頭:驚いたのは、いい意味で社員が「わがまま」なこと。年齢や役職に関係なく、みんなが「わたしはこうしたいんです!」と思いを口にしているし、「あなたはどんな働き方をしたいの?」といった会話が普通に飛び交っている。

「多様性」という言葉が飾りではなく、社員どうしが互いを認め合うカルチャーが、この会社には日常会話レベルで染みこんでいるんだ、と目からウロコでしたね。


チームワーク総研:今までに経験したことのない「多様な働き方」ができるカルチャーが、鬼頭さんには新鮮に映ったんですね。

鬼頭:サイボウズでは前職のキャリアを活かし、人事やチームワーク総研のコンサルタントの仕事を任せてもらいました。東京での新しい仕事にやりがいと手応えを少しずつ感じていたのですが、ある日、夫が大阪に転勤することになりました。


チームワーク総研:サイボウズで新しい一歩を踏み出した、という矢先に......青天の霹靂ですね。

鬼頭:わたしの中では「家族と一緒に暮らすことだけはどうしても譲れない!」という思いがありました。でも、当時のサイボウズ大阪オフィスには、わたしと同じ業務をしているメンバーは誰もいなかったんです。


チームワーク総研:前の会社では「仕事を頑張るか、辞めるか」の二択でキャリアを手放しましたよね。このときはどうしたのでしょうか?

鬼頭:ずいぶん悩みました。でも、サイボウズでは、「チームの生産性も、働く人の幸福も両方大切」という考え方があり、社内のいたるところで見聞きしていました。もし、それが本当ならば、わたしも「自分の幸せ」をあきらめなくていいのでは──そう思って、上司に「大阪で、今の仕事をやらせてください」と相談してみたんです。


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チームワーク総研:自分の"モヤモヤ"を口に出してみた。思いきった相談ですね。

鬼頭:上司は少し悩んだ後、こう言いました。「ルーティン業務であれば、大阪にいてもリモートで一緒に仕事できますよ。どうですか?」と。


チームワーク総研:上司も鬼頭さんの思いを汲み、最大限の配慮をしてくれたんですね。

鬼頭:その気持ちがうれしかったですね。でも、それを聞いて......わたし、その場で「イヤです!」と即答してしまったんです。


チームワーク総研:「イヤです」! せっかくの配慮なのに......。

鬼頭:もちろん、「イヤです!」だけじゃないですよ(笑)。「こういう仕事のほうが、自分のやりたいことにかなうし、チームにも貢献できると思うんです」ということも伝えました。

すると上司は、大阪でこれまで通りの業務内容で活動ができるよう、チームにはたらきかけてくれたんです。


チームワーク総研:鬼頭さんの「わがまま」を、受け入れてくれたんですね!

鬼頭:完全に「わがまま」ですよね(笑)。でも、わたしも「ダメだったら退職するしかないんだろうな」との覚悟でハラをくくって打ち明けたんです。


チームワーク総研:その結果、チームへの貢献も、個人の幸せも両方かなえることができた。鬼頭さんにとって大きなターニングポイントになったんですね。

鬼頭:おかげさまでいま、自分が一番役立てると思える領域で、お客さまやチームのメンバーに恩返しができるよう、がんばれていると感じています。

この体験が「制約があっても、築きたいキャリアを最初からあきらめなくていいんだ」という、わたしのコンサルタントとしての信念につながっています。


「制約」を尊重することが、チームの生産性を高める?

チームワーク総研:ここからは、コンサルタントとしての考え方や価値観をお聞きします。育児や介護など制約のある社員の働き方について、多くの企業や管理職が悩みを抱えていると思います。

鬼頭:そうですね。ふだん人事や管理職の方といったお客さまと接する中で、なんらかの制約を抱える社員を理解したい、力になりたい、と考えている方は増えている印象があります。「ダイバーシティ&インクルージョン」や「多様性」といった言葉が浸透していることもありますし、ご自身が、子育てと仕事の両立に向き合う当事者である場合もあります。

一方で、会社からは「制約のある社員に配慮しましょう。でも業績は下げないでね」とプレッシャーをかけられている。そのはざまで悩んでいる方が多いですね。


チームワーク総研:「制約のある社員への配慮」と「チームの業績、生産性」が、どうしてもトレードオフのように思われているところはありますよね。

鬼頭:そうなんです。でも、わたしがサイボウズで経験したのは、「わがままが受け入れられ、キャリアが尊重されることで、より、チームに貢献したくなる」ということでした。つまり、「制約を認め、多様な働き方を尊重することが、ひいてはチームのためになる」わけです。


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チームワーク総研:制約を尊重、ですか?

