ロボカップ大会で世界一、阪大・大工大の学生チーム「JoiTech」を頂点に押し上げた「技術力を超えるチーム力」
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日本代表がサッカーワールドカップで世界の頂点に立つ――。そんな理想が一歩現実に近づきつつある。ただしロボットの世界で。
2013年6月、大阪大学と大阪工業大学のジョイントチーム「JoiTech」が、ロボットの国際競技会「ロボカップ」のヒューマノイド・アダルトサイズ部門で並み居る強豪を押しのけて世界一となった。世界で一番というシンプルな目標に向かって学生が混成チームを組み、わずか数カ月という期間を走り抜けた。その原動力となったチームの作り方とは?
2050年、ワールドカップ優勝チームにロボットチームで勝つ
2013年の第17回ロボカップ世界大会で、大阪大学・大阪工業大学の混成チーム「JoiTech」が頂点に立った。人間型ロボット同士がサッカー競技で点数を争う「ヒューマノイド・アダルトサイズ」部門で世界一という快挙だ。
ロボカップの構想が始まったのは1993年のこと。発起人は大阪大学の浅田稔教授とソニーの北野宏明氏さんを中心とする若手研究者。「ロボットは動いてなんぼ、机上の学問ではつまらない」「世界の若手研究者で、人工知能分野で面白いことをやろう」という思いを形にしたロボカップは、「2050年のワールドカップ優勝チームに、ロボットチームで勝つ」という大きな目標を掲げている。
1997年の第1回ロボカップは31チームが参加した。当時は20チームがシミュレーションリーグだったが、2013年は世界から約400チーム、3000人もの研究者や子ども達(ロボカップジュニア)が参加する1大イベントになっている。その中で、JoiTechは日本発のチームとして優勝を果たした。
世界を獲ったJoiTechチームの成り立ち
JoiTechは学生13人と研究スタッフ数人が参加する混成チームで、学生は大阪大学と大阪工業大学から参加している。2012年末に初顔合わせがあり、2013年4月から開発に取り組んだ。同年5月の日本大会、6月の世界大会に向けて、わずか3カ月の期間をOne Teamとして走り抜けた。
メンバーのバックグラウンドは多彩だ。ロボカップ2012に参加したリーダーの大嶋悠司さんを筆頭に、別のヒューマノイド部門参加者、先輩の取り組みに触発された学生、ロボカップ日本大会に触発され、高専から編入してきた学生、部活でロボットを扱っていた学生――など。学部生から院生までバラバラの年次の学生がチームを成している。
「みんなの目標は、2013年のロボカップで勝つこと」。大嶋さんは力を込める。「ロボットがサッカーで競い合う単純なゲームですが、ゴールの精度を上げるのが難しい。去年は5回中1回ゴールできたら良い方だったが、2013年は3回ゴールを決めると優勝できると思っていた」。大学を超えたチームが「世界一になる」という1つの目的に向かうことになった。
自分でプログラムを書けるけど、メンバーに任せる
JoiTechチームを引っ張ったのはリーダーの大嶋さんだ。去年の経験から「この時期までにチームで何をすれば勝てるか」が見えていた。プログラムを自分で書けるスキルがありながらも、あえてチームをつなぐ役割に徹した。「2013年のメンバーは全員が優秀で高いレベルの技術を持っていた。それを駆使してロボカップを戦う」と決めていたからだ。
メンバーには「この時期までに、ロボットがこう動くように作って欲しい」といった指示を出す。要求する仕事のレベルは高く、「内心は無茶な仕事を頼んでいる」と分かっていた。それでもあえてメンバーに仕事を任せたのは、チーム全員で考えて前に進みたかったからだ。
「責任を持ってタスクをやり、できない場合はすぐにチームで共有して、メンバー全員で別のやり方を考える」(大嶋さん)。この姿勢が後に「目的を達成するために、チームにどう貢献するか」という考え方をメンバー全員に浸透させる。
例えばプログラム。過去数年同じプログラムでロボットを動かしており、練習環境ではうまく動作しない箇所もあった。「できるところはほぼすべて作り直した。メンバー全員がコードを読み、修正できるプログラムになった」とメンバーの河野さんは話す。自らが自発的にロボットの精度を高める動きを見せた。
「広瀬さんのプログラムはとてもきれいでレベルが高い、自分のレベルは足りないと認識できたから、プログラムの勉強も自発的にやった」(秦さん)
「役割分担の重要性を感じた。自分がやるのが一番手っ取り早い仕事も抱え込みすぎると良くない。みんなに仕事を振って、チームでビジョンに向かっていくことが大切だと思った」(広瀬さん)
突き抜けたレベルのメンバーが集まるからこそ、チームでやる
