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離職率28%時代からのサイボウズを見てきた人事マネージャーが語る、「理想の研修の在り方」とは?

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今や、働きやすい会社としてご評価をいただいているサイボウズ。

しかし、そんなサイボウズにも、ブラック企業と揶揄されてもおかしくない時代がありました。様々な失敗や紆余曲折があるからこそ、今がある。

これまでのサイボウズのリアルを離職率28%の時代から経験し、採用と育成の責任者として試行錯誤を重ねながら社内研修を組み立て、現在はチームワーク総研の講師として数々の企業研修に登壇している、人事本部 採用育成部 部長の青野誠さんに、「理想の研修の在り方」と「研修に対する思い」を伺いました。

「ブラック時代のサイボウズ」のリアル

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――青野さんがサイボウズに入社したときのことを教えてください

私がサイボウズに入社したのは、2006年。出身の愛媛で就活をしているとき、サイボウズと出会いました。当時のIT企業って、「時価1,000億円を目指せ!」みたいな企業が多いイメージでした。

でも、サイボウズは「売り上げ」よりも、「便利なサービスをつくってお客様に届け、世の中を変えていきたい」という考え方で、とても好印象な企業でしたね。

――サイボウズの企業理念は「チームワークあふれる社会を創る」だそうですが、青野さんの入社当初から、チームワークを重視する文化だったのでしょうか

それが違ったんですよ。当時は、離職率がピークの28%という時期でした。その事実は入社してから知ることになるのですが。

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離職率が高かったのは、長時間労働についていけなくなる方や、短期で辞める前提で入社した方が多かったことが原因だと思います。

長時間労働を具体的に言うと、会社に泊まる人はいましたね。同期と夜な夜な牛丼を食べて、徹夜したのはいい思い出です(笑)

私にとって、長時間労働に関して辛さはありませんでしたが、非効率なことがたくさんあるなと感じていました。例えば、朝は絶対9時にオフィスに行かなければならず、少しでも遅れたら反省文を書くとか。営業先が家の近くでも一回出社しなくてはいけないとか。決まった案件数をまとめないと、出張に行けないとか。

このような、非効率なルールがたくさんあって、「何で、このルールに沿わないといけないのですか?」と質問するのですが、「ルールだから」で跳ね返されるんです。これはなかなか大変でしたね。

また、当時はM&Aを繰り返していて、様々な企業が一つのグループとして存在していました。そのために、「自分たちが何の価値を提供しているのか?」という一体感がありませんでした。売上も横ばいで、事業的には右往左往していました。

こういう中で働いていたので、実は私自身も、短期で辞めるという気持ちは、少しだけあったんです。

――辞める気持ちもあったのに、青野さんをサイボウズにとどまらせた理由は何ですか

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会社を辞めなかったのは、いいタイミングで「仕事の変化」があったからですね。入社当時は、営業やマーケティングの部署に所属し、2012年から営業と人事を兼任し始め、現在人事部で働いています。

また、サイボウズという会社自体、今と昔と比較すると全く違う会社と言ってもいいぐらい変わっています。変化が激しく、同じ会社にいる感覚が全然ないんです。

大きいところだと企業理念が変わっています。以前は、「情報サービスを通して世界の豊かな社会生活の実現に貢献する」というざっくりしたものでした。

2005年ぐらいに経営層が「組織変革を始めよう!」と決意したのですが、「共感できる理想を言葉にしよう」と議論を重ねた末に、「チームワークあふれる社会を創る」という企業理念になりました。その結果、「自分たちは何のために仕事をしているのか?」が明確になりました。

そこから、働き方の選択肢が増え、いろんな制度ができました。

仕事の面と企業カルチャーの面、どちらも大きく変わりました。とはいえ、制度が変わっても風土はそう簡単に変わりません。土台ができるのに、4~5年はかかっていると思います。変化の過渡期を見てきたなぁと感じますね。

厳しかった「飛び込み営業」研修

――ここからは、サイボウズの研修について伺いたいのですが、青野さんにとって最初の研修はなんですか

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新入社員研修ですね。入社式の翌日、「高尾山縦走」というプログラムがありました。これ、きゃっきゃっと登るんじゃないですよ。かなりガチな登山です。朝から1日中、山を登りました。

その後、希望部署に分かれて研修を進めていきます。私は、営業に配属されたのですが「飛び込み営業」という研修がありました。担当する地域を割り振られて、「1人100万円の売上をあげるまで終わらない!」という研修です。製品のインプットもしないまま実践するので、それがとても厳しかったですね。

今考えると迷惑な話ですが、朝、会社を出て、夜遅くまで飛び込み営業をしていました。サイボウズの営業スタイルは案件ありきなので、飛び込み営業をしたのは後にも先にもあの時だけでした。私は、1ヶ月ほどで100万円を売り上げて終わったのですが、長い人は3ヶ月近く取り組んでいたと思います。

他の部署の同期からは、「何でそんなことしてるの?」って聞かれることも多かったです(笑)

――ところで、なぜ営業から研修の仕事に携わるようになったのでしょうか?

