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佐藤可士和事務所のメンバーはどのように仕事をしているのか?上司としての可士和さんとは──クリエイティブスタジオ「SAMURAI」のチーム作り

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※ベストチーム・オブ・ザ・イヤーのサイトから移設しました

ユニクロやセブン-イレブンなど数多くの企業のブランディング、トータルプロデュースを手がけるクリエイティブディレクター、佐藤可士和さん。多岐に渡るその作品群は、鮮烈かつ明快な印象をもたらしながらも、私たちの暮らしのなかに深く根付いています。また、独自の哲学が投影された著書『佐藤可士和の超整理術』などもロングセラーとなり、クリエイターのみならずビジネスパーソンからも支持を集めています。

ただ、自身が代表取締役を務めるクリエイティブスタジオ「SAMURAI」の経営者である一面は、意外にあまり知られていません。50歳を迎えた可士和さんの興味はチームマネジメントのほうにも向かっているようです。
そこで今回は、「チームリーダーとしての佐藤可士和」をテーマに、可士和さんとSAMURAIのアートディレクター・石川耕さん、糟谷義人さんの3名にお話を伺いました。

IMG_9647.jpg 左から石川耕さん、佐藤可士和さん、糟谷義人さん

SAMURAIが求める「コミュニケーションセンス」。デザイン力とは"感性の解像度"

佐藤可士和さん(以下、可士和):SAMURAIは少人数なので、役割分担がハッキリしていない人はいません。僕は代表であり、それぞれのプロジェクトの全体を統括するクリエイティブディレクター。妻の悦子がマネージャー。このふたりでSAMURAIの経営をしています。スタッフのメンバー構成は、アートディレクター部門にチーフである石川、そして糟谷をはじめ5名。悦子率いるマネジメント部門には2名いて、完全にマネジメント専任です。そしてインターンが2名で、以上11名ですね。

SAMURAI内ではどういう手順で仕事を進めていくのでしょうか。

可士和:新しい仕事が始まると、まず担当のアートディレクターを決めます。それが僕と悦子の最初の重要な役割。みんなのキャパシティや作業量を考慮しながら、仕事の種類が偏らないようにバランスを考えます。ファッションも担当しつつ車や流通、教育関係も......一人が同じような仕事ばかりにならないように調整していますね。

どちらかというと、ファッションならこの人、ITならこの人、となる組織が多いように思うのですが。

可士和:守秘義務の観点からも、それはよくないですね。また本人にとってもスキルが偏りますし、経験値も狭くなってしまう。なるべく多様な仕事を経験して多くの視点を持つことが一番重要だと考えています。例えばビューティーでいえば石川はリサージというカネボウ化粧品のブランドを、糟谷はビューティーエクスペリエンスというヘアケアメーカーを担当していますが、どちらも石川がやるとなると、美容業界に関する情報が彼に偏ってしまいます。仕事量が偏らないというのも前提ですから、誰々ばかりが忙しい......というのではなく、あくまでスタッフのバランスを見て、誰が担当するのかということをかなり入念に考えるんですよ。

向き不向きというのはありません。全部新しい仕事だから。何かに特化しているわけではないので、なんでも出来るというか(笑)。そして担当が決まると、僕と石川、僕と糟谷、のように2人対制で、より大きな仕事のときは、石川と糟谷の下にもうひとりつけて、複数名でひとつのクライアントを受け持つ場合もあります。それに加えて広告代理店が介在したり、建築家やコピーライターなど外部パートナーとチームを組んだり、といった感じです。

SAMURAIで仕事をしたい、と思う方は非常に多いと思うのですが、どういった形でスタッフを採用しているのでしょうか。

可士和:基本的には紹介です。石川は僕が博報堂時代に一緒に仕事をしたデザイン事務所に在籍していて、糟谷は石川の元同僚でした。もう1名は僕が講師をしていたデザイン専門学校の先生からの推薦、あとの2名はインターンから社員になりました。ただ、毎年インターンを2、3名ずつ採用しているなかで、この10年ぐらいの間でそのうちの2名ということだから、非常に優秀だったということです。

