コスパより「理想」を追え!──藤代ゼミで行った大学生向けチーム議論のメソッド
※ベストチーム・オブ・ザ・イヤーのサイトから移設しました
サイボウズ株式会社が、法政大学社会学部メディア社会学科の藤代裕之研究室の学生に行った「ビジネスチームワーク体験」プログラム。 前編では、「チーム」や「チームワーク」の基礎となる考え方について学びました。後編では、"問題解決メソッド"を使って、「チームで議論する」ときの"効率的な議論の仕方"を体得していく模様をお届けします。果たして、チームワークを発揮しながら、問題を解決することはできるのでしょうか?
議論をするために「言葉の定義」を学ぶ(=共通言語を持つ)
2日目は「自分たちで議論をして、問題解決できるようになる」を目標に、各チームでワークに取り組みます。 その前に、問題解決のフレームワークを使うにあたって、共通で使う言葉の「定義」について、ファシリテーターの青野さんより説明がありました。
事実 | 起こった事象。五感で確認できる確かさの高い事象。 (例)室内の温度が現在23℃ |
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解釈 | 思った事象。頭の中で創り出したこと。(例)今、室内は暑い |
問題 | 「理想」と「現実」のギャップ |
原因 | 「現実」を引き起こした「人の行動」 |
課題 | 現実を理想に近づけるために、具体的に活動すること(ToDo) |
※事実がインプットされて、解釈が生まれる。解釈は人の見方によって異なる。
※問題があること自体は悪いことではない。現状がよいと考えることで、理想と現実のギャップ(問題)はなくなる。
※「問題」を相手に伝えるときは、「理想」と「現実」の両方を伝えると伝わりやすい。
次に、今回、実際に問題解決に取り組むステップが紹介されました。
宿題になっていた"自分が解決したい問題"を発表し、自分が取り組みたい問題によって、班に分かれます。
今回挙がった問題は以下の12個。似たものはまとめてあります。この中から人数の多かった青文字の問題に取り組むことになりました。
1.計画性がない
2.連携がずれる
3.ゼミでお金を使いすぎる
4.ゼミの話し合いで参加している人とそうでない人の差がある
5.アドバイスの仕方が悪い
6.毎回仕事の割り振りがいつも同じようになってしまう
7.効率が悪くて寝られない
8.資料が整理できない
9.全員で会議ができない
10.飲食店が近くにないので昼食のバリエーションがない
11.ゼミの提出・集合の時間に間に合わない
12.会議が長い
実際に共通言語を使って、問題解決にチャレンジ
ここから1時間のワークがスタート。まずは付箋に問題を書き出し、それをホワイトボードに貼りながら、「理想」と「現実」に分けていき、さらにそれを「解釈」と「事実」に分けて、マトリックスを埋めていきます。
「問題」のところに「原因」と「課題」を入れてしまったり、「解釈」と「現実」の分解を誤ってしまったりと、苦戦する学生のみなさん。つい、たくさん出せばいいという罠にハマったり、同じところから抜け出せない学生さんの様子を見て、青野さんは「事実と解釈は連動するようにしましょう。対比させることで、シンプルに考えられるようになります」と声をかけます。
途中で何度か頓挫しながらも、フィードバックをもらいながら最後まで辿り着いたチームもあれば、根本にある問題の根深さに、途方に暮れてしまうチームもありました。
1時間経って、議論は終了。各チームの発表に移ります。
ゼミでお金使いすぎ問題
このチームでは、ゼミの懇親会や合宿の費用が月平均1万〜1万5000円かかってしまっている現実を、なんとか1万円くらいに収められるようにしたいという理想を掲げました。
お金を使いすぎてしまう原因を『食費』『環境』『イベント』の3つに分けて考え、それぞれの原因と課題を次のように結論づけました。
■フィードバック
理想と現実・解釈と事実のマトリックスをシンプルにできたのは良かったけど、原因の深掘りが甘い。「ちゃんと計画を立てる」で終わってしまっては、何も解決してないですよね。明日から誰が何をするかは決まっていますか? 「こうなるといいよね」で満足して終わっちゃってるところが残念です。あと、理想がワクワクしない。みんなゼミが好きなんじゃないの?質を担保した上で活動費を減らすっていう理想なら、みんなも納得感があって実現されやすいのかなと思いました。引き続き考えてもらいたいと思います。
計画性がない問題
このチームは結局ほとんど白紙のまま終わってしまいました。
「ひとつだけ気付いたのは、まず"計画を立てたことがない"ということ。いろいろ意見は出たのですが、計画というものがなんなのかわからなくて、詰まってしまいました」と、議論が進まなかった理由について答えました。
■フィードバック
