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なぜ10万人がリーダーに頼らず自律的に動けたのか?──未曾有のボランティアチーム「ふんばろう東日本支援プロジェクト」の挑戦

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※ベストチーム・オブ・ザ・イヤーのサイトから移設しました

2011年4月、SNSを活用して立ち上がったボランティア組織が「ふんばろう東日本支援プロジェクト」だ。同組織では、物資を3000箇所以上の避難所や仮設住宅へ届ける「物資支援プロジェクト」、個人避難宅を中心に2万5000世帯以上に家電を支援する「家電プロジェクト」など、複数のプロジェクトが自律的に動いていた。プロジェクト数は合計50以上と、多岐にわたる支援を展開した。この大規模な支援活動を実現したのは、多種多様な「プロジェクト」と、岩手、宮城、福島といった「前線支部」/名古屋、京都、岡山といった「後方支部」/Web、会計、SNSなどの「機能部門」ごとのチーム連携だった。その結果、3000人以上を擁する日本最大の総合支援組織に発展し、3300億円以上の寄付金を集めた日本赤十字社も果たせなかった「支援者と被災者をダイレクトにつなぎ"意義"を実感できる大規模支援」を実現した。

その功績が称えられ、2014年、世界的なデジタルメディアのコンペティションである「Prix Ars Electronica」のコミュニティ部門において、最優秀賞にあたるゴールデン・ニカを日本の団体として初受賞した。
ふんばろう東日本支援プロジェクトの代表者は西條剛央氏。ボランティアは未経験だった。そんな西條氏に、自律的に動ける日本最大級のボランティアチームを作り上げる際の考え方を聞いた。

プロフィール
西條剛央 早稲田大学大学院 客員准教授 ふんばろう東日本支援プロジェクト 元代表

1974年、宮城県仙台市生まれ。早稲田大学大学院で博士号(人間科学)取得。「構造構成主義」という独自のメタ理論を創唱。この理論を用い、「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を立ち上げ、ボランティア未経験ながら日本最大級の総合支援プロジェクトへと成長させる。

境界のない未曾有のチームづくり

「ふんばろう東日本支援プロジェクト」は、ボランティア各自がSNSを効果的に活用し、自律性をもって役割分担しつつ、みんなが全体の目標に向かって動くというユニークなボランティアチームです。なぜそうしたスタイルを採られたのでしょうか。

西條:最初に現地入りしたとき、現地の行政も壊滅的な打撃を受け、国も含めて情報を統制してコントロールできるような状態ではありませんでした。そこで、僕は「タテ組織で統率する」という発想は捨てて、「みんなが自律的に動き、結果として効果的な支援が成立するにはどうすればいいのか」と考えました。

具体的には、すぐにホームページを立ち上げ、現地で聞き取ってきた必要な物資を掲載し、それをTwitterにリンクして、拡散したのです。「送れる人は送ってください、送ったらどこの避難所に何をどのぐらい送ったかコメントしてください」と。必要な物資がすべて送られたらそれを消せば、必要以上の物資が届くことはありません。現地で必要な人に配ってくれるキーマンと組み、Twitterの拡散力、ホームページの制御力、宅急便という既存のインフラを活用することで、必要な物資を必要な分、必要としている人に直送できる仕組みを作りました。

Amazonのほしいものリストも活用し、クリック一つで、チェンソーや家電などを必要としている人に世界中から支援できるようにしました。全国の何かしたいと思っている人達が、必要としている人に必要なものを必要な分だけ届けることを可能にしたのです。

想像をはるかに超える多くの人が団結していたのですね。

西條:そうです。これを直接実現した物資班のメンバーはもちろんですが、現地に物資を持ってまわって営業してくれたボランティア、物資を送ってくれた全国のたくさんの支援者、自らも被災しながらも現地で配ってくれた人達、それから受け取った人の数も含めて、どれだけの人が関わったかもわからないのですが、一箇所の避難所で何百人、何千人といるところもありました。TwitterやFacebookで情報を拡散してくださった方々も含めれば、おそらく10万人以上の人がかかわった「未曾有のチーム」だったのではないかと考えてます。間接的に関わった人達の中には「ふんばろう東日本支援プロジェクト」に関わっているという自覚もなく支援してくれた人も、かなりいたことでしょう。

「未曾有のチーム」とは、とても特徴的です。

西條:「未曾有の震災」に対するには「未曾有のチーム」を作るしかないと。僕たちの組織でユニークなところは、チーム名簿がないことです。組織の中心はあっても、そもそも組織の内外という「境界」がないんです。あえてNPO団体にしないことで、NPO、行政、企業の方々が、誰でも参加できるようにして「小さな力を集めて大きな力に」を実現できるようにしたのです。