人を見るうえで、どういった点を重要視されているのでしょうか。

可士和:デザインのスキルというより、コミュニケーションセンスを考えます。そう言うと一元的に思われてしまうかもしれないけど、たとえ優秀でもSAMURAIに合わない人もいる。それは仕方がない。当初は僕と悦子でインターンも選んでたけど、今は石川と糟谷を中心にスタッフにまかせていて、彼らが選んでいます。

糟谷義人さん(以下、糟谷):インターン研修として毎年だいたい20名くらいに会って、最低1日は、オフィスにいてもらうようにするんですよ。そのときにやはり、いろいろなことに気づいてくれるかどうかですね。あとはもちろん、作品も見ます。

石川耕さん(以下、石川):作品の中身はもちろんですが、その体裁やどれだけ自分のことを良く見せようと努力しているかという点もしっかり見ています。プレゼンテーションができているかどうかですね。

可士和:ある意味、ポートフォリオを僕らの前に出しただけでわかるんですよ。傷だらけでボロボロのポートフォリオを逆さまに出すような人だと、はい、もういいですと(笑)。自分の作品をSAMURAI用にピックアップして編集して、きちんと体裁整えて作っているようなものを用意する人であれば、それはかなり「できる」人ですよね。

それが「コミュニケーションセンス」ってことですね。

可士和:そうです。結局デザイン力ってそういうことなんですよ。要するに「感性の解像度」が高いかどうかということ。デザインソフトの操作方法なんて、使っていればいつかは覚えられる。それよりも「見えて」いるか、感じられるかどうか。その解像度が低い人は、SAMURAIでは厳しいと思う。その解像度は僕の基準に合わせているから、ある意味高い水準を要求しているかもしれません。

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長期にわたる信頼関係のコツとは?

クライアントには様々な分野のそうそうたる企業が名を連ねていますが、どのような関わり方が多いのでしょうか。

可士和:ユニクロとも10年、セブン-イレブンは6年、キリンは前職時代からなので約20年...と、長く携わっているところが多いですね。もともとSAMURAIの成り立ちとして、「デザインやクリエイティブの力で社会に新しい視点を提示していく」ということをミッションとしています。

各社ともに、かなり長い期間ですね。

可士和:会社全体のブランディングを依頼されているからという面もあると思います。商品やブランドが入れかわったり、リニューアルしても、企業としての活動はずっと続くもの。ほとんどのプロジェクトは経営者や役員などから直接依頼され、現状の課題や目指すべき方向性を共有しながら結果を出してきています。

関係が長くなっていくと、現場のチームが変わっていくことも多いんですよ。SAMURAI側は変わらないんですが、クライアントの担当者が変わったり、代理店が入ってきたり抜けたり、案件もウェブサイトのリニューアルから本社の建て替えなど規模感もさまざま。そこを全て見通しつつ、SAMURAIのスタッフが現場のグリップを握るという感じですね。

プロジェクトを進めていくうえで、クライアントによってカルチャーも全然違いますし、仕事の進め方もさまざまですよね。そのなかで意識されていることはありますか?

石川:会社のロゴを変えるなど大規模なプロジェクトになると特にそうなのですが、まだ新しい、誰も見たことのないようなものを世の中に提示するので、担当者の方にとってもはじめての経験だったりするんです。だから実際にどうなるのか想像するのがなかなか難しい。ですので、クライアントのみなさまが共感できるような言葉で伝えることを心がけていますね。

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ダイナミックな情報の整理・共有化で最大級の生産性を実現! SAMURAI流の働き方

クライアントの業種もさまざまですが、作品自体もさまざまですよね。最近では日清食品「カレーメシ」を担当されて、その意外性が話題になりました。

可士和:表現は変幻自在ですが、しいて言えば「SAMURAI(=侍)」と言うくらいだから、切れ味の良い、明快でインパクトのあるソリューションを提示したいと思っていますね。

常に切れ味とインパクトを出すための秘訣はあるのでしょうか。

可士和:SAMURAIとしてはその働き方が作品になるくらい、もっとも先進的な働き方をしようとしています。情報整理や情報共有の仕方、チームの作り方などを常に精査して、ごく少人数にもかかわらず数多くのクオリティーの高い仕事を手がけている。効率化というより、生産性を上げる感じかな。例えば、デザイン事務所って一般的に不夜城みたいなイメージがありますが、それはやめようと。基本的にはなるべく早く帰って、徹夜とかそういうことはしない。