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人事の研修に関わるようになったのは2010年です。

実は、人事に移動になる前から、営業部の若手に対して、プレゼンテーションとか、製品のデモの仕方とか、お客さんからよくいただく質問を元にしたロールプレイとか、提案の練習とか、「こういう風にしたほうがいいよ」とアドバイスをする勉強会を、先輩と一緒に自主的に企画していたんですよね。

当時は、若手がスキルアップをする機会がなくて、「先輩のやり方を見て盗め」みたいな感じでした。私自身苦労してきたので、「自分たちがやってきたことを若手にフィードバックして、成長する機会を作りたい」と思ってやっていたんです。

そんな折ですね。人事から「社員研修の企画、一緒にやってみない?」という話が来たんです。

私自身、新入社員時代に研修を受けて、製品知識が何もない中で、新入社員にいきなり飛び込み営業させるのは相当な負担だと思っていました。そこで、営業として働きながら、人事と一緒に研修をつくっていく仕事に携わるようになりました。

――研修に携わるようになって、どのような点を工夫されたのですか?

例えば、業務アプリが自由に作れるkintoneのような製品は、自由度が高い分、上手に提案しないとお客さまには伝わらないんです。お客さんにはどういう困りごとがあって、それをどう提案すればお客さまに伝わるか......このようなことを習得してもらうような工夫をしましたね。

あとは、個人戦からチーム戦に変えました。個人だと負担が大きいですし、いろんな社員の強みを発揮してほしいと思っていたので、一人のお客様に対して、マーケティング志望の人や、エンジニア志望の人など、営業だけではなくチームで提案するような形にしていきました。

サイボウズ人事マネージャーが思う「理想の研修の在り方」とは

――チームワーク総研の研修に携わるにあたって、大切にしていることはなんですか

そうですね......

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1つは、「何のために?」を伝えることですね。

人事として関わっていて実感するのですが、現在、サイボウズに入社する社員の価値観は、以前と比較するとかなり変わってきています。

昔は、「やれ!と言われればやる人」が多かったですが、今は、わかりやすい成長だけではなく、幅広い職種にチャレンジしたい人や、売上より社会的な影響の方が大事な人など、様々な価値観の方が集まっています。決まりすぎた研修ではモチベーション高く取り組める人は少ない。

だからこそ、ただ、「これをやれ」ではなく、「何のためにやっているのか?」をしつこいぐらい伝えています。そうしないと、何も伝わらないですし、社員がモチベーションを保っていけないんです。

これは、社外のみなさんにとっても重要だと思っています。今、社外に提供しているサイボウズのメソッドとしては、問題解決メソッドやチームワーク創造メソッドなどがあります。

研修で議論の方法をお伝えしているのですが、「そもそも、何を目指したらいいか分かっていない」という場面がよくあります。つまり、上位の理想がはっきりしていない。だから、議論が進まないんです。

たとえば、研修で「残業減らしたい」という話し合いをするときに、よく、こんな質問をします――「皆さんの理想の働き方は、残業を減らすことなんですか?」。

すると、「シーン」と。

会社としての大きな理想が共有されていない。理想がないから、何が問題で、解決するために何をすべきなのかがはっきりしないんです。

しかし、理想から考えることで、「そもそもの議論」ができます。そこで、理想を明確にする方法をお知らせしたり、ファシリテーターとして関わって、理想を言語化するお手伝いをしたりしています。

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もう1つは、生産的な議論の進め方を伝えることです。

一般的なチームの課題として、「お互いがそれぞれの解釈で話すために議論がかみ合わない」があります。

例えば、営業サイドから「開発がいいものを作らない」みたいな問題はよく出てくる話です。けれども、「何を見て、そう思うんですか?事実はなんですか?」と問いかけると、その答えは出てこないことがほとんどです。

答えが出てこないのは、「事実ではなく、解釈で議論するから」です。解釈の議論は、いざこざがよく起きます。

いざこざを防ぐためには、「何を見て、そう思うのか」「事実は何なのか」をハッキリさせて、事実ベースの議論をすることが大切です。これができると、お互いの認識が合って納得感が出ます。認識が合うと原因が見えてきて、何をすべきかも見えてきます。

また、生産的な議論をするためには、「共通のフレームワーク」が大切です。同じ言葉を使って、同じ進め方で議論したほうが生産的です。

そこで、「質問責任と説明責任」や「事実と解釈」など、サイボウズ社内で議論をする際に大切にしている言葉の定義や、進め方をお伝えしています。

――研修に携わる中、今後、どんな会社が増えるといいと思っていますか

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明確な理想があって、理想と現実のギャップをはっきりさせながら、自分たちで議論でき、自分たちでアクションをとれる会社が増えるといいですね。

そうすると、楽しいと思うんですよね。上が決めたことを、言われたことをやるんじゃなくて、自分たちで決めて、やるんです。

サイボウズ代表取締役の青野慶久は、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』という本の中で、「会社さんはいない」と言っています。「会社」とは、人の集まりを便宜上「会社」と言っているだけであって、「会社さん」という人はいないという意味です。

会社を変えるのは難しいですが、自分なら変えられます。会社を変えたければ、誰かが変えなければいけないんですよね。「うちの会社はイケてない」と言いたくなることもあると思いますが、変えたいと思ったら、自分たちで変えればいい。

熱意を持ってやれば変えられると思うので、まずは、自分たちの周りから変えることをあきらめないでほしいですね。

文:長田 涼 撮影:尾木 司 企画・編集:竹内義晴

著者プロフィール

竹内義晴

チームワーク総研とサイボウズ式編集部の兼務。新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながらサイボウズで複業しています。「2拠点ワーク」「週2日社員」「フルリモート」というこれからの働き方を実践しています。