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結果を出す人材としくみの作り方ーーなぜセレッソ大阪は、香川や柿谷を世界プレイヤーに育てられたのか?

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※ベストチーム・オブ・ザ・イヤーのサイトから移設しました

香川真司(マンチェスター・ユナイテッドFC)、清武弘嗣(1.FCニュルンベルク)、乾貴士(アイントラハト・フランクフルト)、最近では柿谷曜一朗、山口蛍、扇原貴宏といった若手まで、なぜかセレッソ大阪から多くの日本代表選手が輩出している。 これは単なる偶然ではない。実はセレッソこそ、戦略的に日本代表になれる選手を育てるシステムをもった日本で唯一のサッカークラブだからである。

2006年、J2に降格し、低迷していたセレッソが、「育成型クラブ」へ一気に転換したことで、今ではクラブ自体も注目される存在に生まれ変わった。この育成部門を運営する中心人物が、セレッソ大阪の別法人で、セレッソ大阪の普及育成事業を担う一般社団法人セレッソ大阪スポーツクラブ代表理事の宮本功氏と、アカデミーダイレクターの大熊裕司氏だ。

   

育成部門を独立させたことでクラブを再生させた両氏の手法は、実は今の若手ビジネスマンが学ぶべきヒントがたくさん隠されている。 チームのつくり方、リーダーのあり方、チームプレイの生み出し方など、永続的に強いチームをどうつくればいいのか、宮本氏と大熊氏に聞いた。

プロフィール

宮本功(みやもと・いさお)
1970年生まれ。徳島県出身。高知大学卒業後、セレッソ大阪のヤンマーディーゼルサッカー部に入部。引退後の1995年にフロント入り。セレッソ大阪広報部長、普及育成部長などを経て、一般社団法人セレッソ大阪スポーツクラブ代表理事。

大熊裕司(おおくま・ゆうじ)
1969年生まれ。埼玉県出身。中央大学卒業後、日立製作所、柏レイソル、京都パープルサンガ、アビスパ福岡を経て1999年引退。アビスパ福岡にてコーチ等を務めた後、2005年にトップチームのヘッドコーチとして加入。(公財)日本サッカー協会ナショナルコーチングスタッフ、U-18日本代表コーチを経て、2010年よりセレッソ大阪アカデミーダイレクター兼U-18監督

現在ではなく「将来どうなりたいのか」
チームの目標を数十年後に設定

2006年にJ2に降格し、通常のクラブならすぐにでも翌年のJ1への復活を目指すはずが、反対に中長期の育成力の強化に方針を切り換えました。 その理由とは何でしょうか。

まず私自身は出戻りなんですね。外から戻ってきたからこそ、チームをどう強化すればいいのか、気づくことができたのです。 当時のセレッソは2005年に優勝しかけて、翌年ジェットコースターのようにJ2に降格し、奈落の底に堕ちてしまった。しかも、おカネがない。

そんなとき通常のサッカークラブなら、選手を売って、なんとかおカネを用立てます。 その資金で有力な選手をスカウトしてチームを強化する。でも、そういったビジネスモデルはもう規模の小さいクラブでは限界が来ていると思っていました。

もし自家栽培のように自分の畑があれば自給自足できる。でも、我々のチームは自分の畑があるのに本格的な畑にせず、わざわざスーパーマーケットで野菜を買っていたのです。 しかも、おカネに限りがあるので高級食材は買えない。

高いクオリティーをもった選手を得るにはこのままでは限界がある。だったら、高級食材になるような人材を育てればいいと思ったのです。

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一般社団法人セレッソ大阪スポーツクラブ代表理事の宮本氏

育成部門は当然ながら、すぐに結果を生みません。何年後かを見据えてという目標は最初からあったのですか?

もちろん、すぐに費用対効果は出ません。5~10年という長い期間で見ないといけないということはわかっていました。

しかし、長期で見るにしても最初から具体的な目標があったわけではありません。なぜなら、自分の畑にあまりにも石がいっぱいある、水がきていない、土が適してないなど、環境がほとんど整っていなかったのです。現状の環境を改善すべきことが盛りだくさんだったため、具体的な目標を掲げる段階にまだ至っていなかったのです。

今は、2030年までに世界基準の「育成型クラブ」をつくる、という目標を持っています。

2030年までに、というのはなかなか長いですね。

確かに長いですね。でも現在活躍している柿谷曜一朗選手は、4歳からセレッソに在籍しているんです。去年23歳でブレイクしたことを考えれば、彼を成長させるためには、19年近くの歳月がかかっている計算になります。長いスパンで考えないと、人は育たないのです。

信念を貫くために周囲を巻き込んだ仕組みづくり

育成部門を立ち上げるといっても、宮本さんも組織の人間の一人です。上司やトップをどうやって説得したのでしょうか。

投資するおカネには費用対効果が求められます。単に「おカネをください」と言ってもダメと言われるのは当たり前です。だから、おカネを生む仕組みづくりとともに提案しました。 まずはおカネを集めるために育成支援組織の「ハナサカクラブ」を立ち上げたのです。

「ハナサカクラブ」にはアーティストのファンクラブのような特典はありません。私たちはただ1口3,000円で支援してくださいと言うだけです。 でもその代わり、子どもたちの育成のためだけに使うという約束をしています。

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最初はどのくらい集まったのでしょう?

