人気番組なのに出演拒否!? 『しくじり先生』 制作チームがこだわる「ぶっつけ本番のドキュメント」とは?
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テレビ朝日系(毎週月曜よる8時)で放送中の『しくじり先生 俺みたいになるな!!』。過去に大きな失敗をしたことのある著名人を「しくじり先生」として講師に迎え、生徒たちに同じような過ちを犯さないようにと授業を行う「反面教師バラエティー番組」です。
華やかな世界に身を置く著名人の姿からは想像もつかない意外な失敗や、世間的にも「しくじってしまった」と思われるような一見タブーにも思える凋落にまで切り込みます。その失敗を本人自らが生き生きと語り、笑いと感動を生む番組内容が視聴者の共感を呼び、高視聴率を記録。今年4月には深夜枠からゴールデンタイムに進出しました。
2014年11月にはギャラクシー賞月間賞を、今年6月には第41回放送文化基金賞のテレビエンターテインメント番組部門・最優秀賞、及び構成作家賞を受賞と、視聴者と業界関係者双方から大きな評価を得て、ますます注目を浴びるこの番組。制作を手がける、演出の北野貴章さん、プロデューサーの冨澤有人さん、金井大介さん、乾弘明さん、髙木大輔さん、構成作家の樅野太紀さんの6人に話を伺いました。
自らの「しくじり経験」が番組企画のきっかけに。
どういった経緯で番組が始まったんですか?
北野:僕、遅刻とか連絡ミスとか、そういうことでよく怒られてたんです。で、一度そういうキャラになったらもうおしまいじゃないですか。なので、そうならないようにしろよ、っていうことを言いたくて......最初にタイトルから思いついたんです。それで樅野さんにこういうことやりたいんですけど、って企画会議に持っていったんですけど......。
樅野: で、企画書見たとたんに、「これは大変だよ、北野くん」って。「だって、授業させるんだぜ? 30分ずっと喋らせるんだぜ?」って。そもそも「反面教師バラエティ」って正直、相当手垢がついてるフォーマットなんですよ。それをどうやったら新しく見せられるか、っていうのが最初の会議のテーマでしたね。そこからみんなで考えて、オリジナルの教科書を作って進行するっていうアイデアが出てきたんですけど、マイナス面もあるじゃないですか。教科書を読んでると顔が下向いちゃうから、うまく撮れないし。けれどそれが結果オーライというか、個性になりましたよね。ただまぁ、そうと決まったら、こりゃ大変だぞ、と。
番組の台本だけじゃなくて、教科書も作るということですもんね。
樅野:今は1時間番組なんで、教科書だけでも100ページくらいあるんですよ。特番で何回か番組やったあと、「俺、これレギュラーになったら、死ぬわ」って言いましたもん、北野に。結果的にはレギュラーになりましたけど(笑)
断られることは前提! 熱意を伝えてキャスティング。
番組はどういう流れで作られるんですか?
冨澤:定例会議が週に1回あるんですが、それにディレクター、プロデューサー、作家、リサーチャーなど、総勢約30~40名のスタッフが集まります。それで、それぞれの立場から案を出してもらって、その案が成立するかしないか話し合ったり、次回に持ち越して調べてみたり、という感じです。ただまぁ、先生役のキャスティングが難しくて......。そもそもNGになる前提なので、とにかく案はいくつも出しておくんです。
樅野:まぁ、出演を依頼すると9割方は断られますね。
えっ! 9割!?
冨澤:まぁそのぐらいのイメージ、っていう感じですね(苦笑) 樅野:僕ら結構、エグいところから始めるんですよ。カウンセリングというか、「あなた、こんなふうにしくじってますよ?」みたいなところから始めるので、正直門前払いも多いですし。僕らは会議のなかで名前を出すだけじゃなくって、この人にこういう授業をしてもらおうという想定をしてから取材に行くので、先生役のご本人にとっては意外なことが多いんですね。「こんなふうに思われてたのか!」と。事務所にしてみても、「うちのタレントはしくじってません!」みたいな(笑)
なかなか説得するのが難しそうですね......。交渉はどのように進めていくのですか?
冨澤:最初はプロデューサー陣が連絡して、とにかくご本人と会う場を設けるところまで漕ぎ着けたら、担当するチームを組みます。この台本のところを見てもらうとわかるんですけど、最初にプロデューサー、ディレクター、AP、作家の名前が入ってますよね。あとこれにADを加えて、先生役ごとにチームを作ります。
それから先生役となるご本人と打ち合わせを重ねるんですけど......。ディレクターや作家は結構グイグイ行くんですよ。それに対して、プロデューサーはあくまで先生役の味方として、無理にやらせるものではない、っていうスタンスを取って、そこは結構明確に役割分担していますね。
ディレクターや作家は番組としてのおもしろさを追求して、プロデューサーはあくまで先生役の気持ちに寄り添う、ということですね。
髙木:作家とディレクターが筋を作っていくわけですけど、しくじりを紹介していくので、行けるラインと行けないラインの境界線があるじゃないですか。そのラインが、もう毎日変わっていくんですよね。だからディレクターもプロデューサーに対して、ちょっと嫌になってくるんですよ。演出陣は「これがやりたい」。でもプロデューサーは「やらせるわけにいかない」っていう......、その境目をいつも戦っていて......。
冨澤:やっぱり最初にこっちも結構熱を持って、「信じてくれ」「絶対恥はかかせない」というところで口説いているので、先生役も決意を持ってそこに立ってくれている。それなら僕らプロデューサーも、ちゃんとディレクターとコミュニケーションを取って、先生役ご本人が出てよかったと思ってもらえる形にまで持っていかないと全く意味がない。先生役にとってプロデューサーは作品をつくる上での唯一の代弁者なので。そこは良い意味でディレクターと戦わないといけないと思ってるんですよね。
教科書や台本はどのようにして作るのですか?