一人ではなくチームでやる方が、明らかに高いレベルでのアウトプットが出せる。そう気づいたJoiTechは、世界一への階段を着実に登り始める。「今年は特にずば抜けた技術力を持ったメンバーがそろっていた」と太鼓判を押すのは、大阪工業大学の田熊隆史先生だ。
「鈴木さんと柴田さんのハードウェア構築レベルが突き抜けていた。大工大はハードウェア、大阪大学はシミュレーションを含むシステム開発とチーム内で役割を分け、任せあっていた」(田熊先生)
「今年はいい意味でみんな突き抜けたレベルで、僕よりも優秀だった。去年は一人でやっていたけど、今年は安心して任せられた。個人ではなくチームで仕事をした方が、みんなが自身の役回りを突き詰めてくれる」(大嶋さん)
こういった形で中途半端に自分だけで仕事をせず、任せあえる関係が自然とできていった。
目的が一致しているから、助け合える
チームの結束力を高めたJoiTechは、日本大会優勝の勢いそのままに世界大会に乗り込んだ。しかし、そこには高い壁が立ちはだかる。試合会場のコンディションが想定と違い、ロボットが半分程度の力しか出せず、思い通りに稼働しなかった。また、世界のライバルチームの技術力が躍進しており、「このままでは負ける」と大嶋さんは感じた。
会場に入ってからは、ホテルに帰った後、夜中までロボットのチューニングを繰り返した。徹夜もいとわない。「世界大会中も必要だと思ったから、みんなでチューニングをし直しましたお互いを叱咤しながらも、忙しいメンバーには積極的に声を掛けてサポートする。自然とそういうチームになっていましたね」(大嶋さん)
1つの目的を達成するために、メンバーが自律的に動く。土壇場でチームが力を発揮するには、チームの意思疎通が必要だ。それがスムーズに実現できていたのは、世界大会までに毎週1回必ず全員で顔を付きあわせていたことが大きい。
「世界大会前もみんな忙しかったのですが、ロボットがある浅田研究室に1周間に1度は集まるようにしていた。ロボットを見ながらの方がすぐに動けるし、みんな自然とロボットの周りに集まってくるんです」(大嶋さん)。顔を合わせながらディスカッションを繰り返し、できることを継続し続けることで、チームが最高の状態になっていった。
負けに不思議の負けなし、細かいことを徹底にやりきる
浅田教授は「世界で勝つためにはあらゆる要素が完璧でないといけないが、その中でも当たり前のことをメンバー全員でやり続けることが重要」と指摘する。「負けに不思議の負けなし」という野村克也さんの言葉を引用しながら、基本を何より大事にしたJoiTechチームの姿勢を評価する。
その基本姿勢とは「ネジを締めるなど、細かなことにも気を配る」ことだった。「プログラムをきれいに書いたり、ゆるんだネジを締め直したりするといった、勝因には直接つながらない細かいことを地道に積み重ねられるかどうかが大切」(広瀬さん)
試合ごとにロボットの400本ものネジを締め直すことは、気を配りすぎかもしれない。しかし何か1つの小さな処理でも、面倒臭がらずに全員で対応した。「チェックは絶対してくれ! と言い続けて、みんながそれを大事に思ってくれた。だからこそ勝てたのかも」(大嶋さん)
「去年はJEAP(別のヒューマノイド部門参加チーム名)、今年はJoiTechとして、ロボット整備の責任は常に感じていたし、事務作業も重要な仕事として取り組んだ。グループで活動するときは、細々したことも徹底してやり切るのが大切」(豊山さん)
ビジョンをともにできるチームだからこそ、世界で勝てた
「チームで何をすべきかをみんな分かっている。ビジョンがあって、リーダーがチームを導いて、自分が自律的に動ける。そんなチームで働けて幸せだった」(柴田さん)。「二足歩行ロボットを扱った経験も知識もないところから始まって、みんなでカバーし合えた。そういうチームのやり方が大切だと思った」(鈴木さん)
JoiTechの面々が発した言葉からは、チームが世界で勝つヒントが見えてくる。単にロボットの性能が優れているだけでは、世界では勝てない。ともに1つの目的に向かうチームを作り、メンバーがそれぞれの分野で最高の仕事をしながら、チーム一丸で立ち向かえた。そこが勝利の秘訣だったのではないだろうか。
「過去のロボカップ世界大会では我々のチームに負け根性がしみついていたが、JoiTechは違った。ロボカップは、文化や言語の違いなどを肌で体感する修行の場であり、ロボットの性能以外の壁を超えないといけない。それを超えるとチームワークが身につく。これからも日本チームは世界のハードルを超えていける」(浅田先生)
JoiTechが得たロボカップ世界一という称号を支えたつながりは、「本物のチームワーク」だった。
(取材・執筆:藤村能光/撮影:しかたこうき)
著者プロフィール
ベストチーム・オブ・ザ・イヤー
ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。