企業も80社ほどそれぞれのリソースを活用する形で協力してくれました。基本的にはFacebookで運営しているのですが、「ふんばろう」のFacebookグループには入ってなくても、実質的に協力してくれている人もたくさんいます。

今回「ふんばろう東日本支援プロジェクト」がベストチーム・オブ・ザ・イヤーを受賞しましたが、「ふんばろう東日本支援プロジェクト」というのは"記号"です。なのでそこは本質的なことではなく、実際は東日本の支援活動にかかわったすべての人達での受賞と思っています。

プロジェクトを組織化するポイントとは何でしょうか。

西條:「ふんばろう」の運営は「構造構成主義」という考え方に基づいています。その中に「方法の原理」というのがあり、どういう方法が良いかは「状況」と「目的」によって変わるというものです。目的の支援活動はブレないようにして、現地で状況を見ながら、目的を達成できるように有効な方法をその都度考え、それぞれが動いてください、ということを活動の指針として共有したのです。

被災地は避難所が統合されたり、移動したり、通じてなかった道が開通したりと時々刻々変化する中で、数千箇所ともいわれる避難所をまわることはできませんでした。僕たちは効果的な動き方を伝えて、あとは状況と目的をみながらその場で判断してくださいとしたのです。

具体的にはどのようなことをされたのでしょうか。

西條:例えば、支援先となる避難所を増やすために、ホームページからチラシをダウンロードできるようにして、「物資を持って現地に行ける人は、このチラシを持っていって配ってください」と、いわば営業マンになってもらったのです。

その人たちも、僕たちに許可をとって動いているわけではありませんでしたし、僕らも誰がどこで動いているかわかりませんでしたが、支援先はどんどん広がっていき、7月には1000箇所を超え、最終的に3000箇所以上の避難所に必要な物資を継続的に届けることができたのです。

プラットフォームを提供して、どんどん活用していってもらったわけですが、プロジェクト全体がいわば、フリーOSのリナックスのようなもので、皆がアプリケーションをどんどん開発して、ブラッシュアップしていったというイメージでしょうか。

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その後、新たなプロジェクトが立ち上がっていったわけですが、どうやって数十ものプロジェクトを同時平行で運営していったのでしょうか?

西條:その際に、Facebookのグループ機能は非常に役立ちました。各プロジェクトや支部チームごとにグループを作っていったので、全盛期は80以上のグループがあったと思います。

たくさんの人数が集まったチームを機能させるコツがあるとすれば、情報を共有するための何千人単位のグループ(「ふんばろう」でいえばFumbaro_all)のほかにも、プロジェクトや機能部門ごとに数百人、数十人といった中小規模のグループも作ることですね。そしてそれぞれの中でリーダー、サブリーダーが2名、会計担当、Web担当、Twitter担当といったようにできるだけ細分化して役職を与えることです。

最初は僕が牽引したプロジェクトは多いですが、軌道にさえ乗ってしまえば、あとはよいリーダーがいればどんどん進みますから、できるだけお任せするようにしていました。

グループを分け、役職を作るということですね。

西條:ええ。「リーダー」も記号に過ぎないわけですが、それがあることで遠慮してお見合いすることもないですし、具体的な役割を与えられた方が、それぞれが責任をもって進めやすいので。

それと、これは極めて重要なことですが、「縦割りの弊害」が起きないように、メンバーにはできるだけ複数のグループに入ってもらいました。どこかのプロジェクトで山場を迎えたときに、そのプロジェクトのメインスタッフじゃない人でも状況を把握できていますから、助っ人としてスムーズに参加できます。状況の変化にあわせて、人員を必要な箇所に集中的に投入できるようになるのです。

また、色々なグループに入っていると、帰属意識が分散します。「自分のプロジェクトさえうまくいけばよい」とか「自分のプロジェクトにできるだけ多くのお金を持ってこよう」といった視野の偏狭化に陥らず、全体としてうまくいくようにという全体最適の視点を保てるようになるのも大きいです。

SNSにおけるミスコミュニケーションを減らす方法

組織を運営する上で大変だったことは何ですか?

