「マネジメントしない」チームで勝ち取った日本一 東洋経済オンライン、"ぼろ負け"からの大逆転
※ベストチーム・オブ・ザ・イヤーのサイトから移設しました
競合にぼろ負けだったWebメディアが、わずか4カ月間で日本一に----「東洋経済オンライン」が快進撃を続けている。2012年11月のリニューアルで一気に読者を増やし、月間500万〜700万程度だったページビューは2013年3月、5300万にまで急伸した。
東洋経済オンラインの編集チームを束ねる編集長は、佐々木紀彦さん(34)だ。33歳という異例の若さで編集長に抜擢され、「ページビューで日本一になる」と宣言。各部署から集められた急ごしらえのチームを率い、誰もが予想しなかった大成功を収めた。
短期間でこれほどまで実績を出すとは、いったいどんなチームビルディングを行ったのだろうか。佐々木さんに尋ねると、困ったようにこう答える。「考えてやっているわけじゃないんです」
マネジメントや業務改善は特に意識していないという。それでもチームが回る背景には、先陣を切って爆走する佐々木さんの馬力と、フラットで風通しのいい職場、Webがもたらした評価の仕組みがあった。
競合にぼろ負けのオンライン版 それでも「勝算しかなかった」
リニューアル前の東洋経済オンラインは、「日経ビジネスオンライン」や「ダイヤモンド・オンライン」といった競合にページビューで大きく引き離され、「ぼろ負け」状態だった。このままではまずいと経営陣がリニューアルを決定。2012年7月ごろ、プロジェクトチームが作られた。
当時の東洋経済オンラインは人気部署ではなかったという。「調子も良くなかったし、みんなが行きたがる部署ではなかった」が、佐々木さんは「新しいことにチャレンジしたい」「自ら責任を負って、媒体全体を作る仕事に就きたい」と自ら志願。週刊東洋経済編集部の特集担当という花形部署からオンラインに異動し、「変わった奴だ」と言われた。
縦割りの同社では珍しく、プロジェクトチームは部門横断型で構成。20〜30代中心の編集メンバー、広告部の若手エース、システム担当者など各部署から集まった7人ほどのうち、希望して異動してきたのは佐々木さんただ1人だったという。
佐々木さんは当初から「勝算はほぼ100%」だと思っていた。根拠は、Webで生かし切れていないふんだんな社内リソースだ。出版の部署が持つ書籍コンテンツ、「会社四季報」や「就職人気ランキング」「有給休暇取得率ランキング」といったデータ、そして何より、優秀な編集者と、各企業を取材する120人もの記者がいる。「社内のデータを生かし、外部の著者と内部の120人の記者がどんどん書いてくれれば、競合に負けるわけがないと思っていた」
だが当時、それを信じていたのも佐々木さん1人だけ。「ビジネス誌系Webメディアで日本一になる」と宣言した佐々木さんを、ほかのメンバーはキョトンとした顔で見つめていたという。
4人で120本の連載を回す、フラットな組織が実現するスピード感
リニューアル後のサイトコンセプトは「新世代のリーダーのためのビジネスサイト」だ。「週刊東洋経済」本誌のWeb版という旧来の位置づけから離れ、20〜30代の若手をターゲットにオリジナルコンテンツを大量に投入。リニューアル前は1日2〜3本だった更新本数を10〜20本に増やし、外部ライターによる連載と社内の記者による取材記事を充実させた。
連載は、若手を中心に新規の著者を発掘。2013年8月現在までに120本もの連載を投入しており、うち約90本は定期的な更新が続いている。連載担当の編集者は4人で、1人当たり20〜30の連載を担当。少人数で大量の連載を回すため完成度の高い著者を選び、原稿の出し戻し回数を最小限に抑えているという。
「紙の場合は5割の完成度で出てきたものを何度も直して9割ぐらいに高めるが、Webは6〜7割ぐらいのものを出し、あとは読者の判断にゆだねる。結果はページビューという形でその日のうちに出るのだから、とにかく回したほうがいい。スピードと効率化が大事だ」
