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経済学番組なのに、なぜかまったり。生存競争が激しいTV番組のなかで「オイコノミア」が3年続く理由

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※ベストチーム・オブ・ザ・イヤーのサイトから移設しました

テレビ番組は一般的に2クール(半年)で視聴者からの反響を見て、放送継続か新番組へ移行するかが決まるシビアな世界。若者向けに経済学をわかりやすく解説するテレビ番組「オイコノミア」(NHK Eテレ)は、2012年4月に放送を開始し、人気番組として、早くも放送3年目に突入しました。

レギュラー出演するお笑いコンビ・ピースの又吉直樹さんが、身近なテーマから「経済とは何か」を学ぶスタイルの放送は、経済学の番組にも関わらず、なんだかまったりしている独特の雰囲気。

また、直近で放送されたテーマには「サッカーで勝つ!経済学」「こんな会社で、働きたい!」「コンビニなしでは生きられない!?」など、トレンド寄りなものから、普遍的なものまで「ちょっと気になる」と感じさせるものばかり。

番組が長続きする秘密や、普段なかなか知ることのない番組制作の裏側まで、同番組の制作を手がける「テレビマンユニオン」プロデューサーの小林みつこさん、堤響子さんに話を聞きました。

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「オイコノミア」プロデューサーの堤響子さん(左)と小林みつこさん(右)。今回は写真で、ある日のロケ風景の様子を描写していきます。

保険にオセロ、デフレに七並べ
経済学を「目に見える形に」噛み砕く工夫

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小林:リサーチした難しい知識・情報を噛み砕いて、誰にでもわかる形にすることです。 オイコノミアの構成は、又吉さんを経済学初心者かつ視聴者代表という前提で作っています。まずは、経済学の理論をどう表現すると又吉さんが理解できるのか、視聴者が経済学に興味を持ってくれるにはどう見せればいいかなど、大竹文雄先生をはじめとする経済学の先生方と話し合いながらいかにして経済学を目に見える形にするか考えています

堤:初期の頃、保険をテーマにした「保険って結局トクですか?」を放送しました。保険を掛けている人が少人数だとリスクがあり、大勢の人が集まるとリスクはないということを表現するときに、経済学の教科書に出てくる「大数の法則」という定理を使うことになったのですが、普通に説明すると難しくて。

どうすればわかりやすいのかなと考えた結果、オセロを使って説明することにしました。 オセロの駒を100個用意して何回も投げて数えると、大体白と黒が50個ずつになるのです。このことがいわゆる大数の法則ですよ、と見せました。

デフレスパイラルをテーマにした回では、貯蓄ばかりして投資をしないとデフレになってしまう、という理論があります。このときには七並べを用いて、手持ちの札を出さないとゲームが止まってしまうことになぞらえて説明しました。教科書などに載っている概念を映像でわかるように考えるのは大変ですが、面白さを感じるところでもあります。

小林:とくにディレクターにとって、なぜそれを伝えたいかという、自分なりの「視点」は欠かせないものです。新人ディレクターによく起きることなのですが、最初のうち彼らは「レポート型」のアウトプットを出してきます。

でもリサーチは単なるレポートの形ではなく、調べて出てきた素材を編み直し、なぜそれを伝えたいのか、自分の言葉で語ったものにしなくてはなりません。視点を確立できない限り、出演者やスタッフ、最終的には視聴者に「やりたい企画のどこがどう面白いのか」を伝える力が身につきません。ディレクターとして長く仕事を続けていくことも難しくなると思います。

新人ADの場合、そもそも何を言おうとしているのかわからないことは多いです(笑)。そういう子たちにはまず文章を書いてもらいます......というと、ちょっと学校みたいですけど(笑)。自分が言いたいことを的確に伝えられるように、文章でトレーニングさせるのです。たとえば、ホームページに掲載する番組紹介の文章や放送テーマ紹介の文章を書かせると、どこがどう面白いか相手に伝える力がつきますよね。

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ディレクターに必要なのは「巻き込み力」

小林:オイコノミアではプロデューサーにディレクター、AD、音声、カメラマン、ビデオエンジニア、照明、ヘアメイクなど、現場では15名くらいが動いています。撮影時に稼働するカメラは3台です。ディレクターは2〜3名が交代しながら、それぞれ得意な分野を担当し、中には1年で放送される番組の半分程度を手がける人もいます。

小林:制作スケジュールや予算を管理して、番組全体のテーマを決めるのがプロデューサーの仕事です。俯瞰して構想することが求められます。この他にも売れる企画を作ってコンペに出すこともありますよ。企画力やキャスティング力、危機管理能力が必要な職種だと思います。