石川:朝の時間のほうがパフォーマンスも高いので、なるべく早く来て、それぞれの仕事を進める感じですね。

可士和:博報堂時代はいくつかの広告キャンペーンが集中してものすごく忙しい1カ月があって、それが終わったらぽっかり空くということもあったけれど、今は企業の未来を考えるような仕事がほとんどですから、体調管理が非常に重要になった。短距離走からマラソンのような仕事に変わったという感じですね。

例えば、ブランディングプロジェクトだと、仕事がスタートしてから何らかの新しいブランドイメージやロゴなどを発表するまでに1年くらい。そこで世にはじめて出て、次の1年で新しいシステムを作り上げて展開し、ようやく社会的に認知される。さらに次の1年位で定着を図り、その先のステージへの準備を始める。このように立ち上がりから3年くらいはかかることが多いですね。

まさにマラソンですね。

可士和:そうですね。プロジェクトごとで考えると、駅伝みたいな感じ。第1走者から第2走者にたすきを渡すように、記者発表会が終わったら第1フェーズが完了して、次はそれを定着させるというような感じですね。

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情報整理や情報共有の点ではいかがでしょうか。

可士和:特にこのオフィスに引っ越してから、大きく変わりましたね。組織図で言うと、代表として僕と悦子がいて、そこにぶら下がる形で各担当がいるじゃないですか。僕自身は各担当とガッチリ仕事をしているから細かいことも全部わかりますが、横の繋がり、チームワークをもっと強くするという部分で、オフィスのレイアウトを変えたんです。

以前のオフィスではみんな壁を向いて座っていましたが、ここでは中央に大きなテーブルを置いて、みんなが向かい合って座れるように配置しました。これでかなり変わったんですよ。

糟谷:だいぶコミュニケーションが取りやすくなりましたね。以前だったら、気づいたらあまり口を聞かないまま一日経っていたとか......。

石川:ストイックになり過ぎちゃうんですよね。集中力とか緊張感という意味ではいいんですが、今みたいにふと目線を移すとみんなの顔が見えて、というほうがやりやすいですね。

可士和:オフィスにはすごくこだわっています。例えば、みんな引き出しは手元にないし、セロテープとかハサミとかそこまで頻繁に使わないようなものは、各自が所有するのではなく共有物としてオフィスに1つずつ。コンピュータは一番必要なモノだから、ひとり1台。ノートとかペンは一人ひとり持っているけど、買うならコレと銘柄を決めてある。

リサーチして、デザインや機能面でどれがいいかみんなで決めて、定規はこれ、カッターはこれ......と空間にあるステイショナリーがバチンと揃うわけですよ。古くなっても買い替えがきくようなロングライフデザインのものを。そうするとオフィスのモノの量が1/10になります。

石川:各自のストレージスペースからその日に必要なものを取り出して、一つ一つこなして減らしていく。結果的にそれがその日のTo Doにもなりますよね。あと、進行途中のものを佐藤に確認してもらうために、デザインルームの大きなテーブルの上に置いておくのですが、それをなるべくみんなで見るようにして、そういう横断的なコミュニケーションを意識的にしています。

可士和:仕事の進め方もアップデートしようということで、情報共有のレベルを上げました。スタッフミーティングもただ進捗報告するのではなく、今デザイン的にどんなものがおもしろいとか、個人的な思いも共有しています。それぞれ独り立ちしてきたので、仕事を任せるように僕のマインドも変えましたね。

やはり、事務所の引っ越しって大きいですよ。仕事の環境を改めて考え直す機会となる物理的な大きな変化ですよね。なにかきっかけがないと、人間ってなかなか気持ちが変わらないものです。

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上司としての可士和さんは、最初の目標からブレないひと

石川さん、糟谷さんおふたりから見て、上司としての可士和さんの姿を教えてください。

可士和:僕がいると話しづらいだろうから、いったん席を外そうかな(笑)。(と言って退室される可士和さん)

