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「職種によって在宅勤務ができる人とできない人がいる。それって不公平?」 ──サイボウズの働き方制度ができるまで vol.2

「制度が人を、人が制度を変える!?サイボウズの働き方制度 vol.1」では、かつてサイボウズの働き方の選択肢が『時間数』で3タイプになるところまでを追いました。

後編となるこの記事では、『働く場所』の概念を取り込み、現在に至るまでの紆余曲折を追います。

■働き方制度のもう一つの軸『働く場所』

★「働く場所」の制度化に携わった人事本部の中根弓佳と恩田志保

中根さん恩田さん3.jpg

今を遡ること約10年、2009年ごろのお話しです。働く場所について、当時は営業部など外勤の多い部門では、会社外で仕事をするケースがありました。

一方で、営業とは別部署の女性社員数人が、同時期に出産ラッシュになりました。産休明けの女性社員の様子を見て、社長の青野は次のように言いました。

「会社に保育園をつくるのはどう?」

そう言われた当事者の一人、チームワーク総研の和泉純子は、当時こう思ったといいます。

「保育園を作るって言われても、家が遠くて子供を連れて来る方が大変。それなら、家で仕事ができたほうがいいなぁ」

営業部門の先例もあり、社外勤務=在宅勤務を制度として整える検討が始まりました。

しかし「出社しない勤務」は、当時は社会的にまだ珍しい状態でした。その頃から人事に参加し、自らも育休復帰を経験していた中根弓佳(現サイボウズ執行役員 人事本部長 兼 法務統制本部長)は、「前例のない試みに不安でいっぱいだった」と言います。

実際、中根の元には

「家ではできない仕事の担当者にとっては不公平じゃないですか?私の場合、紙の請求書持ち帰らないと・・」

といった、様々な声が寄せられたと言います。

他にも、「セキュリティは大丈夫か?」「さぼる人が出ないか?」「マネジメントや評価は?」・・・問題は山積みでした。

■ルールは少なく、目的は共有

中でも大きな心配としてあがったのは、「マネジメントや、周囲とのチームワークがうまく行かないのでは?」という声でした。そこで議論の末、対応策が用意されました。
 ● 各自のスケジュールをオープンにしよう
 ● 始業終業を、グループウェアで連絡(コメント欄に記入)、共有しよう
 ● 各部門に適した運用ができるよう、各部門で裁量をもとう
 ● 各自の稼働時間帯や働く場所については、事前に宣言しよう

そもそも、社長の青野の方針は次のように明快でした。

「目的さえ明確だったら、ルールは細かくなくていいからやってみよう」

導入の目的は3つです。
 ● 業務効率の向上
 ● ワークライフバランスの支援
 ● 雇用の創出

利用ルールは、月4回まで。申請はアプリからです。3つの目的から自分に当てはまるものを選び、その日の成果物を提出します。

在宅勤務制度は強制でも何でもなく「やりたい人ができればいいね」というスタンスだったため、「在宅勤務制度で給料やモラルの低下がおきれば止めましょう」という前提も共有されました。結果として、決めたことはそのくらいでした。

「ルールを決めすぎると、そこにひっぱられてやりたいことができなくなると考えました。最低限の枠だけでテスト導入をし、そこから作っていこうと。」(中根)

そして、まずはテスト導入から始まりました。大きなトラブルはなく、2011年から本格運用へと移行します。

しかしその後、想定していた「在宅勤務」の働き方とは違う動きが出てきたのです。

■その人にとって『一番効率的な働き方』とは?全社員に議論を公開

当時の在宅勤務は「月4回まで」。しかし、「常に在宅曜日を作りたい」という人が出てきました。

「その人にとって一番効率的な働き方を、それぞれが探求すれば良いのではないかと考えました。」

現人事部副部長の恩田は振り返ります。多様化を許容し、生産性を維持向上できる働き方はできないものか?制度に人を当てはめるのではなく、人に合わせて制度を整えていく考え方でした。

そこで生まれたのは、「働く場所と時間を"イレギュラーで"選べる」働き方「ウルトラワーク」の発想です。命名者の中根は背景についてこう言います。

「ウルトラワークは、様々ある既存の働き方を超えた!という意味なんですよ。アイディアを出した当時は、ウルトラなんて言ったら働く場所を自由に選べるっていうより、めっちゃ働くになっちゃうね(笑) と言われることもありました。」

★ある日のチームワーク総研スケジュール

ウルトラ3.png

このウルトラワークも、在宅勤務制度の時と同じ様に、まずテスト導入から始めることにしました。人事の発案をいきなり制度化するのではなく、全社的に議論を進め、共有を深めた上での導入を目指しました。

ウルトラ資料.png

まず、テスト導入前に、グループウェア上で「ウルトラワークの評価質問箱」という公開アプリを作りました。社員誰でも疑問やモヤモヤを質問することができ、回答や議論内容を共有できる仕組みです。

テスト導入中にはアンケートをとり、利用状況や利用意志、使いやすさや効果、気づいた点など、社員の考えを聞きました。その結果を元に有志で会議を開き「どうしたらうまく使えるようになるか」を話し合いました。

ウルトラワークは約7カ月の試験導入を経て、2013年に本格運用となりました。

サイボウズ内ではこのような検討を重ね「オフィス以外で働く」選択肢が作られていったのです。その後新たなTV会議システムの導入もあり、現在では多くの社員が、オフィス以外でリモートワークをしています。

■働く人の実態を見ながら、制度の変化は続く

その後、「働く時間」と「働く場所」を掛け合わせた9タイプから選ぶ「選択型人事制度」へ変化し、現在はさらに働く時間数と働く場所を、一人ひとりが「どういう働き方をしたいのか」によって宣言する「働き方宣言制度」へと移行しました。

★各自が働き方を公開しています

働き方例.png

この移行の時にも、例えばマネージャー層からは「働き方がさらに多様化したときにどう調整するのか?」「給料の検討をどうするのか?」などの疑問があがりました。マネージャー向けの議論や全社に意見を聴くなど、複数の場を経て今の形になっています。しかし、中根は言います。

「簡単ではないです。一人一人の働き方の形に合わせて、チームでできることをつくるのは。幸せのポートフォリオにはいくつかの要素があって。給料、時間、場所、経験、仲間とか・・・それは人によっても違いますよね。チームから得られるものをうまく個人の幸せにマッチさせていく。その最適化が難しいです。」

人を見ながら制度を整え、制度により人も変わっていく。その動きの中で、制度はこれからも同じ形ではなくて、働く人を見ながら形が変わっていくのでしょうね。



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著者プロフィール

三宅 雪子

チームワーク総研研究員・編集員。組織におけるチームワークを探求。働く人の強み・魅力を引き出し、人と人との関わりをチームの生産性へつなぐ道すじを探る。