最初は100万円超くらいでした。目標もそこに置いていましたし、とても感謝すべきことです。

しかしそこからさらに、セレッソの年間チケット代に支援金部分を組み込みました。 いわば実質3,000円の値上げです。しかもJ2に落ちたときに値上げしました。その代わり、子供の年間チケット代は半額くらいに下げました。 家族で観に来られた際に、実質的に費用は変わらないようにして「家族に優しいセレッソ大阪」でありたいと思っていました。また、年間シートを"無金利分割払い"できるようにしたりなど...、今考えればちょっと無茶もありますね(笑)

確かに(笑)。とはいえ、かなり大きな判断ですね。地域のファンをも巻き込んで「育成のセレッソ」へと大きく舵取りをした印象を受けます。

最初はもちろんクレームもありました。しかし導入した以上はもちろん戻れません。 現在ではおかげさまで、毎年1,600万円くらいの支援が集まるようになりました。その資金で子どもたちを毎年海外に送れるようになったのです。

その後2010年には、育成部門をクラブ本体から分離して一般社団法人化し、公的助成金をもらいながら統合型地域スポーツクラブとして運営するようにしたのです。

そういった考えはどこから思いついたのですか?

自分たちの周りの環境を組み合わせていっただけなのですが、マンチェスター・ユナイテッドなどがNPO団体をつくって、そういった活動をやっていたわけです。そこから着想したことは間違いありません。

そこまでして育成組織を立ち上げるに至り、ファンをも巻き込んで大きな改革をされた理由は何でしょうか。

クラブとしての危機感ですね。同じ大阪のチームでも、ガンバ大阪さんは成長していてトップを走っている。でもセレッソはJ2で昇格争いをしている。「ここで大きく変わらないとクラブとしての維持ができない」という危機感でした。

成長する人としない人の差とは
落ちこぼれた選手への対応方法

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人を育成する中で、成長する人、成長しない人の差は何だと思いますか?

成長するという意味では、みんな選手としては成長します。ただ、プロになれる、なれない、はある。そこは競争ですから差が出てくる。競争は相手を上回らなければならない。そのために持っている身体能力をどう伸ばすか、どれだけなりたいと思っている自分に近付けるのか、本気でプロになりたいとどこまで思っているか、その思いが差となって出てきます。

しかもサッカーは厳しい世界であり、フィジカルとメンタルの両方が問われます。とくにメンタルでは自分に勝つことに加え、相手にも勝たなければならない。さらに言えば、サッカーで自分のやりたいことを表現できる積極性や自立性まで求められてくるのです。

途中で落ちこぼれる選手の育成、モチベーションの保ち方はどう考えていますか?

そこはコーチたちの力量が重要になってきます。 落ちこぼれた選手を練習や試合でどんな扱いをして、言葉をかけるのか。そのポイントは選手に「喜び」を与えることです。

レギュラーになれる子、なれない子であろうが、きちんとそれぞれが成長したことを認証してあげることが一番大事なのです。そうしなければ、どんな選手も何をすればいいのかわからなくなってしまう。だからこそコーチは、一人ひとりを認証するように心がけています。

反対にコーチがチームが勝つことだけを考えていると、個を捨てることになります。だから、私はチームが全敗しようと、選手全員がプロになってくれることを育成の基本においています

ただその一方で、一人ひとりが相手に勝つ、試合に勝つという強い気持ちを持たなければ、プロにはなれません。だから、当然勝たないとダメなのです。何よりも選手が強いハートを持てるように育てることが大事です。サッカー選手を育てるには人間性は避けて通れないのです。

また、親も監督も一緒になって叱るだけでは、逆に子どもは自己防衛に走ってしまいます。何を言っても反応しなくなってしまい、監督、コーチが何を言っても聞かなくなる。 ですから、子どもだけでなく、親と一緒に育てる姿勢も重要になるのです。

具体的な人材育成術について後編に続きます(後編は6月17日に公開予定)

(執筆:國貞文隆/撮影:橋本直己/聞き手・編集:椋田亜砂美)

著者プロフィール

ベストチーム・オブ・ザ・イヤー

ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。