だが効率化のための工夫を尋ねると、佐々木さんは「何かあるっけ?」と困り顔で、最年少の編集部員・伊藤崇浩さん(26)に助けを求める。「佐々木さんは......業務改善はあまり得意じゃない」と伊藤さん。「企画を考えている時は生き生きしているけど、業務改善の話をすると退屈そうな顔をするので、わたしがやろうと」
社内サーバに校正フォルダを作り、紙に打ち出して行っていた校正をオンラインで行うなどの効率化は、伊藤さんが取り組んだ。最年少でも上司の指示を待たずに業務を進められる「徹底的にフラット」(佐々木さん)な体制になっている。
「フラットな組織はメディアでは珍しく、Web企業と似ているかもしれない。上下関係がないし、思ったことは何でも言っていい。オープンで口が軽すぎると思うぐらい」(佐々木さん)
スタートダッシュの成功が人をひきつける
編集部内だけでなく、社内の各部署との横連携も強力に進めてきた。佐々木さんが社内を歩き回って各部署のメンバーと雑談しながら、思いついた企画をどんどん進めていく。社外のさまざまな媒体にニュース配信するなど、社外に対しても徹底的にオープンな姿勢を貫いている。
連携がうまくいったのは、「スタートダッシュに成功して求心力ができた」からだ。「みんな最初は見向きもしなかったが、スタートダッシュさえかかれば、みんなの方から寄ってくる。連携案があればすぐ電話したり会いに行き、話すとみんなどんどん乗ってくれるようになった」
現場同士の横連携で進めるボトムアップはWebにマッチしており、社風にも合っていると感じている。「東洋経済は基本的に自由な会社。かつて『東洋山経済寺』と呼ばれたぐらい、学校や大学のような雰囲気で、自由ですよ。東洋経済からGoogleに転職した人が『社風が似ている』と言っていたほど。そこをもっと引き出したい」
「編集会議はしない」「すぐにPDCA、マネジメントはいらない」
オンライン編集部は編集会議を行わない。代わりに編集部員同士で日々雑談し、情報共有する中で企画を生んでいく。連載担当者4人という少人数でお互い席が近いため、日々の雑談で効率的に情報共有できるという。
連載の内容などは個々の編集者の自由な裁量に任せている。「編集者はプロデューサーで、1人1人が個人商店。個々の"フェチ"みたいなものを存分にいかして、それぞれのやりたい分野、得意な分野を生かしてもらえばいい」
例えばワーキングマザーの編集部員は、働く母親のインタビュー連載や、女性誌の編集長インタビューなどを担当。投資情報誌「オール投資」編集長だった編集部員は、その経験を生かして投資や経済についての連載を担当する。佐々木さんも企画を思いつけば、興味を持ちそうな編集部員にどんどん振っていく。「みんながやりたいことをやり、ボトムアップで東洋経済オンラインっぽい雰囲気ができている」
例えばワーキングマザーの編集部員は、働く母親のインタビュー連載や、女性誌の編集長インタビューなどを担当。投資情報誌「オール投資」編集長だった編集部員は、その経験を生かして投資や経済についての連載を担当する。佐々木さんも企画を思いつけば、興味を持ちそうな編集部員にどんどん振っていく。「みんながやりたいことをやり、ボトムアップで東洋経済オンラインっぽい雰囲気ができている」
メンバーの自由裁量に任せていても成果が出るのは、ページビューという分かりやすい指標があるからだ。「ページビューを見れば結果はすぐ出ていて自己反省でき、自分の中でPDCAを回せる。だからマネジメントがいらないのかもしれない。マネジメントはチェックする役割ではなく、この人にはこれが合うんじゃないかと提案する役割なのかも」
後編『「FCバルセロナのように攻め続け、爆速で突っ込む」「メディア界の人材輩出企業に」――東洋経済オンライン、"ぼろ負け"からの大逆転』では、東洋経済オンライン編集部が短期間で日本一になれた背景について、「チーム」の観点で話を聞きます。
著者プロフィール
ベストチーム・オブ・ザ・イヤー
ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。