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石川:佐藤さんは、目標に対してブレがないですね。1つのプロジェクトでもゴールを決めて、そこに向かっていけばいい。こちらも迷いがなくなりますし、ちょっと躊躇するような場面でも「こういうふうにしたい」という目標に対して、全くブレずにやっていけるので、すごくやりやすいですし、助かります。プロジェクトの過程で、よりよくするためにどんどん絞り込むことはありますが、最初のことを白紙にして全然違うことにする、ということはないですね。

それは最初の仮説の立て方の精度が高いということなのでしょうか。

石川:そうですね、かなりの時間をかけて作り上げますし、それを丁寧にクライアントと共有していきますからね。

糟谷:やはり言っていることがすごく明快なので、僕としてもアートディレクションがやりやすい。イメージに向かって一直線というか。余分なものを作らなくていいので、一人ひとりの生産性も上がります。あと基本的なことなんですけれど、必ずすぐに、細かい部分までチェックをするんですよ。そういったことも進んでやってくれるので、その点もやりやすいです。

任される領域が増えてきたぶん、仕事量に変化はあったのでしょうか。

石川:仕事量自体はあまり変わっていないんですが、ここまでは自分で判断するとか、これは佐藤の判断を仰いだほうがいいとか、その判断基準を見分けることを意識しています。

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判断のレベルが変わってきた、という感じなんですね。でもそれは一人で判断するというよりは、横断的に他のスタッフともコミュニケーションを取って共有されているので、ご自身のなかでも安心感がありますよね。

糟谷:そう、それはやはりありますね。リスク回避というのもありますし、全体のチームとしてまとまっていけるように、なるべく細かく共有するようにはしたいなと。

可士和:(席に戻られて)どういうこと言われたんだろう。気になるなあ(笑)。

一緒に働いている皆さんがうらやましくなるほどステキな上司に感じました。ところで可士和さんは組織のマネジメントをされるなかで、今のSAMURAIの11名のチームとして、今後のビジョンというか、もっと人数を増やしていきたいとか、そういう思いはありますか。

可士和:人数的にはそんなに増やしたくはないですね。なるべくシンプルに......今、かなりベストな状態だと思っています。

組織としての課題はあるのでしょうか。

可士和:課題か......うーん。まぁ、もうちょっとゆっくりできたらっていうのはあるかもしれないけれど、かといってそれは人があと5名増えたら一人ひとりの仕事量が減るかというと、そうでもないような気がするんですよね(笑)。

全体的に仕事方法がすごく洗練されてると感じたのですが、それはやっていくなかでだんだんと整理されていったのでしょうか。

可士和:そうですね。僕は仕事のやり方を常にアップデートしようとしているんです。最初は僕と悦子と、もうひとり新卒の奥瀬という3人でスタートして、それが2000年のこと。僕も一日の半分以上はMacに向かって、最後の入稿まで全部やって......あっという間に仕事が増えて、さすがに回らなくなってきた。それで石川に声をかけて......一人ずつスタッフを増やしてきて、気づいたら15年経っていた。

そうすると、みんな成長して僕がいちいち言わなくてもできるようになったんです。彼ら自身の視点を持って提案したり、独り立ちしてきたことで、僕も人を使うということができるようになってきた。インターンの採用を任せているのもそうですが、そうすることで改めて、SAMURAIにとって一番大事なことは何か、本質的なことを考えられるようになってきたのかなと思います。

ありがとうございました。

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クリエイティブディレクターとしてトップランナーとして走り続ける佐藤可士和さん。メディアを通して受ける印象からは、「わかりにくさ」や「曖昧さ」を伴った日本のデザインにメスを入れ、より明快な形で提示する「潔さ」を感じていました。今回の取材では、ご本人やともに働くスタッフからも一貫してそれが感じられただけでなく、「チームビジョンにブレがない」「任せるだけではなく、きちんと見ている」など、チームリーダーとしても秀でた可士和さんの姿が印象的でした。

プレーヤーでありながら、リーダーとしてチームを正しいゴールへ導くことは、並大抵の姿勢ではできないでしょう。その方法論もまた、広義でのデザインと呼べるのかもしれません。

(執筆:大矢幸世 /撮影 安井信介 +プレスラボ

著者プロフィール

ベストチーム・オブ・ザ・イヤー

ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。