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ノンアルコールビールというまだ見ぬ市場に込めた期待――キリンフリー商品開発チーム

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※ベストチーム・オブ・ザ・イヤーのサイトから移設しました

ノンアルコールビールという新しいジャンルのビールが生まれ、もはや定番となりました。それを作り上げたのが、「キリンフリー」商品開発チームです。まだ見ぬ新しい製品開発の裏にあったチームの協働について、キリンビール株式会社 営業本部 マーケティング部 商品開発研究所 新商品開発グループの梶原 奈美子さんに伺いました。

アルコール0.00%というまだ見ぬ市場を発想した原点

「キリンフリープロジェクトチームが発足したのは、2007年秋です。コアメンバーは大体20~30人くらいになります。キリンの場合は、各部署から担当者をつけるチーム編成の仕組みがあります。それぞれが専任ではないため、プロジェクトチームとしていつも一緒にいるわけではありません。商品がある限りプロジェクトは続きますが、メンバーは入れ替わります」

アルコールフリーという画期的な製品で新しいビール市場を開拓。その開発のきっかけは。

「2007年は、飲酒運転撲滅の雰囲気が世間にありました。いくつかの大きな事故があり、警察の取り締まりが強化されるなど、飲酒運転はダメという消費者の意識が強くありました。それに伴いビールの消費量が低下し、飲食店さんからも「キリンさん、なんかいいものない?」と言われるようになりました」

「当時のアルコールフリー飲料はカテゴリは"清涼飲料水"でしたが、本当に0%ではなく、微量のアルコールが含まれていました。ビールテイストを出すために必要な原料の発酵過程で、アルコールが発生するからです。発酵時間を短くしても、どうしても微量のアルコールは含まれてしまっていたのです」

「商品にも「運転前はご注意ください」という注意書きを入れていましたが、お客様にとってはグレーゾーンでした。そこで胸を張って「運転できる」と言える「アルコール0.00%」を開発しようとなったのです」

"飲酒運転撲滅"というビジョンを商品に重ね合わせる

それまでに存在しない新商品の開発に対して、困難はあったのか。

「アルコールを完全0にするということは、「発酵させない」ということです。"ビールの味=発酵"という常識を打ち破るビールをどう作るか、みんな見当がつかない状態でした。これは納豆菌なしで大豆のみで納豆を作るようなものです。志は共感できるが、実際どうすれば良いのか、特に中身を製造する部門で困惑していました」

「ですが、プロジェクトの目的やコンセプト自体への大きな反対はありませんでした。みんなお酒が好きなので、お酒が原因で悲しい事故が発生するのが嫌だったんです。飲酒運転撲滅や車社会に対して何か社会貢献ができることにモチベーションを感じるメンバーが多かったです」

新しい製品を開発する工程で、一番こだわったポイントは。

「一番大きかったのは「味」です。味についての議論が発売ギリギリまで続きました。メンバーはビールになり得なくても、ビールと同じような満足感を消費者の方に感じてほしいという想いを強く持っていましたから」

「モニターテストで良い得点が出たものを経営会議にかけても、「もっと美味しくなるだろう」と戻されることが繰り返されたのですが、それにもめげず改善を図りました。発売前に流通へ商品サンプルを配布してからも、「もっとおいしければ売れる」という現場の声が挙がり、急遽改良を進めました。これは今までに無かったことです」

「分析技術を使うことで、おいしさを評価する軸はある程度数値化できるようになっています。しかし最後に決めるのは「人の舌」と「センス」になります。そこに1番時間をかけますね」

世の中に出る商品の理想を描いて、共有する大切さ

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プロジェクトの進め方は?

「それぞれ役割が違い、ほかの商品も担当していましたので、メンバーが一堂に会することはありませんでした。私が各メンバーに会いに行く感じです」

「特に気をつけていたのは、各担当者の製品以外の情報も共有していたことです。例えば、中味の開発者に味をフィードバックするだけではなく、パッケージやコンセプトに対するモニターの声も共有していました。「飲酒運転のない社会へ」というコンセプトを調査したときに、「感動した」という20代男性の意見を開発者に伝え、「今回のプロジェクトは本当に望まれていることなんだね」と意義を再認識してもらうことで、その人のモチベーションアップにつながることがありました」

「チームメンバーは専門外の分野の情報も知りたいし、知ることができれば嬉しいという気持ちはありますよね。外部のパッケージデザイナーや協力会社など、さまざまな人がこのプロジェクトに携わっていることを感じてもらうように意識しました。それが、今回の商品が「社会貢献」につながっていることを感じてもらうきっかけにもなりました」

「このやり方が根付いてきて、チームの雰囲気はとても良かったです。開発が困難なときも、売り上げが好調な現在でもそれは変わっていません」

リーダー自身も、新プロジェクトの中で学ぶことが多かったのか。

「今回のプロジェクトで、目標の共有する大切さを学びました。商品が世の中に出た時の「良い絵」を描いて、それを共有できた。だから、私自身が多少の困難にもくじけることはなかったし、メンバーもそうだったと思います。さらに全員が「プロとして求められる以上のものを出したい」という気持ちを持つことにつながりました」

「新製品は合格点ではダメなんです。それ以上のものを提供できないと、お客様の印象に残りませんから。今回は妥協なく、こだわりを持って製品開発ができたと思います。その結果、スケジュールが遅れそうになることもあり「早く出さないと意味が無い」とみんなで焦ったのですが、「美味しくなったら早く出せるよ」と励ましあったりもしていました(笑)」

それでノンアルコールビール市場ではトップに立つことができた。

「ノンアルコールビールが世間に根付いてきた手ごたえを感じます。販売を通じて、メインターゲットのドライバーの方以上に、子育て中のお母さんや高齢者など、さまざまな立場の方が製品を欲していたことが分かったのにも驚きました」

著者プロフィール

ベストチーム・オブ・ザ・イヤー

ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。