鬼頭:はい。わたしの経験では、時間に制約がある分、効率よく仕事がしたい、自分がやりがいを感じ、成長できそうな仕事にチャレンジしたいと思いました。このように考える方は、わたし以外にもいらっしゃるのではないでしょうか。


チームワーク総研:成果も成長も、より効率よく得たいと。

鬼頭:もちろん、制約があるからこそ「いまはチャレンジングな仕事は控え、無理なくできることに集中したい」といった声もあるでしょう。大切なのは、「制約がある人は、このように働きましょう」と型にはめるのではなく、まずは「本人がどうしたいのか」に耳を傾けることなのではないかと思います。


チームワーク総研:なかなか、コミュニケーションコストがかかりそうです。

鬼頭:そうですね。必ずしも希望に沿えるとも限りませんし、そもそも希望が明確ではない場合もあるかもしれません。 結果そうであったとしても、まずは「一人ひとりに向き合い意思を尊重するプロセス」が、重要なのではないかと思っています。


生産性の原動力は、「やりたい仕事」

チームワーク総研:本人の意思が尊重されると、具体的にはどうなっていくんでしょう?

鬼頭仕事に対する主体性に影響が出るのではないかと考えています。「よし、やるぞ」という気持ちの面はもちろん、制約の中でも成果につながるよう、できることは自分で判断し、小さくてもチャレンジする......このような行動にもつながっています。

こうした変化が、仕事をする上での成長につながっているのではないかと思いますし、チームへの貢献につながっているのではないかと感じます。


チームワーク総研:制約の尊重が、成長のバネになると。

鬼頭:わたし自身、いま大阪でしているのが「やりたい仕事」だからこそ、たとえチャレンジングな場面であっても、メンバーと協働してやりきりたい、という思いがあります。過程で得るたくさんの学びをチームに還元して、成長を成果につなげていけたら嬉しいです。


チームワーク総研:「制約のある人がいると、周囲にしわ寄せがいく」といった声も耳にしますが、こうした姿を目の当たりにすると、認識が変わりそうですね。

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チームワーク総研:でも、ひねくれたことを聞いてしまうのですが、それでは「ボク(ワタシ)はやりたいことしかしません」という「わがまま」な社員が増えてしまいそうです......。

鬼頭:それ、よく聞かれます(笑)。「部下の『やりたい』を大切にするのはいいけれど、誰もやりたくない仕事はどうするんですか?」って。


チームワーク総研:当然ながら、やるべき仕事ってありますもんね。

鬼頭:そうですね。制約のある人に限る話ではなく、すべてのメンバーが「やりたいことができている」状態がいいですよね。「やりたいことができている」というのは、その人の得意な領域や、「成長したい」「貢献したい」といった気持ちが認識されている状態です。

日頃から「受け入れられている」という実感があって、お互いが分かり合っている関係性があれば、「直接やりたい仕事ではないけれど、得意分野だから、自分がやろうかな」といった気持ちが生まれます。


チームワーク総研:「やらされ感」じゃなくて、「わたしがやるよ」が生まれる。

鬼頭:押しつけ合いではない状態ですね。加えて、制約ある本人が「時間ないんですみません......」といった心苦しさもなくて。「お互いさまだよね」という状態です。そこには、個人として「大事にしてもらえている」「受け入れられている」といった実感が影響するんです。


チームワーク総研:やりたいことが認められると、本人だけではなく、チームにも良い影響がありそうです。

鬼頭:もちろん仕事なので、やりたいことだけで成立するケースは稀かもしれません。でも、本人の意思が極力尊重されていることが大切なのではないかと思います。


100人100通りの「ライフ」と「ワーク」を尊重し合える社会に

チームワーク総研:社員の「制約」が、社員の自律を促し、チームの生産性を高めるということは理解できました。一人ひとりのやりたいことを認め、多様な働き方を尊重するうえで、管理職の関わり方が重要になりますね。

鬼頭:そうですね。チームの環境づくりや、メンバーとの対話など、求められることはいくつかあります。ですが、コツは意外とシンプルです。わたしたちとしては、少しでも効率よく、管理職のみなさんの負担が減って、チームづくりが楽しく感じられるような支援ができるとうれしく思います。


チームワーク総研:最後に、鬼頭さんご自身の「やりたいこと」もお聞かせください。コンサルタントの仕事を通じて、どういう世の中を実現していきたいですか?

鬼頭:よく「ワーク・ライフ・バランス」と言いますが、わたしは「ライフ」があっての「ワーク」だと思っています。育児や介護だけでなく、それぞれの人にはそれぞれの事情がある。それこそ、100人100通りの「ライフ」があり、「ワーク」があるんですよね。

「制約」は、いまはなくても、人生のさまざまなタイミングで生まれる可能性もあります。すべての人が「制約」の当事者になりうるんです。


チームワーク総研:すべての人、ですか。

鬼頭:だからこそ、一人ひとりの力を最大限発揮でき、お互いが気持ちよく働ける環境をつくる視点が欠かせない。互いの制約や多様な働き方を尊重し合うことが、チームの生産性を高め、成長をもたらすと、わたしは信じています。

自分の子どもが大人になったときに、制約がある社員もイキイキと働けるような会社が「あたりまえ」の世の中になってほしいし、わたしもその実現に貢献していきたいですね。


執筆:堀尾大悟 / 企画・編集:竹内義晴、三宅雪子(サイボウズ)


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著者プロフィール

三宅 雪子

チームワーク総研研究員・編集員。組織におけるチームワークを探求。働く人の強み・魅力を引き出し、人と人との関わりをチームの生産性へつなぐ道すじを探る。