堤:全体を統括するプロデューサーに対し、各回の放送テーマを決めるのはディレクターの仕事です。今何を放送すると面白いか考えた上で、「●●が面白いからやりましょう!」と皆に伝え、メンバーを巻き込んでいくことが求められます。皆が「面白い。やろう!」となると芽が出て、それに肥料を与えるのは私たちプロデューサーや技術職のメンバーたち。そこでネタが決まると先生方に共有し、話し合いをしながら詳細を詰めていきます。リサーチした内容を元に番組の構成を書いたり、テーマに合う撮影場所を決めるのもディレクターの仕事です。

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小林:リサーチはADに資料探しをお願いしたり、リサーチャーの協力を仰いだりすることもありますが、基本的にはディレクターが指示します。まずは雑誌、新聞、書籍、Webなど、手に入れられるすべての情報を集めますが、これらはあくまで基本情報で、活字になっている時点で古い情報です。今現在の最新情報を手に入れるために、専門家に電話・対面取材を行うことも少なくありません。このときの取材は番組を作る前段階での取材なので、撮影をしない場合もあります。

ディレクターはここまでで得た知識を元に、番組内で何をどう見せるか考えて構成を書き、フリップや模型を絵にして美術さんに渡す必要があるため、彼ら自身も理解を深めておかなくてはなりません。そのため、このリサーチや場所探し、構成などの「仕込み」には全リソースの3分の1ほどをあてて、念入りに行います。

会社組織よりも担当番組への帰属意識が強いワケ

小林:一番必要なのは高度なコミュニケーション能力だと思います。テレビ番組は紙メディアなどとは違って、出来上がるまで形がないものです。だからこそ制作の中心となるディレクターが発信源となるのはもちろん、どういうものを作っていくのかメンバーに丁寧に共有できるスキルが必要になるでしょう。

とくに現場では制作側、出演者など制作に関わるすべての相手に面白がってもらえるようなコミュニケーションが求められます。これが全体にしっかり共有できていればいい現場になりますし、全員が120%の力を出すことができると思うんです。

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小林:契約形態は多岐にわたっています。実際に正社員といわれる立場の人間は全体の半分程度だと思いますし、フリーランスとして契約する方も多くいます。ADなどの職種には私たちプロデューサーと個別に契約している人もいます。カメラマンは弊社所属の人間もいますが、外部の技術会社の方かフリーランスの方が多いですね。働き方に多様性を持った集団だと思います。

小林:そもそも組織に属していないメンバーも多いので、皆、組織(会社)への帰属意識というよりも、番組への帰属意識のほうが強いのではないでしょうか。番組が皆のアイデンティティになっているんです。

また、各人の得意分野などを考慮してメンバーを構成するので、「この人でないといけない」場合は少なくありません。代わりがきかないので、空いている人にやってもらうというわけにもいかないのです。だからこそ中にはプロジェクトが終わると、もう巡り合えない人もいます。これからも一期一会の気持ちを持って、ひとつひとつの仕事に取り組んでいきたいですね。

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作り手が「面白くない」と感じた瞬間、番組の輝きは消失する

小林:立場によって差はありますが、編集期間中はなかなか家に帰れないほどやることが多かったり、1ヶ月で1〜2日しか休みが取れなかったり、取材は相手側に合わせるものなので土日がなかったり......と決まった休みがないことは少なくありません。

そういった「番組制作あるある」はいくつもありますが、できる限りスタッフが無理をしないで済むよう、なるべくよいコンディションで過ごせるよう、全体スケジュールの組み立て方を工夫しています。やはりスタッフが心身ともに消耗してしまうと、番組のクオリティに影響が出てしまいますから。

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小林:まずは、又吉さんの存在感が非常に大きく関わっていると思います。昔からかなりの読書家で知的な方ですが、ブレイク後もよい意味で変わることなく、生活者目線からものを見ることができる人です。

視聴者にとっても彼の目線は心地よく感じるものだそう。又吉さんのキャラクターの影響もあるのか、視聴者からは「寝る前の時間に見るのにぴったり」「まったりしていていい」といった感想をいただくことが多いです(笑)。

もうひとつはチーム内の意思疎通が上手くいくようになったことでしょうか。今でこそ慣れてきて、油断するとマンネリ化してしまうほどになりましたが、放送当初はメンバー間のコミュニケーションが上手くいかないことが多かったです。

連絡ができていない......と慌てたこともありました。番組が明確な輪郭を持っていないときは、物事が伝わりづらくなることもあります。放送開始から半年ほど試行錯誤する日々が続きましたが、全員が同じ方向を向いてやり続けてきたことが、非常に大きかったと思っています。

堤:私たち作り手自身がまさに20〜30代の視聴者世代で、興味のあることに楽しく取り組んでいることも続く理由のひとつだと思います。作り手自身が面白がらなくなってしまったら、その番組はもうおしまいですから。

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(取材・執筆:池田園子/撮影:橋本直己/企画編集:椋田亜砂美)

著者プロフィール

ベストチーム・オブ・ザ・イヤー

ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。