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山田理・組織戦略室長

イキイキワクワク仕事ができる
新たな組織デザインとは
サイボウズが目指す
「情報共有
トランスフォーメーション」

新型コロナウイルス禍などの環境変化を受け、日本でもデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めたいと考える企業が増えてきた。だがその多くは新しいデジタル技術の導入にとどまり、組織デザインの改革まで踏み込んだ取り組みは限定的。デジタル技術を生かした新たな組織のあり方についてはいまだ悩んでいる企業も多い。その中でサイボウズが新たに打ち出そうとしているのが、情報共有を元にした新たな組織デザイン「情報共有トランスフォーメーション(IX)」だ。彼らはなぜその必要性を感じ、具体的にどのようなメソッドを通じてその導入を進めているのか。山田理・組織戦略室長に聞いた。

副社長の肩書はずして決意表明

――山田氏は、先日「副社長」の肩書を外したそうです。一種の決意表明だそうですが、どういう狙いなのでしょう。

格好良く言わせてもらえるなら、個々のメンバーが主体的に、それぞれの個性を重視して働けるチームを作りたい、という話です。ヒエラルキー組織の中で忖度(そんたく)しながらだと、なかなかイキイキワクワクした仕事はできませんよね。でもフラットな組織運営は簡単ではありません。たとえば権限を持っている人などは、フラット化すると失うものがあるため、組織改革の際にはボトルネックになってしまう……。と、そこまで考えたときに、これは副社長である自分自身ではないかと気づいたんです。副社長という肩書を外し、組織戦略室長だけになったのも、そうした気づきがあったからでした。

 それに肩書がなくなっても、自分が取り組んできたこと、その影響力は残ります。何が起きるか分からないけど、肩書を外して、一人ひとりがワクワクできるようにしたいと考えました。

――肩書を外してまで作ろうとしているチームとは、どのようなものでしょうか。

権限で決めるのではなく、やりたいからやるスタンスで動くチームです。自律分散型といいますか、やりたいことについて共感を集め、それがチームになるというのが理想です。それに、ヒエラルキー型のチームだとトップ個人の能力が組織の限界になってしまうと感じています。自分はサイボウズ内でも古株で、失敗を含めていろいろな経験をしてきました。でもサイボウズが大きくなってから来た人はどれだけ失敗できたでしょうか。もっと多くの人に失敗から学ぶ機会を持ってほしいと思います。

山田理・組織戦略室長

情報共有「3つのアプローチ」

――新しい組織デザインを打ち出していますが、そのような考えに至った背景は。

現代は組織デザインの前提、特にインフラと価値観が変化している時代です。インターネット以前の組織は、権限を集約する方が効率的な時代に合わせてデザインされていました。しかしインターネット以後の世界では情報共有の方法が変わっています。ネットが当たり前に存在している中で育った若い人の価値観も変化してきています。でも、組織デザインはいまだにインターネット以前を参照しながら作られているのが現状です。

 今までは子育て中の人は、短時間勤務で参加できるミーティングが限られるなどの制約が生じ、情報が手に入らないためにその能力を生かされないままでした。ですが今ではリモートワークの拡充などで場所の制約から解放され、時間もうまく使えるようになっています。IXを進めれば、こうした人々の力を使い、やりたいことを実現できるかもしれません。マネジャーにとっても、そうした人々の活用により自らの役割のいくつかを委譲でき、意思決定の負担を減らせます。

――具体的には情報共有を生かしてどのように変革を進めればいいのでしょうか。

自分たちのチームを作る中で、いろいろな形で情報共有を進めてきました。その中から3つのアプローチを考えています。1つ目は自律分散型のマネジメントサイクル。意思決定に必要な情報を集め、実際に取り組む人がきちんと主体的に動けるよう、一つ一つのプロセスで情報共有をしていきます。2つ目は個性を生かすエンゲージメントピラミッド。人間の欲求に関する「マズローのピラミッド」から考えたのですが、自己実現をいきなり求めるのではなく、その前段階である所属や承認欲求にも目配りしています。3つ目は風土を創る制度構築プロセス。顧客(社員)が求めるもの、ニーズをまず見つけだし、コンセプトを考え、最終的なルールにしていく方法で、ここでも情報共有を進めます。

変革への3つのアプローチ

誰でもできる「型」を伝えたい

――サイボウズ内では具体的にどのようなIXを進めているのですか。

例えば「モヤモヤ共有アプリ」があります。もともと、普段からの「モヤモヤ」を解決するためのマネージャー向け合宿をやっていましたが、最近は全社員に発言しやすい心理的安全性を確保したうえでモヤモヤを共有してもらい、問題の見える化を進めています。また、最近始めたものに「助言アプリ」があります。より精度の高い意思決定をするために起案者が広く助言を求める仕組みであり、意思決定の分散を進めるためのプロセスの見える化としても機能しています。また意思決定者フィードバックという仕組みも数年前から導入しています。意思決定やそのプロセスについて無記名で全社員からフィードバックを受けるものです。

――そうやって作り上げたメソッドを、これからサービスとして提供していきます。

情報共有の重要性は理解してもらえると思いますが、我が社はコンサルティング会社として伝えたいと考えているわけではありません。コンサルティング会社は彼らでないとできないことをやりますが、我が社は誰でもできる、情報共有の「型」を伝えたいと考えています。投薬や手術のような大がかりな取り組みではなく、気軽にできるストレッチのようなものですね。トップダウンで仕事をしたいと考えている人には向いていませんが、イキイキワクワクとしたチームを作りたい人には情報共有できる仕組みに変えるのをサポートします。具体的には講義やワークショップを組み合わせたサービス、併走型のアドバイザリー支援を提供します。

――新しい時代の組織をどう変えていくか、頭を悩ませている日経読者は多いと思います。最後に読者に向けたメッセージをお願いします。

革命はトップダウンではなく、草の根から始まります。会社を働きやすいものにするために、たとえばまず隣の人と情報共有するところからはじめてみてはいかがでしょうか。そこから隣の部署、直属ではなく斜め上の上司などに広げ、仲間を増やしていけば、組織は変わります。誰でも簡単に、継続的にできる取り組みで、イキイキワクワクとした職場を作っていきましょう。

2021年12月1日~2022年1月14日に日経電子版広告特集にて掲載。

山田 理

プロフィル
山田 理

やまだ・おさむ 1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズ入社。取締役として財務、人事および法務部門を担当。14年、サイボウズUSA立ち上げのためシリコンバレーに赴任。20年、本格的なグローバル展開に向けた組織づくりのため、組織戦略室を新設。著書に「最軽量の教科書」(サイボウズ式ブックス)、「カイシャインの心得」(大和書房)がある。