冨澤:基本的には先生役と担当チームが何度も打ち合わせを繰り返して、本の内容を詰めていきます。で、その本を定例会議で全員に見てもらって、もう、場合によっては第10稿とかになってたりするんですけど、お互いに結構辛辣なことも言うんですよ。この内容だとつまんないとか、成立してないとか。
樅野:「ただエピソード並べただけじゃん、俺たちがやってるのは授業なんだよ!」って。でもそうやっていかないと、良いもの作れないですからね。遠慮しても仕方ないし......。作るからには、先生役に恥をかかせない、おもしろいものを作っていかないと。
リハーサルなし! ドキュメンタリー手法が生み出す化学反応
そうやってできた教科書をもとに、収録されるんですね。番組を観ていると、どの先生役の方も、講演に慣れているというわけではないのに、ここぞというところで笑いが起こりますよね。これって、入念に練習されているんですか?
樅野:全くないです。だからぶっつけ本番で、収録で初めて「あぁ、この人はこういう喋り方するんだ!」という人もいるし。
え! リハーサルもないんですか!?
樅野:ないですないです。ただもう教科書を読んでくれれば、一応成立するっていう道しるべがあるだけで、あとは先生の熱が乗ってくればいいなぁと。誰も何も知らない状態で、生徒たちも教室に来て、初めて教科書をめくりながら、ナマの授業を聴いてるという。だから、ドキュメントですよ。せーの、どん!ですからね。
金井:たぶん教科書だけだと、「しくじり」という言葉が尖ったものになっちゃうから、それが最初、先生ご本人にとっても拒否反応が起こるんですよね。その空気を、打ち合わせのなかで解消しつつ、そういうことを積み重ねて、積み重ねて、やっとスタジオに来てもらって......。最初嫌がってた人が、すごく気持ちを込めて自分の言葉で語る瞬間は......、もう鳥肌が立ちますね。
乾:もちろん教科書にない話も出てくるんですよ。生徒がある程度絡んだからこそ、派生する話もあるし。でもそのおもしろさもあるもんね。
樅野:はじめて自分の中から出てくる言葉とかがあるわけですよ。
乾:「おぉー!」っていう感じになるからね、先生と生徒が化学反応を起こすわけですし。それが気持ちいいですよね。「はまった!」みたいな。
北野:先生役と僕らは入念に打ち合わせしてやり合って、生徒はそれにリアルにリアクションするから、おもしろいんですよ。ちょっとでも授業より先に教科書読もうとしたら、僕怒りますもん。
全員参加! 全員発言! 定例会議から生まれるチーム感
定例会議には30~40名のスタッフが参加されるとのことですが、チームとしては結構大きいですよね。情報共有の方法は、どうされているのですか?
冨澤:他の番組で上の2、3人しか喋らない会議って結構あったんですよ。でもそれがものすごく嫌で。だからこの定例会議では、ただ普通に連絡事項を伝えるだけじゃなく、とにかくみんなが喋ったらいいなと思っているんです。当然、メインで喋ってもらう人はいますけど、いちディレクターだろうが、いち作家だろうが、とにかくみんなに喋ってもらいたい。だからなるべく話を振るし、話してくれたらありがとうとも言うし。「あぁ、喋っていいんだ」っていう空気に持っていこうと、北野には話しています。
だからといって北野と特に仲が良いっていうわけではなく、それぞれ考えてることは違うので、結構会議中にお互い......、ケンカってほどじゃないけど......。
樅野:ケンカですあれは。ケンカ。
冨澤:そう?(笑)でもまぁ、スタッフ全員がいる前でやるので、逆にそれでみんなが感じ取ってくれる部分もあるというか。さっきから話してる通り、おもしろさの部分を重視している北野と、演者や観てる人がどう感じるかって考える自分と......、ここのあいだでガンガンやってることを全員が見てくれていて、で、最後収拾してくださるのがこの......。
樅野:僕でーす(笑)。僕は、最後は絶対笑いで締めようって決めてるんですよ。だから、このふたりが延々とやり合って、僕が「終わんねえわ!」ってツッコんで、ドーンと笑うっていう。やっぱりおもしろいものを作りたいので、会議の雰囲気はとにかく良くしようと。良かれと思って発言したことでも、スベる人もいるじゃないですか。僕、前向きに喋ってくれたことだけは、「スべらさんとこ!」と思ってるんで、もう必死にツッコんで全部笑いに変えて。
冨澤:この番組の会議は笑いが多いですよね。他では、ひと言も喋っちゃいけない雰囲気の会議もあります、3時間くらい(笑)。
番組によってそんなに会議の雰囲気って違うものなんですね。このチームが他と比べて、ここは負けていない!と思うところはどういったところでしょうか。
樅野:全員が本気で、番組のために向かってやっている感じはありますね。誰も手を抜いてない。やりがいを感じながらやってます。
冨澤:たぶん、「チームでやってます!」っていう意識がすごく強い。
乾:他の番組より、断トツにね。
冨澤:「チームでやってるんだ」って、末端のADも含めて思ってますね。制作陣だけじゃなく美術陣、CG、音響効果も......とにかくみんなで作ってる、っていう認識が全員にある気がします。でもまぁ......北野が一番、変わってきた気はするよな。
樅野:今はもう、頼もしいもんな
北野:でもゴールデンになって、それまでのやり方では難しいんだなって思うんですよ。深夜の時は少人数で、自分のやりたいことをわかってくれるメンバーでやってたのが、ゴールデンになってからは人も増えたので。
リーダーが導くのではなく、周りがリーダーを支える。
チームが大きくなったことで、意識されていることはありますか?
