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業務時間外のプロジェクトが、半年で法人化できたワケ――ミクシィの新規事業「ノハナ」スタートアップチーム

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※ベストチーム・オブ・ザ・イヤーのサイトから移設しました

株式会社ミクシィの新規事業「ノハナ」が好調です。「家族の絆を強くするサービスを作りたい」という思いを持ったメンバーが業務外の時間でプロジェクトを始め、サービス開始から半年で「ノハナ」を法人化しました。

mixi誕生時のようなスピード感で新しい価値を作り出す試みです。 実は新規事業の社内公募制度であるイノベーションセンター新設前から、業務時間外プロジェクトとして準備が始まっていたノハナ。わずか4人で立ち上がったプロジェクトがサービス開始から半年で法人化できた裏には、スタートアップに独特な"チームへの仕掛け"がありました。

立ち上げチームメンバーの馬場沙織さん、田中和紀さん、大森和悦さん、辻健太さんに話を聞きました。

子どもに気付かされた「家族の絆」の大切さ、mixiではできないサービスを作りたい

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ノハナは、スマートフォンにアップロードした写真を家族だけで共有し、簡単にフォトブックを作成できるサービスです。写真共有の手軽さに加え、毎月無料で1冊のフォトブックが受け取れます。開始からわずか半年で、約20万人が380万枚の写真をアップロード。約10万冊のフォトブックが発行されるまでに成長しています。

ノハナが始まったのは2012年5月。有志のメンバーが業務時間外のプロジェクトとして準備を始め、9カ月後の2013年2月にサービスを開始しました。この好調さを受け、さらなる事業拡大に向け、2013年9月に法人化を果たしました。

「子どもが生まれたときに家族の大切さに気づき、もっと家族の絆を強められないかと思ったのです」。ノハナの発起人でチームリーダーを務める大森和悦 代表取締役社長は、SNSを運営するミクシィ社で家族向けサービスを開発したきっかけをこう語ります。

「mixiはコミュニケーションを生み出すサービスですが、おじいちゃんやおばあちゃんともコミュニケーションができるかと考えると、正直難しい部分もある。どんな世代の人も分け隔てなくつながれるサービスを考えて試行錯誤する中で、最終的にフォトブックサービスにたどり着きました」(大森さん)

コンセプトを思いついた当時、社内にイノベーションセンターはなく、新規事業は本業に差し支えのない業務外に独自に進めることに。それでも「家族向けのサービスをやりたい」という思いは変わらず、一緒に取り組む仲間を探し始めます。集まったのが、大森さんと同じく子どもを持つベテランデザイナーの馬場沙織さん、新卒3年目、4年目のエンジニアコンビ、辻健太さんと田中和紀さんでした。

チームメンバーの共通点は、全員が結婚・出産や就職といったライフステージの変化によって家族の大切さを再認識していたこと。「もっと絆を深められるサービスを作れないか」という思いをみんなが持っていたため、声が掛かった時に二つ返事でOKしたそうです。

特にエンジニアの田中さんは入社以来、「家族向けSNSをやりませんか?」と社長に言い続けていました。その願いが思わぬ形で実を結ぶことになったのです。こうして、忙しく本業をこなす中、「家族向けサービスをやる」という強い意志をもった4人の"業務時間外"プロジェクトがスタートしたのです。

「全員がやれることをやる」「それでもダメなら諦める」

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サービスインからすぐにヒット、約半年で法人化――。結果だけ見るとノハナは順風満帆に見えますが、成功までの道のりは決して平坦ではありませんでした。その壁となったのが「3カ月ごとに訪れる事業継続のための審査」であり、すべての新規事業に対して課されるものです。結果がふるわなければ新サービスは撤退を余儀なくされます。

「事業開始から立てた目標を振り返り、達成したかどうかを見ます。審査対象は『サービスのリリース』ではなく『リリース後の数字』です。ノハナはフォトブックを注文するユーザー数と売り上げが目標でした」(馬場さん)

「高い目標数字を設定しないといけませんし、どうしてその数字なのかをロジカルに説明できないといけません。ノハナチームはなんとか目標を達成し続けられましたが、楽なことは1つもありませんでした」(大森さん)

ノハナチームは、大森さんが事業計画の策定やビジネス・マーケティングを担当し、馬場さんがデザイナー兼プロダクト責任者としてサービス全体を統括。エンジニア2人も企画に深く携わり、自ら画期的な技術を開発するなど、若手ながら積極的にチームに貢献しています。それぞれ明確な役割分担はありつつも、3ヶ月という短い期間で目標を達成するためには、「全員がやれることを、何でもやっていますね」(田中さん)

一方で、「事業の撤退基準が明確なので、後腐れがなくていい」と馬場さんは言い切ります。チーム一丸となり「やれるところまで一生懸命やって、それでダメなら諦める」という覚悟がノハナチームを支えているようです。

実際、全員がノハナの開発に専念できたのは、サービスインの1カ月半前でした。それまでは本業との兼業で進めていましたが、ノハナのサービスインにあたり、そのわずかの期間でアプリ開発、課金や配送システムの仕組み作りなど、すべての仕事を全員で進める必要がありました。

「4人でこんなに大変なことはできないんじゃないかと思う作業量だったので、1カ月半で終えたのは奇跡だと思います(笑)」(辻さん)

3カ月で結果を出す、早い決断と改善サイクルがチームの判断力の成長につながった

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わずか3カ月で明確な結果を出すには、何よりスピード感が求められます。 イノベーションセンターで設定した3カ月という期間には、「事業の成功率を高めるスピード感を作り出す」という明確な狙いがありました。

「ベンチャー企業であるミクシィ社で働くメンバー全員が、スピード感には慣れているつもりでした。しかしイノベーションセンターではこれまでの経験以上の水準が求められます。早い決断・改善を繰り返すうちに、チーム内で『ここは行くべき』『ここは引き時』といったビジネスの判断基準が養われてきました。メンバーが迷った際の最終決定は私がしますが、個々の判断に任せることがほとんどです」(大森さん)

「この完成度で出すの? と、正直今までだったら躊躇するような決断を下すこともあります。できること、切り捨てることを見極める毎日ですね」(馬場さん)

「不十分かもと思いつつも、ある程度目をつぶらないと、このスピード感についていくことはできません」(辻さん)

メンバーに戸惑いはありつつも、この壮絶なスピード感がチーム全体の考え方に変化をもたらしているようです。

「80%の完成度でサービスを出すことで、ユーザーの方にご迷惑がかかり、厳しい意見も頂戴します。一方でこれらのフィードバックによって、『このまま進むべきか、引き返すべきか』という答えが見えてきます。あえて粗削りな状態で出すことが、非常に効率的な方法だとも思っています」(馬場さん)

  

短いスパンでの継続審査という目標設定が、結果として迅速なサービスの提供と質の向上につながっている。それがノハナの成功を支えています。現在、約30万冊のフォトブックが発行されていますが、これを近い将来100万冊にすることが目標です。

大森さんを始めとし、「家族向けサービスが作りたい!」という各メンバーの強い思いから結成された社内の1チーム。法人となり、これからさらに多くのユーザーを巻き込むことは必至です。「1組でも多くの家族を笑顔にする」という目標に向かって、ノハナチームの挑戦はこれからも続きます。

(取材・執筆・撮影:公文 紫都/企画編集:椋田亜砂美・藤村能光)

著者プロフィール

ベストチーム・オブ・ザ・イヤー

ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。