西條:Facebook、Twitterは誰でも使えますが、両刃の剣のようなところもあります。ネット上のやり取りでは「すれ違い」が生じやすいのです。

例えば「それには賛成できません」とか「疑問です」と誰かが書いたりすると、書かれた相手は否定されたと感じてしまいます。そうすると「なんですかあなたは」といった防衛的な反応になり、すると「私は思ったことを述べただけです。あなたこそなんですか」といったネガティブなやりとりが続き、肝心の内容の話にならない。そうした非建設的なやりとりはみている人をも消耗させます。

そのため、僕は「建設的なやり取りをするための7カ条」をつくって共有しました。それは「すべての人間は肯定されたいと願っている」という「人間の原理」に支えられています。各チームにはネット上のやり取りでは、必ず肯定してから意見を述べるように働きかけています。SNSは便利ですが、そうした人間の原理に基づいた考え方とセットにしないと建設的にコミュニケーションを続けることは難しいのです。

人間の原理にもとづいたコミュニケーションが大切ですね。

西條:「論理」とは「追認可能性の高い理路」のことです。「1+1=2、2+2=4ですよね」といった論理の積み重ねは、追ってさえもらえれば「なるほど確かにそうだね」と思ってもらますし、多くの人に了解してもらうことができる。ところが人間は「気に食わない」と思うと、「耳をふさぐ」や「ちゃんと読まない」といったことができます。つまり「感情は論理に先立つ」ところがある。「お前なんかのいうことを聞くか」と思われたら、どんなに正しい論理でもその意味はなくなってしまいます。

そうした感情を契機とした問題は、ほとんどの場合、否定されたと感じることにより生じるのです。まっとうな論理がまっとうに通じるチームにするためには、感情のもつれが起きにくいようにする必要があり、そのためには肯定的なコミュニケーションをベースにしていかないとならないのです。

感謝を忘れたときチームは崩壊する

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西條さんがリーダーとして気を付けていることはありますか。

西條:ボランティアやNPO団体の多くは内部的な問題がきっかけでダメになっていくと言われています。その大きな契機は「リーダーががんばるから、そこまで動かない人に対して、なんでもっとやらないんだ」と否定してしまうということです。すべての人間は肯定されたいと欲してしまうので、否定されると「自分だって時間と労力を割いてこれだけのことをやっているのに、なんで否定されなきゃいけないんだ」となって、サラリーマンなら給料をもらっているから我慢できますが、ボランティアは無給ですから、翌日からこなくなってしまいます。

だからこそ「ボランティアのリーダーは感謝の気持ちを絶対に忘れてはいけない」のです。ボランティアはやらないのが当たり前、少しでもやってくれる人には感謝しなければならない。それを忘れると組織は壊れてしまいます。 でも、感謝を忘れようと思って忘れる人はいないんです。家族や健康のことを考えればわかるように、いつのまにか「当たり前」になってしまう。だからこそ、感謝を忘れないようにと心がけています。

なるほど。

西條:前線で物資を配る人から後方支援までいろいろな立場で活動する人がいますが、一番良くないのは、お互いが「自分のほうがえらい」と思い始めること。それでは否定の論理に陥ってしまいます。車が走るのはそれぞれのパーツが組み合わさって機能するからであって、ハンドルが一番偉いとか、タイヤが一番偉いとかいってもまったく意味はないんです。「みんながいて、私もこれだけの仕事ができている」ということを認め合い、感謝し合うことが大事なのです。

感謝は肯定です。肯定されて嬉しくない人はいない。お金をもらって嬉しいように、感謝されても嬉しい。生じる感情は一緒なんです。お互いに感謝し合えば、それがエネルギーになる。理想の状態は、お互いに感謝の気持ちを伝えることで「肯定の循環」が起こり、それをエネルギーにチームが駆動していくことなんです。

それはボランティア以外の組織でも使える考え方でしょうか?

西條:ドラッカーは「すべての知識労働者は全員ボランティアとして扱わなければならない」という名言を残しています。なぜかといえば、知識労働で良いものを生み出すために、強制しても、その人の内側から湧き出てくる情熱がなければ本当によいものを作れないからです。しかも現代社会は業務が細分化していますから、リーダーがそれぞれの専門業務の内容はわかりませんから、管理するにも大きな限界があります。そもそもお金を払ってうまくいくなら、すべての企業はうまくいっているわけですが、現実はそうではありません。

ボランティアの場合、お金をもらうわけではありませんから、それはもう気持ちしかないわけです。そして、ボランティアのリーダーというものは、「お願い」はできますが、命令権はありません。そういう中で何千人というボランティアの人に動いてもらうには、「やりたい」と思ってもらうしかないわけです。ですから、そのための原理は、営利的な組織でもスタッフに本気で動いてもらうためには役立つと思います。

たとえば、感謝の原理でいえば、社長がスタッフに対して「給料を払っているのだから働くのが当たり前だ」と思い、スタッフは社長に対して「社長なのだから給料払うのは当たり前だ」と思うことはできるわけですが、そういう否定ベースの組織と、社長が社員に対して「いつもちゃんと働いてくれてありがとう」と伝えて、社員も「こうして働けるのも社長がうまく経営してくれているおかげです」と感謝の気持ちを伝えあう肯定ベースの組織のどちらが成果をあげるかは、言うまでもないですよね。

