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NHKの歴史という前例を壊すことで作り上げた――大河ドラマ「龍馬伝」制作チーム

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※ベストチーム・オブ・ザ・イヤーのサイトから移設しました

2010年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」は、これまでの大河ドラマの前例を壊した制作手法を採用することで、壮大なる世界観を作り上げた。1つのドラマ制作に向けて数多くの職人がチームを組み、大きな物事を成し遂げる。制作チームの視点から見る「龍馬伝」の新たな一面とは。 NHK 制作局 第2制作センター ドラマ番組部 チーフ・プロデューサーの鈴木圭さんに伺いました。

前例を壊すことで作り上げられた龍馬伝の壮大な世界観

「龍馬伝」制作チームの特徴は。

「大河ドラマ」はNHKの看板番組であり、1つのブランドであることを意識して制作しています。「龍馬伝」が49作目となるなど、大河ドラマには歴史がありますので、構成、スタッフ、スケジュールなど、前例の仕組みに従ってセッティングすることで、制作の流れができあがるようにしています。

しかし、私たち「龍馬伝」制作チームは、その前例を"壊す"ことから始めました。

新たな試みとして、撮影方法をガラリと変えました。ハード面を変更し、大河ドラマ初となる従来のカメラをすべてプログレッシブカメラに入れ替えました。より"深みのある映像"の撮影が可能になり、幕末の登場人物や風景、小道具の質感をリアルに再現できるようになりました。

前例を壊していったその他の例は。

撮影方法も変更しました。通常のドラマは、絵コンテを決めて芝居を止めながら撮影する「カット割り」の手法をとります。しかし私たちはカット割りではなく、複数のカメラを同時に回して長時間芝居を撮影しました。1シーンを4台のカメラで撮り、正面からだけでなく、横から上からなどカメラの配置や台数もシーンによって変えました。

この方法は芝居のコマ切れをなくし、役者さんがお芝居に集中できるようになります。また、どうやって画を撮るべきかを監督が細かく指示しなくても、各カメラマンが考えるようになります。 芝居に入ると役者さんは予想もしない動きをしますので、カメラマンにも瞬発力が必要になってくる。それが相乗し、よりリアリティのある画がとれたりするんです。

美術もカット割り撮影の場合は、カメラに映る場面のみを装飾すればよかったのですが、自由にカメラを動かしながら回し続けるので、セット内すべてを装飾する必要があります。通常の2倍、3倍と時間を掛けて大きなセットを細部まで作り込みました。これは、自分たちが作った世界観、空間を見てもらえることにつながるので、こだわりを持つ美術スタッフが出て来ました。

撮り方を変えることで、メンバーのモチベーションが上がったのです。手が抜けなくなるから、責任感も上がるといった感じですね。これが今までの大河制作チームに無い、龍馬伝チームの新しい試みによる成果だと思います。

以前からある仕組みを変えるという際には、反対の声はあったのか。

その通りです。「敵は身内にあり」ってよく言われるように、説得が一番大変です。「そろそろ大河で新しいことをやろう」と要となる人物を一人ひとり説得していきました。

NHKという会社柄かもしれませんが、視聴率などにとらわれずに、純粋に中身の面白さにこだわる風潮があります。昔から培ってきた伝統の存在が大きく、保守的で崩しにくい反面、いったん根回しに成功すれば、新しい事に踏み込んでいきやすいという面もありました。

「坂本龍馬」がテーマだったことも大きかったですね。「260年続いた幕府を倒して、新しい日本の仕組みを作った龍馬を取り扱うのだから、僕らも今までの大河ドラマと違うことをしたい」という気持ちがメンバーにもあったからこそ、実現できたのかもしれません。

「いいものを提案すれば、受け入れられる」雰囲気を作った

制作チームの規模はどのようなものだったのか。

ドラマ番組部(演出や制作)のほか技術、美術、照明など色々なチームがあり、全部で120名ほどです。

コミュニケーション・ロスを生じさせない工夫は。

指揮命令系統については「これはNHKならでは」というか、昔ながらのきちんとしたレポートラインがありました。協力を仰いでいる外部の方もレポートラインの中に入っていただいたので、特に問題は無かったですね。具体的には、制作チームとそれぞれのチームのトップが話し合い、トップがメンバーに伝えるという指揮伝達をしています。

撮影手法を変えた最初は、何度も話し合いが必要でしたが、そこはみんなプロです。方針が決まった後に任せると大きくロスが発生することもなく、後半からはうまくいきました。

この世界では珍しいのですが、美術チームはメーリングリストで情報共有をしていたようです。職人さんの世界なのでフェイストゥフェイスが主流ですが、外部のアーティストに入ってもらったことをきっかけに、携帯メールのやりとりという新手法も取り入れました。これも変化の1つといえます。

チームワークが発揮された例はありますか。

現場では、日々ワンシーンが勝負です。役者がどう動くか、セットはどこまでつくるか、撮影はどのように撮るかなど一本勝負みたいなところがありますから。

こうした中、照明チームがカメラが自在に動いても天井が見切れないように、天井にブルーシートを覆ってみたんですね。カメラを通して画をみると、吊るしてある照明器具が見えずにブルーシートが「空」に見えたんです。スタジオでもロケと遜色ない映像が撮れるようになりました。

「いいものを提案すれば採用してもらえる」雰囲気からさまざまな案が出て、お互いのチームの動きが相乗効果になって作品に反映されていったように思います。

そういった雰囲気づくりには何が影響してきたのか。

「映像のクオリティの高さ」という成果が、実際に上がったことでしょうね。今までの大河ドラマでは、見たこともないような仕上がりにみんなが驚いたんですよ。

デジタル時代になって細部まで見える、そういう時代背景も後押ししたかもしれませんが「こういう風にできるんだ」とみんなが気付いてからは、良いものを作り上げるためにお互い意見を言い合う雰囲気が、一層盛り上がってきたと思います。

斬新なやり方に楽しさを覚えているメンバーは、また従来の「カット割り」方式に戻るともどかしさを感じるかもしれない。

そうですね。元のやり方に戻れないという声もメンバーから出てきています(笑)。とはいえ「龍馬伝」での経験をほかの現場にも波及させてくれると、NHKの番組全体に影響を及ぼしていくと思います。

チームを評価する軸は何か。

NHKの場合は視聴率はひとつですが、それ以上にメールや電話で届く視聴者ののご意見が重要です。その声を現場にも反映しているので、対外的な評価はそこからという感じでしょうか。

著者プロフィール

ベストチーム・オブ・ザ・イヤー

ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。