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Qiita「成果が出るチーム思考」の秘密――「飲みでも敬語は崩さない」「議論ありきのリーン開発」

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※ベストチーム・オブ・ザ・イヤーのサイトから移設しました

プログラマが幸せに働ける環境を提供したい――。そんな思いで生み出され、いまや約50万の月間UUを誇る「Qiita(キータ)」。プログラミングの知識を記録・共有するサービスで、多くのプログラマから愛されています。

開発したのはIncrements株式会社。学生時代に関西で出会った3人が数年後に再会を果たし、それぞれが培った多様性のあるスキルを持ち寄り、会社を立ち上げました。「堅実に、着実に」――。サービス開発で大切にしていることを聞くと、こんな答えが返ってきました。徹底した仮説検証の積み重ねをベースに堅実な開発を進め、勢いだけで動かない。スタートアップらしからぬ体制が見えてきます。

この成功サイクルの秘密を「同じ価値観を持つメンバー同士で議論できること」と話すのは、同社CEOでプログラマの海野弘成さん。小西智也さん、横井孝典さんを交えた創業メンバー3人に、Qiitaチームの裏側を語ってもらいました。

Qiita急成長の理由は「地道な仮説検証の積み重ね」

「Qiita」を筆頭にどんなサービスを作っていますか?

海野:3つのサービスを開発しています。「Qiita」はプログラマのための技術情報共有サービスです。その後、自分の手元に情報をメモするMac向けアプリケーション「Kobito」やQiitaの情報を社内で共有するシステム「Qiita:Team」を作りました。

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それぞれのサービスの情報共有範囲は、Qiitaは全世界に、Qiita:Teamは社内に、Kobitoは自分・個人にと異なっているのが特徴です。

プログラマお馴染み? Incrementsが開発したプロダクト
Qiita プログラマのための技術情報共有サービス。全世界のユーザーが使える。
Kobito 思った事象。頭の中で創り出したこと。(例)今、室内は暑い
Qiita:Team 「理想」と「現実」のギャップ

Qiitaという50万UUを超えるサービスがありながら、さらなるサービス開発を続ける狙いは?

海野:例えばKobitoというアプリケーションですが、実は最初から「このアプリを作ろう」という明確な目的はなかったんです。まずは中心となるQiitaのアクティブ率やノウハウの投稿率を増やしたかった。ユーザーヒアリングを重ねる中で「自分用のメモが取れていないのが悩み」「メモ向けのツールがなくて困っている」という話が出てきました。

問題は、Qiitaに情報を共有する前段階で起きていることに気づいたんです。その問題はQiitaだけではカバーできなかったので、Kobitoを作ったという流れなんです。メモアプリであるKobitoに記録した情報は、Qiitaに簡単に共有できます。これにより、Qiitaそのものの投稿数改善につながりました。

別サービスを作ったことで、Qiitaの投稿数改善につながったんですね。Qiita:Teamも相乗効果があると聞いています。nanapiでも利用されているとか。

海野:Qiita:TeamはQiitaとKobitoとの間にある情報共有システムで、各サービスのノウハウを生かして開発しました。Qiitaを使っていた方が社内向けにと使ってくださることが多いですね。nanapi CTOの和田修一さんは「Kobitoから簡単に社内に投稿できるのがいいですね」とQiita:Teamを評価いただいています。

仮説立案で丸一日議論することも。ユーザーこそすべて

サービス開発において、ユーザーヒアリングを大切にしていると聞きました。誰がどれくらいの頻度で行っているんですか?

海野:とくに誰がするという決まりはなく、強いて言えば僕らを含めたチーム全員が担当しています。数字の伸びが少ないときには、その原因を探るため、リアルな声を聞くんです。ヒアリング回数は多いときだと1週間に10人程度。Qiitaを知っている/知らないプログラマの両方から話を聞いていますね。

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写真左からビジネスディベロップメントの横井孝典さん、CEOでプログラマの海野弘成さん、デザイナーの小西智也さん。創業メンバー3人が語るQiitaチームの裏側

ヒアリングには仮説が必要だと思います。どんな準備をしていますか?

横井:「何経由でQiitaに流入したか」「投稿前にどこでつまづいているか」などを数字データとしてしっかり把握し、課題を明確にして仮説を立てます。仮説立ては非常に難しく、丸1日議論を続けたこともあるくらい。でも、きちんとした仮説があると、ヒアリングの幅も広がるんですよね。

ヒアリング後の改善・開発はどう進めていくのでしょうか?

