「とにかく頑張れ」「名刺100枚もらってこい」なんて精神論、有害無益でしょう――ライフネット生命 出口治明さんに聞く、最強チームの作り方【前編】
※ベストチーム・オブ・ザ・イヤーのサイトから移設しました
新しい価値を生み出すチームとはどのようなものか? 特集「最強チームの作り方」では、新しい価値を生み出すチームの"リーダーシップ"や"コミュニケーション"の考え方に迫ります。大企業から新進気鋭のベンチャー企業まで、大小さまざまな規模でチームを作ってきたライフネット生命保険株式会社、創業者の出口治明さんに、普遍的なチームの作り方を聞きました。
(出口さんへのインタビューは、「面従腹背なチームに足りないもの? 「思い」「共感」「コミュニケーション」の3つです――ライフネット生命 出口治明さんに聞く最強チームの作り方【後編】」に続きます。)
「人は石垣、人は城」――理想のチーム作りに必要なリーダーの素養
ずばり、強いチームとはどんなチームなのでしょうか?
「人は石垣、人は城」という言葉があります。石垣は、とがっていたり、三角形だったり、四角形だったりという異なる石を組み合わせて作ります。チームを作ることも石垣を作ることと同じなんです。適材適所で人をよく見て、どう組み合わせれば強くなるかを考えることが、強いチームを作ることのすべてです。
人間は石垣の石と同じで、みんな違います。同じメンバーでチームを作る場合も、組み合わせようによっては良いチームになったり、ダメなチームになったりする。例えばファンドマネージャーで、すごくアグレッシブな人と慎重な人の2名がいるとしましょう。上げ相場ではアグレッシブな人、下げ相場では慎重な人を(チームの)前面に立てた方が成功します。逆だと失敗することはお分かりでしょう。
変わり続ける社会環境をよく見て、その時々にあった人の配置を行う。それが強いチームの作り方です。何でもできる人はそうそういませんので、メンバーの適正を考えながら、変化に応じてチームを作っていくことを再優先すべきです。
変化に応じてチームを変えていくためにすべきことは?
リーダーがメンバーをよく見て、インタビューをていねいに繰り返し、能力とやりたいことを見極めることが基本です。その上で、社会の変化とその人の個性にあったチームを作っていく。予算が潤沢にあり、良い人材を外部から取ってくることはなかなかできません。だからこそ、現状(のメンバー)で、どうチームを作るかを考えることが基本なのです。
今いるメンバーを「ていねいに使う」ということです。ファンドマネージャーの例では、二人の役割を逆にしてしまうと、チームがめちゃくちゃになることは分かりますよね。リーダーは「人をどう使い」「どう組み合わせて」チームを作るかを考え続ける必要があります。
理想的なチームの作り方について、どうお考えでしょうか?
簡単です。上に立つ人が小さな石になって、石垣の中に入り込んで、つなぎあわせるのです。常に人をよく見て、ほったからしにせずに、トラブルがおきそうな場合はそこに入っていかなければいけない。
人間はみなとがった存在ですから、放っておいてもチームワークは生まれません。また人間は面倒な動物です。植物と同じように水をやったり世話をしなければ枯れてしまいます。それをしないようにチームを作っていくのが、リーダーの役目です。
マネジメントの本当の意味、理解していますか?
それは、リーダーには「マネジメント」が求められるということでしょうか?
まずは私が考える「マネジメント」の定義を示しておきましょう。マネジメントとは「人を使う」ということです。今どの方向に風が吹いているか、社会がどの方向に変化しているかを見極め、上げ相場なら強気な人を前面に立てるというように、チームを構成していくことがマネジメントです。「人を使う」ためには、世の中をよく見て、手元にある石をどう配置すればワーク(機能)するかを考えなければいけません。
マネジメントは「管理」であり、「人をうまく活用して仕事をすること」を意味します。マネジメントは社長だけでなく、部長や課長といったチームを率いる人が備えておくべきもの。サラリーマンの仕事の延長線上にはない、別物の仕事だととらえるべきです。
「マネジメント力」はどうすれば身につくものでしょうか?