"計画を立てたことがない"ということに気付けたのはよかったとは思いますけども、結局、理想は「計画性がある」、現実は「計画性がない」っていう、シンプルなことですよね。そこから、「計画の立て方がわからない」という原因が見えてきたんだと思う。そこで思考を停止せずに、"どんな課題があるか"までいけたらよかった。例えば、「プロジェクトマネジメントの本を買って誰かが読んでみる」とか「先生やサイボウズの誰かに話を聞きに行く」でもいいんです。そうやって身近な課題に落とせれば、明日から一歩踏み出せますね。
効率が悪くて夜ねむれない問題
このチームが取り組んだのは、睡眠不足について。現実は「3〜4時間睡眠で常に睡眠不足状態」、理想は「6時間は布団の上で寝たい」のだそう。そのために、睡眠時間を長くする前に睡眠の質を向上させようということで、「ホットミルク・高い枕を使う・ホットアイマスクを使う」といった個人の課題を挙げました。
さらに、睡眠不足のそもそもの原因が、"ゼミの課題がしっかり進まない"ことにあるということで、次のような課題を挙げました。
- はっきり物を言う・人任せな点を改善する
- 自信を持って一人一人が意見を持つ
- ロジカルシンキングの勉強をする
- なるべくスマホを放置しないで、予定を共有しておく
- 個人がやるべきことを忘れずにちゃんとやる
- 話し合いの前にそれぞれ意見を考えておき、議事録や進捗報告など会議のルールを見直す
- ゴールがぶれないよう、デスクトップに問題を書いて貼っておく
- 定期的にサブゼミの日をあらかじめ決めて、スケジュールをあわせるようにする
- 夜は頭が回らないので、朝活で解決する
■フィードバック
流れとしてはうまい具合にできていたように思いますが、明日からこれほんとに全部やります? やることが増えて、余計に眠れなくならない?(笑)。流れで考えると、なんとなくうまく繋がった気になるけど、「どれを実行すると現実が理想になるか、果たしてできるのか」と、最後に検証しないとダメ。今回の問題に対する課題としてコストが高すぎると思います。いっぱい課題を出すのはいいことだけど、"コストが低くて効果が高いこと"をやったほうがいいので、課題を分類して優先度を決める必要がありますね。
別のチームも睡眠不足について考えました。
■フィードバック
割と良い流れでできていると思います。「誰がどうやってやるの?」とか、「予定をどうやって共有するの?サイボズLiveで?」といったように、課題をもっと具体的に落とし込めば実行されやすいですね。
会議が長い問題
初めから順調に進んでいた、こちらのチーム。「警備員に追い出される夜遅くまで学校にいるのが当たり前になっている」という現実を、「18:20にすべて終わって帰る」という理想の状態に近づけようと考え、そのためにはゼミの課題を早く終わらせる必要があるということで、次のような原因と課題を導き出しました。
■フィードバック
よくまとまっていたと思います。実行すれば理想に近づきそうな気がしますよね。プロジェクトリーダーの役割やルールを明確にして、みんなを巻き込んでできるようになると、問題が解決しそうですね。
2日間の総括として
ワークが終わり、最後にサイボウズのみなさんと藤代先生から、総括がありました。
サイボウズのみなさんからは、次のようなことが伝えられました。
- 『事実と解釈を分ける』『理想を共有する』この2つをこれからも使って議論してみて欲しい
- 自分の「やりたいこと」を時系列で話せる人は意外と少ないので、『将来に対して今、どういう行動をしている』と話せる人になって欲しい
- 事実を伝えると説得力が増す
- ワクワクする理想を持てる人になって欲しい。プロジェクトを仕切る人は、みんなが「それならやりたい!」と思える理想を出せるようになって欲しい
また、ゼミの教員である藤代先生からも、
僕が進捗管理をやりすぎているという問題が明らかになって良かったです。大いに反省します。計画を立てたことがないというのは、想像以上の驚きでした。これは危ない。計画とは、何をいつまでにどこまでやるのか、ゴールを設定しておかないといけない。これから教えていこうと思います。
それと、はっきり言って、理想が小さい。コスパを重視するあまり、小さな理想になってしまっている。
どういうゼミ活動にしたいかという話はないまま、『帰りたい、安くしたい、寝たい』。これはなかなか厳しいなと思いました。
僕が日本のジャーナリズムを変えたいから教育をしているように、社会に出れば、たくさんの人が夢を語って、社会を変えようと行動している。
大事なのは夢。チームで何をするか。今日学んだやり方を忘れないでください。どんなに難しい夢でも、もっと考えて前に進めるゼミになってもらいたいです。
今回のワークショップでは、学生のうちにチームワークや議論の方法について学ぶ必要性が浮き彫りになりました。
厳しい言葉の数々は、社会に巣立つみなさんを想っているからこそ。残されたわずかな時間を大切にしながら、今後の学生生活に活かしていただけたらと思います。
(執筆:野本纏花)
著者プロフィール
ベストチーム・オブ・ザ・イヤー
ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。