小西:「仮説立案」「ユーザーヒアリング」の後は、コードで簡単に検証します。それでもまだ疑わしい場合は「ペーパープロトタイピング」を取り入れます。ユーザーが問題なく使ってくれそうか、ユーザーにとって課題解決になるかが確認できて、ようやく開発に着手します。

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出典:The Official Qiita Blog「Qiita初アプリ!kobito開発の裏側をご紹介

開発を始めるまでに数段階のステップを踏んでいるんですね。

海野:リーン・スタートアップと呼ぶ手法に近いですが、それを自分たちなりにアレンジしています。まずは課題を明確にしてそれをどう解決するのか、議論を積み重ねて、丁寧に検証していくことを心がけています。流行っているからなんとなく作ってみる、みたいなことは絶対にしたくないんです。

互いを尊重、飲みでも「敬語」――慣れ合いの関係はごめんだ

Qiitaチームでは「議論」がキーワードになっている気がします。

横井:もともと全員がじっくり議論できるタイプなんです。慎重派で理屈っぽいともいえますが(笑)。サービス開発も議論をベースに進めていきますし、たとえ議論がバラけてしまった場合でも、議論を続けていると自然と収束します。全員が議論できるメンバーだからこそ、こうして一緒に働いているというのもありますけど。

議論を成立させるのってなかなか難しいですよね。サービス開発を成功させる丁寧な議論には何が大切なのでしょうか?

小西:全員が同じ方向に向かっていることでしょうか。僕らの場合でいうと、どんなときでも必ずユーザーの方向を向いています

新機能を追加するにしても、「その機能はユーザーが本当に喜ぶものなのか、真に求めているものか」をまず考えて、検証するんです。議論の際には、何について話すのか、何をどう解決したいのかを明確にしてから始めるようにしています。

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チームメンバーからみた海野さん(写真中央)は「ピュアできれいな人」。真摯に、公明正大にユーザーのことを考える姿勢を貫く

プログラマ、デザイナー、マーケティングなど、各メンバーが異なるスキルを持っている。この「多様性」も、深い議論と関係している?

横井:全員がプログラマだとうまくいってなかったと思います。各自が「役割」を持っているので、「彼が言うことなら信頼できる」と安心して任せられるのは大きいです。また、尊重し合える関係を築いているので、どんなときでもお互いに敬語で話しています。

今お話を聞いている最中も、すべて敬語ですよね。年齢も近いのになぜだろう? と思っていました。

横井:そうなんです。仕事中はもちろん、飲みに行ったときでも敬語は崩しません。いくら仲が良いチームでも、なあなあな関係にはしたくないんです。緊張感のある関係性をキープすることが、開発におけるしっかりとした議論にもつながっていると思うんです。

成功の法則:地道、謙虚......愚直かつ着実に進むしかない

Qiitaチームについてもお聞きしたいです。

海野:僕らをあわせて10名で、開発/UX、IA、デザイン/ビジネス分野・広報に分かれています。半分が開発系の業務を担当ですね。現在エンジニアとデザイナーの仲間を募集中です!

Qiitaで働いてみたい方は採用ページを御覧ください(笑)。そのQiitaチームで働くために大切なことってありますか?

海野:期待以上のスキルがあるかどうかも大事ですが、それ以上に僕らの文化とマッチしている人かどうかというのは外せないです。「この人と一緒に仕事をしたいか」「1日の長い時間隣で仕事できるか」というのは見ていますね。

僕らは3人ともお酒が好きで食事に行くことも多いのですが、一緒に楽しくお酒が飲めるかという点も大事です。業務時間以外でも楽しく過ごせるメンバーと一緒に働きたいですから。

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小西さんは「クマ!」(横井さん)。見た目も似ているけどと前置きしつつ、「どんなにピンチの時でもどっしり構える支柱のような強さがある」

「ビアテスト」ですね。スタートアップのFablic(フリマアプリ「Fril」開発)もその点を重視していました。いかにチームの一員となって仕事を進めていけるか、という観点で見ているんですよね。

海野:サービス開発は決して一人でできるものではなく、一人よりも二人で、二人よりもチームで作り上げていくものだと思っています。スポーツでいうチーム競技のようなもので、みんなでやっていくものだからこそ、間違ったことを素直に認める姿勢も大切です。

開発が進むと辛くて追い込まれることもあります。大変な状況に置かれたとしても、前向きに議論できて、全力で仕事に取り組めることが大事だと思うんです。

同じ目標をともにし、議論を積み重ねられる。成功するチームの条件が見えてきた気がします。

海野:改めて成功の条件を考えてみると、(1)新たに始めようとしていることが、ユーザーのためになるかを最初に考えられること、(2)地道にコツコツと取り組めること、(3)謙虚な姿勢で進んでいけること――の3つが不可欠だと思うんです。全員が共通のゴールに向かって、それぞれの専門分野においてできることを着実に進めていくと、必ず成果は出ると思うんです。

スクラム開発を取り入れ、情報共有を何よりも密に

現在のQiitaの開発スタイルについても教えてください。

海野:「スクラム開発」(アジャイル開発のフレームワークの1つ)を実践しています。以前はタスクをどんどん追加して、重要なものから順に片付けていましたが、スクラム開発を始めて大きく変わりましたね。

具体的には、サイクルを回す時期を2週間と決め、その期間にすべきことを明確にし、全員に共有してスタートしています。区切りごとに振り返りを行い、次の2週間に生かしつつ開発を進めていきます。ミクシィさんやペパボさんなどでも取り入れられている開発手法ですね。

スクラム開発を取り入れたことで、どんな変化がありましたか?