北野:ただ思ってるだけでは伝わらないので、意識して伝えていかなきゃとは思ってます。
樅野:そこは俺とか冨澤さんとかがフォローしていかなきゃと思っていて。というのも、北野は僕らより年下なんですよ。この船の船長なのに一番年下で、年上のディレクターがどんどん入ってきて......、やはり言いづらくなる部分は出てくる。だから僕らが彼をフォローするというやり方。
そこを含めて、チームとしてうまく補えているんですね。
樅野:そう。みんなで北野がやりたいことを具現化してあげたいし、北野が違うほうに行ったら戻してあげるし......。そういうチームなのかもしれませんね。
冨澤:この考えは違うぞ、っていうのも指摘してあげないといけないし。 樅野:北野はピュアで、真っすぐ行こうとするから、それはそれでいいことなんですけど、たまに間違えた方向に行きがち。それをそっとハンドル切ってあげるようにしないとね。
以前なら、トップダウンで、強烈なカリスマがいて......みたいな組織が多くありましたけど、逆に支えてあげたいと思わせるリーダーがいるって、現代ならではの組織ですね。
樅野:でもそこがすごくいいと思うんですよね。遠慮なく頼ってくれるから、力になってあげようと思いますし。
乾:絶対嘘は言わないからね。そこがいいと思う。だからたまに角が立つんだけど(笑)
ただただ良い授業がしたい! おもしろい番組を作りたい!
深夜の特番から始まり、レギュラー化、そしてゴールデンタイム進出と着実にステップアップされてきた感じがありますが、心境の変化はありますか?
樅野:やっぱりゴールデンになったことで、局を背負って、という感覚もありますけど、今まで観てくれていた視聴者とは違う方が観ることになりますから、キャスティングは意識しますよね。
北野:ただ笑えて、おもしろい番組を......ってやってきましたけど、ゴールデンに行くときに、エンタメ的な、「心に響いて、感動する」ことにもチャレンジできるかなって。でもゴールデンに来たからこそ実現したキャスティングもあったし、出演者が決まるたびにネットニュースに取り上げてもらったり、みんなに注目されてる感じはあります。
やはり、一番喜びを感じるのは、視聴率を取ったときですか?
一同:いやっ......。
冨澤:まぁ、いやって言っちゃいけないよね(笑)
樅野:......視聴率ですっ!
一同:笑。
樅野:まぁやっぱり、良い授業だったって言われるとうれしいですね。
髙木:撮ってるときにすごく気持ちいいというか、そういううれしさがありますね。ましてやそれが編集で上がってきたときに、最初にチェックして......あぁ、これなら思いがちゃんと伝わるし、先生役にとってもいいだろうし、世の中の人にも響くなって。視聴者にとって少しでもヒントになったら......っていうのが全てマッチした回は、すごくうれしい。
樅野:この番組ほど反響をいただいたことは、今までなかったですね。初めての感覚ですよ。しかも先輩作家さんたちからも、すごいと言われて。普通そういうのって、後輩ならちょっと嫉妬するじゃないですか、でも、この番組ってそうじゃないんですよ。応援されるんですよ「がんばれ」って。「今、こんなにちゃんと評価されてる番組なんてない。作家だから、しんどいのは見ててわかるよ。ただ、今はがんばれ」って言われて、あ、こんなに愛される番組ってあるんだって。視聴率が出ると、全然関係ない先輩作家や、裏番組やってる人からも祝福のメールが来たりして。
逆にそれがプレッシャーになったりしませんか?
樅野:いやいや、全っ然感じないですよ。僕ら、ほんとに楽しくやってるだけなんで。おもしろい番組作ろう、って。
著者プロフィール
ベストチーム・オブ・ザ・イヤー
ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。