若手ビジネスパーソンの7割が仕事の「引き継ぎ」に不満
※ベストチーム・オブ・ザ・イヤーのサイトから移設しました
その年の「ベストチーム」を表彰し、チームワークの向上を考えるベストチーム・オブ・ザ・イヤー実行委員会は2013年3月19日、部署異動に関する引き継ぎの実態調査の結果を発表しました。結果を元に、名古屋商科大学経営学部の北原康富教授の考察を添えて、「チームワークが良くなる引き継ぎ」について考えてみます。
仕事の引き継ぎの実態と問題点
引き継ぎ期間を聞いたところ、56.7%が「1週間以内」と答えています。うち「3日以内」と答えた人が約3割です。業界別で見ると金融業界では80.8%が「1週間以内」であり、他業界よりも短い期間で引き継ぎをしています【図1】。
「今回は「引き継ぎを受けた人」に関する調査ですね。職場を移動する場合、「引き継ぐ」と「引き継がれる」という2回の引き継ぎを経験する人が一定数いると思います。「1週間」と回答した人の多くは実質2週間(およそ半月)を引き継ぎに使うと考えると、「1週間」は短くないですね」 「1週間超という長い期間を引き継ぎに要するという回答もあります。その場合は、オン・ザ・ジョブ・トレーニングの教育の機会になっています。長期雇用が前提の日本企業では組織の変更に伴い、頻繁に社員の配置が転換されます。企業経営の視点において、社員が多様な経験を重ねることが重要と考えられていますので、引き継ぎ期間の長さは積極的な人的投資の結果ともいえます」(北原)
引き継ぎを受ける際の問題点では、71.2%の人が「(問題が)あった」と回答しています
問題の内訳は「十分な時間が無かった」(59.9%)がトップで、「これまでの業務もあり、引き継ぎの余力が無かった」(37.4%)、「仕事の全体像や過去の履歴が分からないまま引き継がれた」(35.6%)、「引き継ぎ資料はあったが説明があまりなかった」(35.1%)が続きます。業務マニュアルは存在しているか
引き継ぎの手順や引き継ぎに関する業務のマニュアルの有無は、「両方とも無い」とした回答が45.8%と約半数になりました。引き継ぎに関する会社のルールや業務マニュアルの文書化があまり整備されていない様子が伺えます。
「一方で、引き継ぎのルールが手順化されている回答も30%あります。これは繰り返し引き継ぎが行われているからと考えられます」(北原)
引き継ぎのツールについては、「紙文書」(64.7%)、「Excel」(59.3%)、「口頭」(59.3%)の順となり、現在でも「紙文書」が重要視されています。紙以外の引き継ぎツールは「Excel」が多用されています。
業種別に見てみましょう。情報・通信業界では紙文書と各種ツールを使ったデータによる引き継ぎが他業界より多く、業務の文書化がもっとも進んでいます。一方メーカー業界では「紙文書」と「口頭」が同率であり、サービス業界は紙文書よりも「口頭」と答えた人が多いです。
「会社の仕事には、同じ業務を繰り返す「定型的業務」、繰り返しのない「非定型的業務」、その中間の「半定型的業務」があります」 「定型的業務は一貫性・一定の品質・効率性を向上させるため、文書化や手順化が進んでいます。非定型的業務は、少しつづ変化する業務、言葉や絵では表せない業務です。「あやとり」のやり方を文書で伝えることは難しく、口頭や動作で伝えるのが効果的です」 「引き継ぎのツールを見ると、金融業種は「文書」、サービスは「口頭」が多いです。金融業種は定型業務の割合が多いからでしょう。人によって仕事に違いがあると困るため、誰でも同じように業務を遂行できる設計がされているのでしょう。その結果、最初の調査結果の引き継ぎ期間も短くなっていると思います。」 「常に業務が変化するサービス業は、やって見せないと伝わらない業務が多いです。またITなど情報業は業務の中間生成物が情報やデータであり、文書やデータの引き継ぎが多くなります」
時間も文書も無い引き継ぎは、上司への不満に
業種別に引き継ぎの問題点を見てみましょう。「これまでの業務もあり引き継ぎの余力が無かった」という回答は業界で大きく分かれ、サービスやメーカーでは現業務との兼任で引き継ぎが行われています。
情報・通信業界では、文書が存在している反面、「書いてあることが分からない」という回答が他業界に比べて多く、文書化のデメリットが際立っています。引き継ぎの時間や余力、文書がないサービス業は、上司への不満も他業界と比べて多いです。
職種別では、営業系職種は「引き継ぎの時間」や「文書の説明が無かった」という回答が多く、職種特性が反映されています。一方技術系職種は、文書のわかりづらさはあるものの、全体像や過去の履歴も踏まえた上で引き継ぎがされており、かつ「上司や周囲のフォローがない」も職種別で最下位となっています。職種柄、仕様書などのマニュアルのもと、上司やメンバー含めたチームで行う業務が多いのかもしれません。
引き継ぎを業務改善の機会に
過去に受けた引き継ぎに関しての意見(自由回答)で、「1週間以上の引き継ぎ期間」があった人のコメントを一部抽出すると、「成功したとは思っていない」という意見がありました。引き継ぎ期間の長短と、実際の引き継ぎにおける満足度の間には、必ずしもイコール関係があるとはいえないようです。
ベストチーム・オブ・ザ・イヤー実行委員会は、引き継ぎの成功には、引き継ぎをする人と受ける人の「現在の業務と引き継ぎ業務との適切な仕事配分」と「誰が読んでも分かる業務マニュアル」が必要と結論付けています。仕事の引き継ぎで部署異動の効果が出るチームを作り上げていくことは、チームリーダーの重要な役割だと結んでいます。
「2点は必須でしょうね。まずは引き継ぎに必要な時間をきちんと見込んで計画しておくこと。マニュアルが無くても、最低限、引き継ぐ業務を階層的に分解して、項目を書き出すことを勧めます。引き継ぎ業務の全体が分かると、両者が安心できます。 引き継ぎをする人にとって、引き継ぎは業務の棚卸であり、過去の仕事を俯瞰するよい機会です。引き継がれる人は、新しい仕事を学ぶ貴重な機会と考えると良いでしょう。引き継ぎを通じて今まで気づかなかったムダや矛盾が見つかると、業務改善にもつながります。 引き継ぎは一見効率の悪い期間になるかもしれませんが、リーダーは引き継ぎを「組織の息継ぎ」という有意義な期間と考えてみてはいかがでしょうか」
4月から新たな気持ちで仕事に臨むためにも、気持ちの良い引き継ぎをしていきたいですね!
著者プロフィール
ベストチーム・オブ・ザ・イヤー
ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、2008~2016年の間、最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを、毎年「いいチーム(11/26)の日」に表彰したアワードです。