海野:今まで見過ごしてしまっていた問題を洗い出して開発を進められるようになりました。その結果、障害が起きにくくなったり、開発スピードが遅くなる原因を見つけ出して、開発効率が改善されたりと大きな手応えを感じています。

開発を進める際に必要な会議はどんな内容、頻度で開催していますか?

横井:月曜にKPIミーティング、金曜に僕ら3人が集まる役員会議を1時間、その後社員全員の週次ミーティングと定例会議は少なめです。その代わりに毎日朝会という形で、みんなでその日のタスクを共有し合い、誰がどんな仕事をするのか把握しています。

会議以外でも対面で話し合いたいことがあれば、チャットで空き時間を聞いて、お互いに話をする時間を調整していますね。

情報共有のやり方(定例会議)
KPIミーティング 開発チーム主体で毎週月曜日
役員会議 創業チーム3人で週1回
週次ミーティング 全社員で週1回
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横井さんは「観察眼に満ちあふれたやり手のビジネスパーソン」(小西さん)。鋭い眼光は類まれなる観察眼の表れか

チャット以外の情報共有ツールの使い方を教えていただきたいです。

横井:まとまった情報を社内に共有するときにはQiita:Team、口頭で話すやりとりには「HipChat」を使います。HipChatは会議中の議事録や、何気なく話しているときに出てきた重要な発言を記録していますね。

ToDo管理は、開発以外のタスクに「Trello」、開発タスクに「Pivotal Tracker」を活用しています。情報共有を効率よく進めるために、用途によってツールを使い分けているんです。

Incrementsの社内情報共有ツール
Qiita:Team 社内でまとまった情報を共有
HipChat 会議中の議事録や会話のログを残す
Pivotal Tracker 開発タスクの共有
Trello 開発以外のタスク共有

QiitaやKobitoを作る開発チームの文化 - The Official Qiita Blog

ありがとうございました。最後にQiitaの今後の展望を教えてください。

海野:Qiitaのビジョンは「プログラマの誰もが楽しくプログラムを書いて、いろんなモノを生み出すことができる世界の実現を目指す」と明文化しています。今は大きな問題を見つけるたびに解決していくことに注力して、プログラマが楽しくプログラミングできる環境を作り続けていきたいですね。

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「久しぶりの取材だったし、創業チームの3人で取材を受けることはもうないかも。今回の取材ではQiitaチームを出しきった感あります」(Qiitaのみなさん)

Qiita創業チームが太鼓判:これだけは押さえておきたい「チーム本」

Qiita開発を成功に導いたのは、チーム開発を徹底している点が大きいです。小さなチームが、大きな仕事を成し遂げるために、どんな本を参考にしているのか。海野さん、小西さん、横井さんが愛読するとっておきのチーム本を紹介してもらいました。チーム内でも教科書代わりに読まれているそうです。

海野さんオススメ:『Team Geek ―Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか』

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コミュニケーション寄りの内容で「Humility(謙遜)」「Respect(尊敬)」「Trust(信頼)」をもって仲間に接することの大切さが説かれています。オンラインでのやりとりは顔が見えないぶん、対面でのやりとりよりも情報が少なくなりがちで、相手に冷たい印象を与えてしまうことも少なくありません。オンラインだからこそ言葉づかいをよりていねいにするなど、相手への思いやりを意識できる1冊です。


小西さんオススメ:『Running Lean ―実践リーン・スタートアップ (THE LEAN SERIES)』

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リーン・スタートアップをどう進めていくか、その過程でどのようなことを考えるかということを中心に、チームで共通言語を持つことの重要性が書かれた教科書的な本です。チーム内で議論がスムーズに進むと、ストレスなくものづくりができることを実感できた良書でした。


横井さんオススメ:『最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと』

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大学時代に読んで感銘を受けた本です。これまでトップダウン型の企業が少なくありませんでしたが、それではよい結果は生まれないのではないかと。社員ひとりひとりの個性を尊重し、コミュニケーションを図りながら、特性に応じて力を発揮してもらうためにリーダーは何を心がければいいのかが書かれています。


Qiitaを開発するIncrements株式会社とは

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Incrementsは、プログラマの誰もが楽しくプログラムを書いて、いろんなモノを生み出すことができる世界の実現を目指す会社。プログラマ向けWebサービス「Qiita」などを開発している。

(執筆:池田園子/撮影:橋本直己/編集:藤村能光)

著者プロフィール

ベストチーム・オブ・ザ・イヤー

ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。