勉強が必要ですし、練習しなければ身につきません。「人を使う」というのがマネジメントの本質ですから、「人間と社会を知る」ことに尽きます。人が集まればチームができ、そこに社会ができるわけですから。
人間がどんな動物でどんな知恵を持っているか、どんな構成要素で社会が成り立っているかを知り、人を使うことに対するケーススタディをたくさん勉強することですね。小説を読み、歴史を学び、社会を学ぶ。「人がどんな場面でどう人間を使ってきたか」を脳みそに入れておかないと、本番の仕事では真似できませんよ。
マネジメント力を身に付けるには、何より勉強が必要だと。
そうです。あなたに部下が二人いるとします。一人はいつも勉強をして、いろんなことを知りたがって、社外研修にも参加する。もう一人は合コンばかり。あなたならどちらをマネジャーにしますか? 子どもでも分かりますよね。
米国の大学生は1年間に400冊もの本を読むといいます。日本の大学生は100冊だそうです。同じ会社に入ったらどちらが上司になるか、決まっていますよね。勉強もしない、自分で考えない、努力をしない――そんな人にポストが与えられるはずありませんよね。
人間は本来、楽をしたい生き物なのです。しかし、楽をしていては楽しい人生は送れません。自分に力があればいいポストにつけるということは、今の大学生にも分かることです。
出口さんはどのように「勉強」をしてきたのでしょうか?
人間は「人に会う」「本を読む」「旅をする」という3つでしか学べないと、僕は常々言っています。この3つから人と社会を学ばないと、マネジメントの力は身につきませんよ。赤ちゃんにマネジメントはできませんよね。
勉強をして、準備をしておかなければ、いざマネジメントやチーム長になっても役に立ちません。準備がなければできないものだからこそ、事前に勉強をしておく必要があります。勉強をしていると会社でポストが得られ、その後は現場で経験しながら学んでいけますよね。
「とにかく頑張れ」「名刺100枚もらってこい」なんてチームワークはナンセンス
出口さんにとって「チームワーク」の定義とは?
「チーム」をうまく「機能させること」でしょう。人はみんな変で、個性が強くて、とがっていて、ほっておいたらお互い傷つけあってしまうという前提に立って、リーダーはメンバーの間に入り、うまく人を組み合わせる。メンバーという石があり、その石と石の間に小さな石となって入り込み、石垣を作っていく必要があるということですね。
単に石垣を組み立てても、自動的には動かないんです。人はメンテナンスしないと動かないものですから。家を作っても、1年何もしなければボロボロになるでしょう。窓を開けたり掃除をしたりして、家を「使う」から、家が機能するのです。チームも建築と一緒です。チームを作って、人を使うからこそ、機能するのです。
チームワークは「絆」や「つながり」といった精神論的な文脈で語られることが多いです。
「とにかく頑張らなければならない」「絆が大事」――こんな精神論的な説教は、聞いている方が疲れるだけで、何の意味もありません。
精神論ほど有害無益なものはないのです。「東京駅で名刺100枚もらってこい」などと言ってする研修は、みんなに大迷惑をかけているだけです。パワハラであり、そのことに何の根拠もありません。
精神論が不毛な理由とは?
精神論が不毛なことは、日本の株価を見れば分かりますよね。科学的な裏付けを持たない精神論でやってきた結果が、今の経済の惨状です。2013年の日本の国際競争力は24位で、これは日本の経営がグローバルでは負けているということ。精神論ほどビジネスに有害なものはないという教訓は、事実が証明しているんですよね。
あるブログに「なんでお父さんやお母さんの時代は高度成長をした?」「お父さんやお母さんがしっかり働いたからだよ」というやりとりが書かれていました。違いますよね。高度成長する条件がそろっていただけで、一生懸命働いたというのは何も関係ない。これが真実の姿です。
日本は1940年体制のもとで人口増加という条件があったために、高度成長ができました。みんなと同じことをやっていれば企業が大きくなっていく時代だったのです。このような超ラッキーな世界だから、精神論が通用したのです。一生懸命働いた、長時間労働した。それだけで株価や売り上げがあがれば、そんなラクなことはあり得ないですよね。(談)
「面従腹背なチームに足りないもの? 「思い」「共感」「コミュニケーション」の3つです――ライフネット生命 出口治明さんに聞く最強チームの作り方【後編】」では、チームを作るために一番必要となるリーダーシップについて、「思い」「共感」「コミュニケーション力」という3つの観点から解き明かします。
(取材・執筆:藤村能光、撮影:橋本直己)
ベストチーム・オブ・ザ・イヤーからのお知らせ
ベストチーム・オブ・ザ・イヤーでは「「社会を変える、チームを創造する」フューチャーセッション」を2013年10月に開始します。「社会を変えたい」「日本を良くしたい」といった思いを持つ同士が集まってチームを作り、ワークショップを通じて解決策を考えるセッションです。全4回のセッションには無料でご参加いただけます。「最強チームの作り方」を実践してみたい方のご参加をお待ちしております。
著者プロフィール
ベストチーム・オブ・ザ・イヤー
ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。