対立を超える考え方

肯定するのは大事なわけですね。それでも、考えが対立したときはどうすればよいのでしょうか。

西條:「みなさん、仲良くしましょう」というのは大事なことですが、「賛成」と「反対」の人は、お互いの考え方を肯定することはできません。考えが真反対なわけですから。

実は「賛成」「反対」で意見がぶつかるとき、その対立の奥には「関心の違い」があります。例えば、避難所担当の人は避難所の声が聞こえるから、一個でも多くの物資を送ってあげたいという関心になる。一方、ECサイトを運営しているチームは支援者の声が聞こえるから、支援者に応えたいという関心をもつ。同じチームでも、異なる経験をした結果違う関心を持つので、同じ方策についても「賛成」と「反対」に分かれてしまうということが起こるわけです。

あらゆるチームが直面する課題だと思います。

西條:難しいのが、ボランティアをやっている人は給料をもらっているわけではなく、無給で労力を費やしています。そのため「自分は間違っていない」という確信だけは全員が持つことができます。ですから、消去法的に「自分は間違っていない」→「間違っていない自分を批判する人が間違っている」という論理になる。犯人はいないのに、相手が犯人だとお互いに思い込んでしまう。そんな冤罪のような対立が簡単に起こってしまうのです。

ボランティアに限らず、これは営業と開発の対立とかあらゆる組織で起こる問題です。僕はたまたま信念対立を回避するための構造構成主義という理論を開発していたので、こういう現象を読み解いて、伝えることができましたが、こうした根本的な構造がわからないと、誰も悪い人がいなくても対立によって組織が引き裂かれてしまうのです。

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「何でもいいから意見を言ってください」はNG

チームで議論するときに気をつけていることはありますか。

西條:「何でもいいから意見を言ってください」という言い方ではダメですね。「自由に意見を言いましょう」となると、否定的な意見がいくらでも出てしまい、物事が進まなくなってしまうのです。そうではなく「方法の原理」に基づいて、今の「状況」と「目的」を踏まえた上で、よりよい代案を出してください、とするのです。

僕が最初の原案(方針)を出す場合でも、あとはみんなで代案を出し合って、具体的なかたちにしていきます。この方法がいいのは、皆でアイデアを出し合って案をつくることで、各人にとってその案が自分のものになることです。自分がつくったプロジェクトだから、最後までうまくいってほしいという思いが生まれたら、その後も一緒に進めていくことができます。

今年10月より体制を変更したのですよね。

西條:「ふんばろう東日本支援プロジェクト」は被災された方々の自立した生活を取り戻すために、そのサポートをする目的で立ち上げましたが、当初から「最終的には自分たちが必要とされなくなること、つまり無くなることが目的です」といってきました。僕の考える理想のチームは、自律的に動くチームです。

約3年半の間活動を経て段階的に組織体制を変えてきましたが、2014年10月よりいよいよその最終段階に入ります。具体的には、ふんばろう東日本支援プロジェクトという大きなコンソーシアムは解体して、資金管理に特化した「支援基金」と「ふんばろう東日本」から生まれた各独立団体からなる新たな体制に移行させました。

復興にはまだ時間がかかりますので各団体の活動は続きますが、「僕がいなくても動く」という理想に近づいたと考えています。

新たな一歩を踏み出した「ふんばろう東日本支援プロジェクト」ですが、何かメッセージはありますか

震災の直後は、あまりに悲惨な出来事の前で、何もできない自分の無力さに打ちのめされました。実家は仙台で、津波で伯父を失いました。その後、プロジェクトを立ち上げ、ここまで進めてきて、体制変更前の最後のミーティングで出てきた言葉は「何もできない自分で終わらないでよかった...」でした。本当に多くの方々が協力してくださったのですが、その気持ちの部分は同じだったのかもしれません。東北出身者のひとりとして、ご支援、協力してくださったすべての皆様にあらためて感謝したいと思います。そして3年半以上が経った今支援プロジェクトがこうした素晴らしい受賞をしたことは、東北の皆さんへの"忘れていませんよ"というメッセージにもなると思っています。 またHPにここでお話ししたチームの作り方を含め、物資支援防災教育といった未来の災害に備えるノウハウをまとめています。この受賞が、そうした知見が広まってより多くの人が助かるきっかけになればと思います。

(執筆:國貞文隆/撮影:橋本直己

参考サイト

著者プロフィール

ベストチーム・オブ・ザ・イヤー

ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。